北海道ツーリング2005後編




羊蹄山をバックに







 5時起床。今朝は寝坊は免れた。今日も天気がいい。必ず暑くなるだろう。さっそくテント乾し作業を開始した。

 すると仙台のライダー氏も起き出してきた。
「おはようございます。早いんですね」
『おはようございます。今朝は久々に早起きしました』
 俺は吹き出しながら答えた。
 荷物をまとめパッキングを始めた。改めて俺の荷物の多さには辟易する。

 荷物をマシンに積んでいるとサイドカーを駆った老人が現れ、近づいてくる。こういうのが正直苦手である。案の定、話しかけてきた。
「今日は、どこへ行くの」
 いきなり他人に行先を訊いて、なんのメリットがあるのだろうか。
『積丹半島方面です』
 俺は作業の手を止めず応えた。
「あっそ、積丹ね」
 俺の気のない素振りに気づいたのか、今度は仙台のライダー氏の方へ話しかけていた。やはり、あまり相手にされなかったようで、サイドカーに跨り、北の方角へ消えて行く。

 今回、こういう老人を多数見かけたがなんなんだろう?若い頃にきちんとした旅の経験がなかったのか?俺は偽善者ではないので正直に描く。交流は大事だが、無理に若い者へ迎合し過ぎだ。初対面の人間に挨拶もしない、名乗りもあげずに行先だけを問う。本当に理解に苦しむ掟破りな所業だと思う。旅って、人のことより我が道を行けばいいんじゃないのか?

 パッキング終了。仙台の彼に別れを告げ出撃。

 早朝の海岸線の道は、涼しくて気持ちがいい。道も空いているので、かなり距離を稼ぐことができた。

 小樽が近づいてくるとお盆の渋滞が始まっていた。これだから都市部を走るのが、好きじゃない。

 小樽に入った。ギンギンに暑い。耐えられないほどだ。しかも、凄まじい渋滞にはまった。すり抜けを駆使し前進する。トンネルの中で、動きがとれなくなると地獄だ。まさに情熱熱風セレナーデ(古い)状態。気が狂いそうになるくらい熱かった。これが北海道かと疑わしくなる。

 ようやく余市に入ると9時をまわっていた。小樽に入ってからは、ずいぶんと時間を浪費してしまう。

 余市、ここまで来たら「柿崎商店」だろう。新鮮な魚介類が驚くほど安い。さっそくカニなどを購入し、自宅へ送った。 
 柿崎商店の2階は、直営のレストラン(海鮮工房)になっているが開店は10時からだ。まだ少し、時間がある。

 余市駅前などフラフラしながら時間を潰した。余市はスペースシャトルに搭乗した毛利さんの出身地だ。また戊辰戦争で敗れた会津藩士とその家族が多数移住し、林檎の栽培などを手がけ多くの功績を残した。

 ようやく10時になった。海鮮工房へ入る。
 しかし、凄い人気だ。あっという間に客席が埋まっていく。

 俺はホッキ飯、イカ刺し、宗八ガレイなどをオーダーした。びっくりするほど安い。しかも、オーダーした料理の美味さといったら秀逸の一言に尽きる。バクバク食べた。

 すると、
「さっき下に居たライダーだよね。お邪魔するね」
 いきなりでっぷりと肥った中年の男が俺と同じテーブルに座った。

「ずいぶん荷物を積んでいるけどキャンプ道具?」
 間髪を入れずに喋っている。

 俺は目が点になった。

 あんた、誰?

「俺はテントがないから全部ライダーハウスに泊ってるよ。ラクだよう」
 目眩がしてきた。どこに泊ろうが人の勝手だが、歴戦のキャンツーライダーの前で、あんた何言ってんの?

 俺は確かに要領が悪い。でも決してラクを求めて旅などしていないし、しようとも思わねえ。むしろ非日常の旅を楽しんでいるだけだ。

 それにいい大人が他人の厚意、個人の家へ格安で泊ることを始めから前提にする旅って真の旅か?

