北海道ツーリング2005後編




上足寄の名もない道端にて







 炎天下の中、阿寒湖横断道路を走っていたら小用を足したくなり双湖台のパーキングへ入った。お盆が近づいているせいかライダーの数も増えている。しかし、ライダーも平均年齢が上がった。ほとんど若者の姿が見えない。リターンライダーや遅咲きライダーばかりのようだ。それはそれで真に北海道ツーリングが好きな精鋭揃いで俺はかまいはしないが。

 特に風もなく悶々とする空気の中で俺は煙草に火をつけた。これから、どこへ行こう。TMへ目をやりながら目に留まったのが「陸別」だ。オーロラの町だ。ただし、オーロラを拝める可能性があるのは冬。夏には見れない。でも通ったことはない。よし、さすらって見よう。

 途中、2台でつるんでいるアメリカンバイクを軽く追い抜き、阿寒湖手前で信号待ちをしていた。するとさっきの2台が俺の脇へ並んだ。
「すいません。阿寒湖って右ですか。左ですか」
 と訊いてきた。たった今、右に標識が出てたばかりだろうと思ったが優しい俺は、
『ああ、右折してすぐだよ』
 指を差して教えた。
「美味しいお店とかありますか。自分たち腹が空いてしまって」
 
 甘ったれんじゃねえ〜

 なんて少しも思いません。
『そうか。そいつは難儀だ。ホテル街に入ってすぐに「奈辺久」っていう店がある。そこのワカサギの天ぷらが美味いよ』
 以前に食べたが本当に美味しい店だ。
「ありがとうございます」
 彼らは丁寧に挨拶をした。見た目はヤンキーっぽいが、意外に礼儀正しい連中だった。 
 足寄峠を越えた。足寄町は横に長い。暑さと単調なストレートで激しい睡魔が襲ってきた。変化を求めてショートカットするか。上足寄から道道143へ右折した、本当になんもない道になってきた。人気もまったくない。さらに途中、カネラン峠手前にダートがあることに気づく。

 こりゃひき帰そう。ダートは何年か前の「キンムトーの惨劇」以来避けるようにしている。ついでに休憩タイム。自らの画像も何枚か撮影した。
 足寄駅前到着。昼食にしよう。ここなら定番の「大阪屋食堂」だろう。

 暖簾をくぐるとおばさんひとりだ。
「おや、あんたかい」
『おじさんは?』
「帯広まで検診で出かけてるよ。味噌ジンギスカンでいいかい」
 おばさんも若干疲れ気味。
『今日はホルモンにします』 
 ホルモンも味噌味で、なかなかいける。ガツガツと頬張っていると、
「いよいよ店も移転だよ」
 おばさんが話しかけてきた。
『どちらに』
「郵便局の隣になるからね。来年も来てね。ライダーハウスも移転よ。あんたもたまには泊まってみたら」
 客は俺ひとりだ。おばさんはお茶を飲みながら感慨深げに話していた。
『俺は歳なんで、ライハはパスだ。でも食堂の方なら来年も来るわ』
 満腹になり店を出た。しかし、この建物ともお別れか。ちょっと寂しい気分だ。ここも18年前の初めての北海道ツーリングで、たまたま入った食堂だ。本当に長い間お疲れさんでした。心の中でそう呟き、静かにアクセルを挙げた。

 陸別国道(R242)は利別川沿いの道だ。山の緑が目に沁みるのんびりとした田舎道だった。愛冠、上登良利と聴いたことのある地名を通過し、陸別町に入った。とはいえ、まだ時間的に早いし、特にすることもないので「ふるさと銀河線」に沿って北上することにした。

 置戸町を通過し、留辺蕊町あたりで陽が傾いてきたので、そろそろ幕営地を探そうと思い、TMを開いた。すると渡りに船とばかりに「八方台森林公園キャンプ場」が近くにある。ここにしよう。

 八方台公園へ辿り着く。ところが野球場や陸上競技場はあるが野営場がない。そっちこっちを奔走したがない?どうやらキャンプ場は閉鎖になっているようだ。が〜ん!

 ここでヘコんでもしょうがねえ。次のキャンプ場を探そう。TMを開いて検討するとこの先の遠軽町に「太陽の丘えんがる公園キャンプ場」があった。

 今度こそは・・・

 日が暮れてきて薄暗くなってきた。とにかく遠軽町に入る。分岐があり、左折した方に、キャンプ場の標識があった。ところが行けども行けどもキャンプ場がない。やがて丸瀬布町に突入していた。

 絶対に道を間違えた。Uターンし、15キロ近く引き返した。もう周囲は真っ暗。俺はオホーツクの内陸部を孤独にさすらっている。まさにさすらいのヨッパライダーだ。

 そして、ようやく分岐へ戻った。往復30キロのロス。本来、右折すべきところを左折してしまったようだ。左折した側に標識を置くなど絶対におかしい。なに考えてんだか?

 本当に悪戦苦闘の末、「太陽の丘えんがる公園キャンプ場」へ辿り着いた。

 キャンプ場には、テントが4張ほど立てられていた。全員ライダーだ。既に一杯やっている。
『すいません、受付はどちらでしょうか』
 と彼らに訊くと、年輩の男が
「もう受付なら終わっているよ。無料のキャンプ場だから、明朝、ちゃんとカタして行けば問題ないでしょう」
 ほろ酔い加減で教えてくれた。
『ありがとうございます』
 俺は礼を言い、急いでテントの設営を開始した。
 テキパキと設営を終了させ、水に浸しておいた米を炊いた。前にも書いたが、北野の辞書にはクッカー炊きの失敗はない。というか飯炊き男かも知れん?

 炊き立てのご飯に筋子をかけた。俺は、こういうご飯を食べるのが本当に好きだ。アツアツご飯にプチプチ筋子。

 ガンガンご飯を頬張った。最高に美味い。まさにシンプル・イズ・ベストなり。
 遠軽の街の灯は夜のしじまにゆれていた。俺はウイスキーを取り出してビンから直接飲んだ。

 急速に酔いが全身へまわってくる。俺は意外に静かなキャンプ場で孤独に飲むスタイルも好きだったりする。

 ツーリングクラブとかへ入ってもつるむのが苦手だし、人間関係が煩わしくて長続きしない。
 自力型、俺は風のように自由なひとり旅がとことん性に合っている。つまり天性の一匹狼、アウトローなもんで。

 俺は、全身全霊を賭けて野営のテクを覚え決行してきた。誰からもモンクは言わせないキャンプツーリング術を今後も継続するつもりだ。

 ふと空を見上げると満天とまではいかないが、綺麗な星もゆれていた。

 本当に美しくて優しい夜景だ。

 今、何時だろう?大きなアクビをした。

 今夜はこのあたりで俺の記憶も次第に尽きてゆく。




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