第2話 上陸



 9月4日 不快感で起き上がる気力が湧かない。当然朝食もとれず大部屋でゴロゴロしていた。室内のテレビでは映画が上映されている。シルベスタ・スタローンの「オーバー・ザ・トップ」、腕相撲のチャンピョンになる話しだ。主人公が同じでもロッキーと比べたら地味な映画だと思いつつ見ていると感動して泣きそうになってしまった。子供がカワイ過ぎる、ウ〜(T_T)。

 昼頃、なんだか元気なウチヤマが「北海道見えて来ましたよ」と知らせに来てくれた。現金にもぴょんと犬みたいに立ち上がり甲板に走った。外は晴れだ。遠くに熱気あふれる有珠山の異様な山並みが見える。何ともゾクゾクする風景ではないか。そして来たんだという実感が凄く湧いてきた。早く上陸したい。思いっきり走りと景色を堪能したい。いつの間にか船酔いなどふっとんでいた。爽快な気分だ!

 13:00 苫小牧上陸。思ったより大きな街だ。きのう考えた予定通りウチヤマのスカイラインの先導で帯広に向かった。街を抜けるとやはり景色が凄い。道幅も意外に広く、あちこちの牧草の緑が目に沁みる。

 それにしてもライダーの数、ちょっと半端じゃない。ほとんどが本州からのツーリングだろう。彼らもこの景色に心が開放されるのかまず間違いなくピースサインを送ってくれる。なぜか黒人女性のバラード調の曲が聴きたくなってきた。深い意味はないけど。

 途中、ドライブインで昼食をとり(朝から何も食べてなかった)内陸部へ進む。やがて日勝峠(交通の要衝)に入ると俄かに曇りだし雨がぱらついて来た。標高が高くなるにつれ霧も濃くなる。どうやら天気は降り坂のようだとぶつぶつ言ってると突然ダートが!

 あわや転倒かと思ったが何とか乗り切ることができた。

 道が平坦になってきたので間もなく帯広市内かなと思ってるとウチヤマが突然減速し、巡航速度をキープするようになった。おかしいと思っていたら官憲によるレーダー取り締まりだ。昨夜、ウチヤマは道内のクルマにはレーダー探知機をつけている人が多いと言っていたな。もちろん彼も例外ではない。なるほどね。気をつけないと。

 帯広市内に到着。今夜泊まるのは無料の”カニの家”というライダーハウス(以後RH)だ。自衛隊の宿舎に戻らなければならないウチヤマとはこの付近で別れた。もちろん深くお礼を言って。近くの喫茶店で受付を済ませRHを確認する。大きな常設テントの中に畳が敷き詰められているだけの簡易なつくりだが地元の方の好意には感謝申し上げたい。貧乏学生の僕にはホント大助かりだ。

 中に入ってみるとぞんがい混んでいる。なにせタダだからなぁ。入り口付近で管理人らしき人が若きライダー達に「俺は東京に行きたい」とか熱く語っていたので挨拶だけして奥に進んだ。

 何とか一角をキープして一息ついたら我が物顔で大騒ぎしている連中がいた。後で他のライダーから聞いたのだがここを根城に連泊してヌシづらをし、大騒ぎする一団が巣くっているとか。そいつらの妙な共同体意識のお陰で新しく着たライダー達は隅っこに追いやられ、すごくみじめな思いをしてるらしい。せっかく北海道まで来て何と了見の狭い連中だろう。馴染めないなあ(思えばRH等に居座る旅人の不倶戴天の敵、「ヌシ」嫌いになった遠因は、この一件がモチベーションになったと思う)

 それでも良識的かつ社交的な本来の旅人ライダーも多く、彼らと楽しく情報交換をしてシュラフに入った。外は激しい雨が降っている。