 基本的には野営だし、たまにだけど正規の宿でしか宿泊しない俺が、ライハ泊のみのオヤジと「北海道ツーリングライダー」というコンセプトで同列で語られるのが、もの凄く哀しく感じる。

 流れ者、つまり滞在しないキャンプライダーは常に孤高だ。

 というか、見知らぬ、ライハオヤジから苦労を重ねて旅している俺へ野営についていろいろ言われたくない。本当にオヤジのくせに情けない。ライハって、金のない学生などへ開けてやればいいんじゃねえか?

 体を張ってから言えよ。

 ライハオヤジはホッケ定食を凄い勢いで食べ、その合い間にうるさく話しかけてくる。

 プッツン、プッツンと俺の頭がキレ出していた。手にしているコップの水をぶっかけたくなる激しい衝動を何度も堪える。

「キャンプってさ、出発のときの後片付けが時間がかかって嫌なんだよね」
 いい歳をしたライハオヤジがほざいてました。

 うっ、耐えられない。

 俺は顔を真っ赤に紅潮させながら立ち上がった。オヤジはドキっとしながら俺の表情を覗いている。

『トイレに行くので失礼』
 かろうじて平静を保っていたが、顔がひきつってしまってどうしようもなくなっていた。でも俺は昼間から公衆の面前で大声を張りあげるような粗暴なマネをしたくはない。顔を洗って気持ちを鎮めよう。

 トイレから戻ると俺の怒りのオーラを察したのか、ライハオヤジが
「そっ、それじゃあ、俺はお先に出るね。またどこかで」
 慌てて店を出て行った。それがいい。噴火する前に早く俺の眼前から消えてくれ。オマエとは、目的とする方角があまりにも違い過ぎる。
 いやあ、ライハオヤジが去って清々した。食後のお茶も美味い。煙草に火をつけTMへ目をやっていると、
「あ、あの北野さんですよね」
 真面目そうな青年だ。
『そうですが』
 俺は煙草の煙を吹き出しながら答えた。
「ずいぶん声をかけようかどうかと悩みました」
『まあ、座りませんか』
 青年は恐縮しながら椅子に腰掛けた。
「ぼくは、北野さんのホームページを読ませてもらっている新潟のイガラシと申します」
 実に謙虚だ。さっきの無礼なライハオヤジに爪の垢でも煎じて飲ませたいぐらいだ。

「北野さんのレポを読んで、勇気づけられました。ぼくにはハンデがあり、バイクに乗るのが無理だと思ってました。でも北野さんが、毎年、苦労されて旅を続けている記事を拝見しているうちに、バイクの免許を取り北海道ツーリングができる勇気をもらいました。ありがとうございます」
 うっ、涙が出そうになってきた。俺なんかの読み物をこんなに熱心に読んでいる方も居るとは。

「北野さんは思ったより怖くないんですね」
『も、もちろんですとも(汗)』
 俺の顔が歪んでいた。ついさっきまで、ブチキレ寸前だったもので。

 イガラシさんに美流渡温泉錦園で決行されるEOCへ参加されてみてはと一応お誘いする。そして永久ライダーステッカーを進呈し、柿崎商店の店先で別れた。まだ見ぬ誰かのお役に立てるならHPを継続していこうという決意を胸にアクセルを挙げる。

 渋滞に嫌気が差し、久々の積丹半島一周は断念。道央方面へ機首を定める。
 山間部を走り抜けた。ところどころ渋滞があったが、すり抜けでかわしていく。猛暑の共和、倶知安をひた走り、京極へ入った。羊蹄山がくっきりと見えている。

 ここまで来たら久々に羊蹄山の湧き水だな。パーキングは激混みだったが湧き水が冷たくて美味いのなんのって。ガブガブ飲んだ。

 木陰で一休みすると本当に涼しい。沢では大きなイワナが悠々と泳いでいた。
 そして隣接する「京極温泉」へ入った。ここの温泉もいい湯だ。ナトリウム塩化物・硫酸塩泉でさまざまな効能があるらしい。

 じっくりと湯に浸かる。疲れが溜まったというか、溜まり過ぎた俺のバディから、いい汗が流れ出る。

 この夏の北海道ツーリングも残りあと僅かだ。最後まで旅を完遂しようと改めて思うなり。




HOME  INDEX