北海道ツーリング2005後編



雄冬キャンプ場の夕陽







「何時だ?」
 やはり、かなり遅い時間に目覚めた。7時は過ぎてるだろう。旅のなかの俺としては完全に寝坊だ。

 定番の納豆ご飯を食べようかと思ったが、さすがに飽きてきた。たまには朝食も外食してみよう。

 ダラダラと撤収作業を開始した。そして稚内森林公園キャンプ場の長い下りをゆっくりと降りきった。そして道路を右折すると驚愕の展開が・・・

 事故だ!

 トリッカーが吹き飛ばされ、道路に男性が倒れていた。大変だ。どうやら、地元のおばさんの自家用車と出会い頭に衝突したようだ。周囲には既に人だかりが出来始めていたが、俺になにか出来ることをしないと。とにかく交通整理だ。

 間違いなく森林公園キャンプ場で野営したライダーだし、よく考えると、昨夕、オロロンラインで俺が追い越した男性だ。

 彼は不自然な姿で横たわっていて動かなかった。

『絶対に死んじゃダメですよ。必ず北海道から生きて戻らないと』
 心の中で、呟いていた。知床岬まで縦走しようが、険しい山を踏破しようが、どんなに凄いことをやり遂げたって無事に帰らないと意味はない。家では無事の帰還を待っている人が必ず居るんだし。

 俺は救急車が来て彼を搬入する瞬間まで見届けた。

 正直、かなりヘコんだ。

 その後の消息は不明であるが、どうか助かって欲しい。
 もう、急いで行動するのは止めよう。特になんの制約もない旅だ。ゆっくりと南下することにした。

 南稚内駅前で、喫茶店のモーニングサービスを発見したので、躊躇わず入った。

 久しぶりにバランスのとれた朝食だ。少し、食欲を失っていたが、無理して腹に詰め込んだ。

 しかし、クーラーをかけているというのだが、外より暑かった。
 トイレも済まし出撃。とにかくオロロンラインを南下だ。昨日と最初はかぶるが、その先、増毛町の雄冬キャンプ場ぐらいまでは辿り着きたい。

 昨夕は、海上のガスで利尻山がイマイチ拝めなかった。夕日ヶ丘パーキングで、利尻の方角を見るとぼんやりと利尻富士が海上に浮かんでいるのを確認できた。オロロンラインを走るライダーは、利尻富士が見えないとがっかりしてしまうものなのだ。 
 オロロンラインをゆっくり、まったりと快走した。天気は快晴、温度は酷暑。でもマシンに跨っていると心地よい風が全身に吹きつけてくる。サロベツ原野の風景は他に形容し難いほど美しい。

 鏡沼海浜公園キャンプ場へ入る。今回は、ここでキャンプするつもりはない。キャンプ場に隣接する「てしお温泉夕映」で汗を流すことにした。

 この公営の温泉施設の湯船は展望のよい2Fにある。広くて種類のある浴室だった。石鹸で体を洗い、露天風呂でくつろぐ。ツーリングに温泉は実によく似合う。

 非常にさっぱりし、炎天下のオロロンラインを南下する旅はさらに続く。
 苫前に入ると既にお昼を過ぎていた。昼食にするか。道路脇に「うに食海」というお店を発見し、右折した。

 漁師さん直営の店で、生簀のウニを食べさせてくれるらしい。でもさすがにウニ丼は高い。他にも定食があるので、どうしようかと暫し悩む。考えてみたら、この旅で、まだウニは食べてなかったので思い切ってオーダーしてみた。

 なかなか美味かった。やはり、観光地で食べるウニとは一味違うようだ。
 留萌を抜け、増毛に入る頃、渋滞が始まってきた。間隙を抜けながら雄冬キャンプ場へ入った。このキャンプ場は夕陽が綺麗な穴場スポットである。

 さっそくテントの設営を始めると隣のファミキャンのオヤジが、そこは仲間のテントの張るところだから、どいてくれと言われる。
『オマエ、馬鹿か?』
 またプツン、プツンと俺の頭が音を立ててキレ始めたが、横に居た別のオヤジが不穏な空気を読み、
「申し訳ありませんでした」
 と平謝りをし出したから、不発に終わる。
 無料のテントサイトは、なにか目印でも置けば別だが、知らずに来るキャンパーにいきなり「どけ」なんて言ったら、絶対にトラブルになるだろう。

 空いている部分にテントを張り、とやかく言われる筋合いなどまったくない。誰の土地でもないし。モノは言い方ひとつだと思う。最初に「すいませんが、こういう事情で」と言えば話は分かる。幸いワタクシは非常に温和な性質だから大きなトラブルにはならなかったけど。

 そんな話は置いといて、この夕陽の美しさはなんだ。心の醜い先ほどのオヤジは見る資格がない。久しぶりに見た雄冬の夕陽はメチャメチャ綺麗だ。大感動してしまう。

 粗末な夕食を済ませていると、一台のオートバイが入ってきた。
「隣にテント張らせてください」
 と言ってきた。
『どうぞ。テント張ったら、一緒に飲まない』
 俺が、少し酔い心地で言うと彼はニッコリと頷いた。

 彼は仙台から青森まで自走で来たそうだ。そして函館から、ここまで、一気走りらしいい。
「ぼくは道内の滞在日数が短いので、ここがいい中継ポイントなんですよ」
 明日は利尻へ上陸し、明後日には徒歩で利尻島一周、鉄人コースへチャレンジするとのこと。

「このキャンプ場は、以前は本当に人が少なくて居心地がよかったのですが、近年は札幌あたりの良識のないファミキャンにもバレてきて、泊りづらくなりましたよ」
 やっぱりな。俺も6年前に利用したときは、こんなんじゃなかった。

 そんな情報交換を暫しして、ほどほどの時間にシュラフ入る。

 ファミキャンが遅くにロケット花火を打ち上げていたが、旅の疲れが溜まりに溜まっている俺は、既に爆睡モードになっていた。 




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