北海道ツーリング2005後編




やっさん、北野、ヨーコさん、ソットーさん(画像:ともさん)


14



 実によく寝た。布団で寝たのは3週間ぶりぐらいだろうか。1階のリビングへ降りると既にソットーさんやヘルパーさんが忙しそうに朝食の準備をしていた。

 キャンプ旅が長くなると空いている時間は、作業を自然にしてしまうという習性が身につく。荷物を持ち、外へ出ると実に素晴らしい好天だ。旅の当初の頃は別として、本当にこの旅は天気に恵まれたと思う。

 荷物の中を覗くとJA標津のオリジナルフラグがあった。おっと、これは羊のなおさんに渡さないと。洋風民宿「羊の詩」の方を見るとなおさんは、お客さんへ見送りの挨拶をしていた。俺は邪魔にならないように配慮しながら、羊の看板の上にそっとフラグを置きマシンへ戻った。

 そして、パッキング開始。やまちゃんも起きてきてバイクへ荷物を積んでいた。時折、近くの丘を眺めると牧歌的で癒される風景だ。木々の緑がよく映えている。冬の怒涛の真っ白な光景とはまったく趣を異にしていた。まあ、真冬のダイヤモンドダストもいい味出していたけど。

「あんなところに旗を置いたら盗まれちゃうわよ」
 お客さんを送り出した、なおさんが、吹き出しながら現れた。
『あの標津のフラグはな、結構苦労して手に入れたんだぞ』
 恩ぎせがましく言ったワケじゃないが、迷ったり、迂回したりしながら、ようやく入手したシロモノだ。
「でも私、そのうち知床行くよ」
 ボソッと彼女は呟いた。

 ガックン・・・

 おいおい、それが危ないから献上したんじゃないか。近年の永久ライダーは体を張るが、想定の範囲外の無謀はしない。非日常と無謀はまったく違うものなのだ。つまり上富良野から知床への日帰りツーリングは無理だ。片道だって俺なら絶対にやらねえぞ。

 でも彼女は、にこにこと笑うばかりだった。これを読んでいたら、ビバークも念頭においてくれ。ツエルト(非常にコンパクトだし)とシュラフぐらいは常備して、疲れたら道の駅などで仮眠しながらツーリングしてね。ようやくバイクに慣れてきた、この時期が一番危ないんだ。「永久ライダー」のステッカーは魔除け、いやお守りだ。

画像:ともさん提供
 やがて朝食タイム。メニューはダッチオーブン鍋で炊いた「鳥粥」だ。

 これが美味いんだよね。鳥のダシが実によく効いていて、サラサラと腹に納まっていく。漬物をかじりながら箸を動かした。

 皆さんと談笑しながら楽しい朝食だ。

 やまちゃん、ともさん夫妻も本日、苫小牧から大洗行で帰還するとか。
 俺も仙台行で離道する。苫小牧でも3人に再会できるだろう。

 やまちゃんは、余市の柿崎商店(海鮮工房)でうに丼を食べ、ニセコパノラマラインの眺望を楽しんでくるとか。元気だなあ。

「もう一杯どう?」
 ソットーさんからお代わりのお勧めが。
『じゃあ、ほんのちょっとだけ』
 と言ったが、大盛りの鳥粥が返ってくる。

画像:ともさん提供
 うっぷ。超腹一杯。

 このあたりで最終日も道央各所を元気に走りまわるという、やまちゃんが出撃。彼は朝からテンションが高い。本当に根っから明るい男だ。

 続いて京都のやっさんたちが出撃。ともさん、ヨーコさんも出撃。栃木のハーレー軍団の皆さんも出動。そして宿泊者は、ついに俺だけになった。静かにリビングへ戻り煙草をふかしていると
「今日はどこへ行くの」
 ソットーさんが訊いてくる。
『果て、どこへ行ったらよいものか』
「もう行くとこもないんじゃない」
 と言いながらソットーさんは吹き出していた。
 
 いつまでもマッタリしている場合ではない。俺は、これから帰路に着かねばならない。ソットーさんと外へ出た。ソットーさんが、携帯で羊のなおさんを呼んでくれた。

 眠そうに羊の詩からなおさんがやってくる。
「一緒に写真を撮って」
『別にいいけど』
 ソットーさんが、シャッターを切る。

「この写真、寝室に飾るわ」
 ゲッ、なんということを。
「・・・って、永久ライダーの掲示板にも書き込むね」
 ウッ・・・・・
『ちょっと勘弁してよ』
 ただでさえ、不倫疑惑のある貴女にそんな投稿をされた日にゃあ・・・

 女房から昼弁当にトリカブトを混入されちまうよ。
『お世話になりました』
 静かにアクセルを挙げた。ゆっくり道楽館からマシンが遠ざかっていく。アスファルトの道路に出て、もう一度振り返るとソットーさんとなおさんは、ずっと手を振ってくれている。その光景を目にしたとき、胸に熱いものが何度も込みあげてきた。

 道楽館、羊の詩へと続く上富良野のジャリダート。俺にとっては想い出の道。癒しの丘だ。

 また会う日まで、どうかお元気で!
 特に行くアテもないが、定番の「ファーム富田」でアイスクリームを食べた。夏はやはり観光客が多い。観光客の人間模様を暫し観察し出撃。

 いい天気だ。極端に暑くもない。日高を過ぎR237を北海道巡航速度で快走していると、凄い勢いでセダンタイプの乗用車が俺を追い越して行った。直後、赤いクルクルが追尾する。案の定、乗用車は捕まっていた。免停は確実だろう。集落に入ってから、あんなにスピードを出したら、まさに飛んで火に入る夏の虫だ。う〜む?理解に苦しむ?
 やがて二風谷に辿り着く。国家権力から強制的にダムの底に沈められたアイヌの聖地だ。人気はほとんどない。

 マシンを停め、ベンチへ腰かけながら、煙草へ火をつけた。俺は39歳で苦労して家を建てたが、このマイホームが理不尽にたいして役に立たないダムの底へ沈められたら、とても耐えられない。

 これを実行した人、あるいは諫早湾へ水門を建てムツゴロウを全滅させた人って、現在、なにを思って生活していることだろう?
 ダムや水門、河口堰を造れば、水量は減り、遡上する魚が消え、生態系が崩れて川は確実に死ぬ。二風谷については、苫小牧に新しい工業団地が出来るからという理由で建設が強行された。しかし、実情は工業団地の話など流れてしまったのだ。

 諫早湾にいたっては、あういう結果が出るのは分かりきっていたはずなのに強行された。絶対に裏でなにかがある。

 お役所仕事は、何十年前に計画され当時と状況がまったく違っても強行するという例が枚挙にいとまがないくらい多い。施工されるとよほどの血税の旨味を吸う黒い影が・・・

 これを話し出すと、本筋から脱線し出すので、このあたりで止めて置く。

 この章をもって、一気呵成に最終章とするつもりでしたが、まだ、あと1本ぐらいは読み物を連載できる余力はありそうです。

 というわけで、次章こそは、ラストサムライといたします(シツコイかも)ので、どうかお楽しみください。




HOME  INDEX  15