北海道ツーリング2005後編
13
この旅、二度目の富良野入り。 既に陽が落ち、薄暗くなりかけていた。急がないと道楽館のダッチオーブンの夕食に間に合わなくなり迷惑をかけてしまうことになる。何気にR237を右折して渋滞の富良野中心部をイライラモードで走った。 国道沿いのあるRH前には何人かのライダーがタムロしており、俺の方へピースサインを出している。気分的に乗らないがやむを得ずサインを返した。すると今度はステテコ姿のオヤジが現れ、頭上に両手を広げ、CMの白鶴「まる」をやり出した。なんだ、このオヤジ?これはかなり気持ち悪い。北海道へ来て、いい歳してライハの若者に交じり、浮かれてんじゃねえぞ。完全に無視した。男は粋が身上だぜ! 暫く走ると標識があり、日高・帯広○キロと掲載されている。つまり逆走、道楽館から、どんどん離れてるじゃねえか。俺が何度も走っているルートなのに間違えるとは。 Uターンして、また富良野の街中へ戻った。なんというロスタイムだ。そして某ライハ前で、例のステテコオヤジが、性懲りもなく俺の方を見ながら白鶴「まる」をガニマタでポーズしているし。その姿が実に情けねえというか、カワイソウ。両手で「まる」のポーズをとるとき、右足を上げながらバレリーナもどきの奇妙な、いや、やはり非常に気持ち悪いコミカルなリズムがつけられていた。 中富良野に入ると真っ暗になった。なかなか上富良野へ辿り着かない。途中、セイコマで急ぎ珈琲酎を購入し、また出発。 ようやく上富良野へ入るも渋滞は続いている。やはり盆の影響だ。すり抜けでなんとかかわしながらトリックアート美術館を右折。道楽館着。しかし、今夜はバイクがたくさん停まっているなあ。 「もうすぐ外で食事が始まるよ」 ソットーさんは超忙しそうにダッチオーブン鍋で仕込みをしていた。 「もう、酔ってしまいましたよ」 やまちゃんは、随分前に到着していたようだ。昨夜のEOCの二日酔いの影響で完全にグロッキーとなり、フラヌイ温泉の休憩室で横になっていたとのこと。でも今夜ももう相当出来上がっており饒舌になっていた。こっ、これは俺以上のヨッパライダーの出現か? |
俺はハートランドビールを注ぎ、屋外のテーブルへ腰かけた。今夜のメインディッシュはスタッフドチキン。宿泊者が多いため、一気に3羽のチキンが炊き上げられており、まさに圧巻。 「ぼくは千葉からなんですけど、どちらから来られたのですか?」 チキンを頬張りながら、やまちゃんはお隣のご夫婦ライダーへベロンベロンで話しかけていた。 |
「神奈川の厚木です」 ご主人が丁寧に答えていた。お名前がともさん(ご主人)とヨーコさん(奥さん)とおっしゃり、とても感じのよく、お若いご夫婦である。厚木でツーリングクラブを主宰されていて、クラブのHPもお持ちとか。これがご縁で後日めでたく相互リンクする仲になったりもする。 「富良野で美味しいお店をご存知ですか」 ヨーコさんが訊ねてきた。 『富良野なら、くまげらかなあ』 唯我独尊のカレーという手もあるが、明日は多分行列になると思う。ヨーコさんは、くまげらにしますと言っていたが。 ともさんとヨーコさんは、昨夜はサロマ湖「船長の家」へ宿泊されたそうだ。ヨーコさんは、例のカニやホタテを中心とした爆発的な料理で体調を崩してしまったそうだ。 無理もない。船長の家の料理のボリュームには、この北野ですら下痢になったほどである。とにかく信じられない海鮮料理の数々で、料金もリーズナブルだ。ただ、大食漢でないと本当に辛い。 京都からおいでになったという男性おふたりさんのうち、BM乗りの「やっさん」が宿泊者の画像を盛んに撮影していた。 「画像が欲しい方は、うちのホームページへアクセスし、メールをください」 URLが記された名刺を頂戴したが、あいにく紛失してしまった。確かツーリングクラブのHPだったような記憶があるが・・・ 楽しい食事が終了し、全員が中へ入り、またも宴会・・・ 「やまちゃん、飲んでる?」 彼は年輩のハーレー軍団(男女4人)ともすっかり意気投合していた。社交的だな。やまちゃんは後日、栃木まで出向いてハーレー軍団の皆さんと飲み会をしたとか。また神奈川でもともさんたちと飲んだようだし、凄い行動力だ。 「そっちの方はどちらから?」 俺のことらしい。 『はあ、福島です』 ハーレー乗りの皆さんは、頷きながら 「俺らは栃木だよ。近いね」 とにこにこしながら美味しい日本酒をなみなみと注いでくれた。有難く杯を空けるとまた注いでいただく。俺もヨッパライダーに変身しちゃいそう。 |
俺は珈琲酎をちびらちびら飲んでいるとやまちゃんが 「少し、珈琲酎をいただいていいですか。北野さんのホームページでも昨夜のEOCでもずっと気になっていたんですよね」 やまちゃんに珈琲酎を注いでいると 「俺ももらってもいいですか」 ともさんも興味が湧いたらしい。ともさんにも一杯。以前はセイコマでしか購入できなかったのだが、近年は全国どこででも手に入ることもお教えした。俺にとっては北海道のキャンプ場の味だ。 |
画像:ともさん提供 |
このあたりでソットーさんも宴に入り、ますます盛り上がってくる。 京都からのやっさんが 「ヌプントムラウシって、オンのマシンで入れますか」 俺に訊いた。大雪山系のダートの道を登りきったところに存在する秘湯のことだ。 『ヌプンにオンで入ったライダーもいるようですが、ゼファー乗りの俺は避けてます』 特にキンムトー事件以来、ダートには神経質になっている。 するとソットーさんが 「俺はオンマシンでヌプンに入ったよ。やはり止めた方がいいよ」 彼らは頷きながら 「では鹿の湯までのダートはどうでしょう」 菅野温泉へ向かうジャリダートのことだ。 『そこなら俺も行ったことがあるが、大丈夫でしたよ』 「じゃあ、明日は鹿の湯にするか」 明日の予定が決まってなにより。 その頃から、羊のなおさんが現れ、くるくると立ち働いていた。 「北野さん、なおさんとお話したいです」 やまちゃんは照れながら呟いた。 『しゃあねえなあ。着いてきな』 キッチンへやまちゃんを連れていく。 「よう、なおさん。俺のホームページを読んで、あんたのファンになったという人を連れて来たよ」 キッチンでは、なおさんとヘルパーさんが洗物をしていた。 「そうなの。どうぞ」 なおさんは少しも動じない。しかし、彼女はいつもマイペースだ。ヨッパライダーやまちゃんを相手に普通に談笑している。俺はやまちゃんを残して静かに席へ戻った。 この夏最後の北海道の夜だ・・・俺は思う存分に旅をした。悲願の知床岬縦走も成功できたし。これからは次なるテーマも考えねばなるまい。でも旅は構想を練るのも楽しいものなのだ。 今宵の道楽館も遅くまで笑い声が響いていた。 |