北海道ツーリング2005後編
5
旅が長くなり、ダレてきたか?俺としては、かなり寝坊。しかも朝から、酷く暑かった。 テントの中は、サウナ状態となり、たまらず這い出した。既に大量の汗が噴出してきた。どんなに暑い夏でも北の大地の朝はガスが出て比較的涼しいのだが。なんだか変な夏だ。 周囲のキャンパーはテントの撤収作業を開始している。 |
俺は、特にどこへ行こうというアテもないさすらいのキャンプ旅なので、ゆっくりと朝食の準備を開始した。 今朝のメニューは、納豆2つと野菜サラダだ。それにクッカー炊きしたご飯。つまり、変わり映えのしない、いつもの朝食だ。 あまり食欲がないのだが、無理矢理腹にぶち込んだ。喰っておかないと絶対に夏バテをするからだ。長旅をすると自然に自己防衛本能が身につく。 |
食後、だらだらと撤収作業を開始したが、俺の他にはもう誰の姿もない。静かで穏やかなキャンプ場だ。 はちきれんばかりの荷物を満載にして、北のサムライはゆっくりと「太陽の丘えんがる公園キャンプ場」の坂を降って行く。 丸瀬布町へ入り、そこからは本当に名もない道を走った。まるっきり人気がない。ガス欠になったら、どうしよう。 |
小さな集落に辿り着き、スタンドを発見し給油。どうにか一安心するもチェーンがかなり弛んでいる。スタンドのおっさんからバイク屋を紹介してもらった。 『すいません、ちょっとチェーンを絞めてもらえますか』 店内には俺と同世代?いや歳下だと思う?の男が作業していた。 男は黙って俺のマシンの方へ歩いてきた。そして、 「ステップのゴム剥げてるね。なんで交換してこなかったの?」 嫌な言い方だった。でも俺、全然怒ってねえし。 『旅乗りで磨耗していますが、特に不都合はありません』 「雨とかだったら滑るだろう?」 『さんざん雨の旅も経験していますが、滑りません』 顔つきも豹変してきた。内地からきたライダーをいびりぬいてやろうという本当に醜い魂胆が見え見えである。こういう応対って誰でも気分を害すると俺は思った。少なくても俺の地元のバイクショップではあり得ない。でも俺は普通にチェーンを治してもらえれば、それだけでいいんで、とりあえず我慢する。 「チェーン、いつ替えたの?」 やっぱり不快だ。でも俺、怒ってないよ。 『つい最近、地元のバイク屋で替えました』 「チェーン絞めぐらい、難しい作業じゃないよ。自分でできるように覚えてこいよ」 あ、あっ、あれ〜 なんか、勝手に頭の中がプッツン、プッツン音を立てている。けどキレてないよ。俺は、有料でもいいから、ただチェーン締めてって依頼しているだけなんですが?そんなに簡単な作業を銭とってやるなら黙ってやりゃあいいじゃん。バイクは俺が普通に長距離通勤に使うぐらい特別なモノじゃないよ? 「うちは、営業だから料金もらえれば別に構わないけどさ、何年バイク乗ってんだかねえ〜」 スゲエ嫌味だし、このバイク屋のオヤジの性格、近年遭遇したことがないぐらい記録的に悪過ぎ。 なんだかんだ言いながら、結局、説教したかったんだな。お客に。 でも俺は怒ってないよ・・・ けど顔が引きつりだした。ここまで言われると自分でも制御が効かなくなっちゃうんだけど。というかこの状況で耐えるほど俺は人間ができてねえ。 『はい、ボクのバイク歴は25年です。限定解除歴19年なんです、この野郎』 『テメエ、ふざけんなよなあ〜、こらあ〜』 突然の大音声に横暴なオヤジの体が1メールほど宙に浮き上がって驚いていた。 『なにが営業だ。荷物満載で工具を取り出せないから、頼んだんだ。嫌ならやるな。営業の意味が分かって言ってるのか。オメエの営業ってなにかい?客から銭とって小馬鹿にしながら敵意丸出しで罵倒することかい。何様だ。なんか恨みでもあるのか?』 以前にも道北のバイク屋の無礼さに腹を立てたことがあった。そのことを書いたら、目をつりあげて苦情をいうヤツもいた。でも耐えられない。もちろん全部とは言わないが、前回から2件入って2件ともコンコンチキなバイク屋だった。こいつらいったいなんなの?少なくても俺には理解しかねる。今時、こんな営業などあり得ない。 「誤解です。す、すんませんでした。けして悪気はありませんでした」 ぶるぶる震えながら謝っていたがもう遅い。俺の全身は火を噴いている。完全に激怒した俺はオヤジをもう一度睨み据えると今度は尻餅をついていた。強烈なローキックを一発入れようかと思ったが、弱いものイジメみたいだから控えた。命まではとらねえが二度と来ないよ。不快な気分で店を出る。 俺の頭は幾度となく噴火を繰り返していて、なかなか収まらなかった。 |
道の駅「たきのうえ」で小休止。荷物を全部下ろしてチェーンを締め直す。ここで名物芝桜ソフトを食べて頭を冷やすと、ようやく機嫌も収まってきた。しかし、芝桜ソフトってシソの味がするんだな。 木陰に入り涼をとった。これからどうしよう。ホントに無軌道な旅だ。 マップに目をやると、サロベツ原野の文字が俺を呼んでいる。去年は走れなかったオロロンライン。ここだ。これがこの旅の俺の約束の地だ。 |
とりあえず西興部を抜け、名寄からほとんど裏道ばかりを走った。知らない道を駆け抜けてみたかった。人気のない間道を。そして遠別町から日本海へ至る。 下サロベツだ。そして、あまり好きじゃない北緯45度地点の風車前で休憩。 風車は構わないが、わざわざサロベツのあちこちに立てなくていいと俺は思う。なにもないのがサロベツの魅力なんだし。 |
なんて思っていると、 「キタノさんですよね」 関西訛りの若者が話しかけてきた。 「永久ライダーサイト、参考にさせてもらってます」 彼は、大阪のハーレー乗りで「ペコくん」といい、北海道ツーリングは初めてとのこと。うちのサイトをずいぶん読んでくれているらしい。ありがとうございます。ネットのすべてに迎合はしないが、彼には間違いなく善良な旅人のオーラが溢れていた。 |
後刻、稚内森林公園野営場で再会を約束して別れた。 上サロベツへ入った。 この雄大さは、とても口だけでは表現できない。まだ行かれたことのない方は、是非、走行してみてください。「世界最高の道」です。 稚内市街地へ向けひた走る。途中、3台のオートバイを黄色のラインの内側から追い越した。先頭はトリッカーか。 |
トリッカー、翌日、驚愕の出来事に遭遇するとは、この時は知るよしもない。 稚内森林公園野営場へ着いた。テントサイトは混雑している。重い荷物を担ぎ上げ、階段を昇りきり、幕営を開始した。 すると既にハーレー乗りのペコくんがおり、「こちらにお邪魔してもいいですか」 とのこと。 『どうぞ、どうぞ』 という具合に宴が始まり、肉を喰い、ガンガン酒を煽った。 |
彼は熱い男だった。日常のこと、社会問題のこと、いろいろと真面目に語り合った。とても愉快で有意義な夜だった。時が過ぎるのを忘れるほどに。 俺の今夜の記憶もそろそろ完全に尽きそうだ。シュラフに入りながらふと思う。HPをやってきて、よかったかどうかは、明言はできない。 |
ただ、これほど旅人諸氏から声をかけられた旅は初めてだった。 そして、ますます北海道ツーリングへのめり込んでいく自分を感じていた。 |