第9章 ふるさと祭り



ふるさと祭り(イメージ)

またも風呂に入れない


 歩き疲れてテントの中で横になった。

 しばらく休むと少し楽になったので風呂へ行くことにした。ついでに今夜の買出しも。また楽しみな晩酌時にヤスケが乱入して来て自分の分の酒が無くなるなんて事態はご免だ。多めに買って置こう。

 今日初めてマシンに乗り銭湯の前に行くと・・・

 ガーン!「風呂屋の定休日」

 これで何日だ?風呂に入ってないの?今日は8時間歩いたし暑かったしで絶対に入浴したかったところだったのだが。

「ふたりで行った横丁の風呂屋♪今日は風呂屋の定休日♪」
 神田川歌ってる場合じゃない。こう見えて俺は潔癖性なんだ。もうがっかり。

 商店街で、酒やおかずを購入して失意のうちにキャンプ場へ引き返した。頭が痒過ぎるぜ。

 飯を食べているとヤスケが現れた。相変わらず関西弁丸出しで明るい男だ。
「キタノはん、8時間コース、どないでした?」
『まあな』
 そんなワケで酒宴に突入していく。


キャンプ場の宴


 ヤスケは礼文岳頂上でフェリーターミナルの売店の女の子と仲良くなり、下山後彼女の車で島内をデートしたとか自慢していたが本当かね。どうも信じられんのだが?

 そして、もう少し礼文に滞在し、次は「利尻山」踏破を狙うとか。

 あくまで本人の話だと山にハマり退職、6月から各地の山を踏破しながらここまで来たそうだ。確かに山屋のテントだし、装備もそれなりだ。

 でも、やっぱりなんかヘン?
 ヤスケが早くも酔ってきた。

 ふらふらとトイレに行ったついでに隣のテントのライダーに
「あそこで永久ライダーというやつと飲んでおるんやけど一緒に飲まへん」
 とイトウという男を誘ってきた。

 見てないとずいぶんとゾンザイな扱いをするんだな、年長の俺を。ウラオモテのあるヤスケが、益々胡散臭い。

イトウ
 横浜から来たというイトウは昨日礼文入りしたそうだ。北野を見て絶対に怖い人で、接点をもちたくないと思っていたとか(おい!) 

ヒトラー
 かなり酔いがまわってきた頃
「あのう、ハサミ貸してください」
 と女の子が話しかけてきて輪に入る。

 実は昨日ヒッチハイクしてキャンプ場に入って来た子だった。俺は絶対に家出少女だと判断し、関わらないようにしていた。しかし立派な大人で北野と同業者だったりする。  
 別海から1万円以内の旅を目指して礼文まで辿り着いたそうだ。今日は4時間コースを歩き、礼文で1・2を争う景勝地「ゴロタ岬」からの眺望に痛く感動したそうだ。

 ちなみにハンドルの「ヒトラー」。実名をもじったもので、くれぐれも総統ではない。念のため。

 結局4人の宴となり次第に盛り上がってくる。

 それぞれの地元の話題になった時、ヤスケが
「俺の地元は沖縄ですねん。沖縄」
 と言い始めた。

 あれ〜、お前昨日「大阪」だと言ってたじゃん。ヤスケは日替わりで出身地が変わるのか?でも関西弁丸出しじゃねえか。まさに頭隠して尻隠さず。

 実態は四国の某県民だったりする。

 なんで、そこまで明らかに(昨日とは別な)違う嘘をつくかな?バレバレじゃねえか?絶対変なヤツ。俺には理解できん世界だ?正直に旅すりゃいいじゃん。嘘ばかりだと疲れるぜ!それにみんな日常で悩みやストレス抱えてると思うし。せめて北海道へ来た時くらいは自分へ素直になったらどうだ。

 今日からキミのキャンパーネーム「オオボラ フキオ」って命名してやろか。イトウも気づいたのか怪訝そうな顔をしていた。俺は旅の恥はかき捨てみたいなのはよくないと思っている。

 そんなことは知ってか知らずか・・・おそらくまったく知らずにまたも俺の焼酎をことわりもせず皆にヘラヘラと注ぎまわっている。まっ、そんなこともあろうかと多めに酒を買って置いてよかった。

 そしてキャンプ場の夜は静かにふけていき、お開きとなった次第。

 シュラフの中でウトウトしていた。すると外でヤスケの大声、いい加減にしやがれ、マジでキレそうになった。

「キタノはん、大変です。テントの中でラーメン作っている最中、トイレに行ったらテントを燃やしていまいました」
『ゲ!マジかよ。今行く』
 驚いた俺は飛び起きてしまった。

「なんとか今消し止めたんで大丈夫です」
『・・・・・』(だったら来るなよ)

『なんなら俺のツェルト貸すかい』
「一部分なんでなんとかなりそうですよ」
『まあ、全焼しなかったのが不幸中の幸いだな』
 騒ぐだけ騒いでヤスケが帰っていった。

 なんだかなあ〜

 俺は目が冴えちゃって眠れん!


ふるさと祭り


 やや寝坊し、習慣となった起きてすぐのクッカー炊きをせっせとこなした。

 米を蒸らしている間、体を拭きに炊事棟へ向かった。今日こそは絶対に銭湯へ行ってやるぞと強く思いながら体をこする。

 朝ごはんは生ハムとスクランブルエッグをおかずに食べた。いやあ、実に美味いのう。たまには変化をつけないとね。俺の食卓も。

 今日はヒトラーとヤスケ(結局同じ行動)と3人でゴロタ浜へ散策し、午後はウニ食べまくりの「ふるさと祭り」へ突入するつもりだ。

 出発の前に、デジカメをチェックすると電池切れ。管理棟で充電させてもらうが上手くいかない。どうやら電池そのものが寿命のようだ。と言うことで、ここから礼文を島抜けするまでの画像が一切なし(TT)、テキストのみとなる。ヒトラー、少し画像を送ってくれ。

 やや出発が遅くなったが、昨日歩いた道を逆に戻るような感じで澄海岬を目指した。今日もかなり暑い。

 ヤスケがヒトラーに
「昨夜、怪しい奴にテントへ火をつけられたんや。そしてナイフで何箇所かテントも刺されたしな」
 と言っている。ヒトラーが
『えー、それは大変!警察に届けた方がいいですよ』
 と応えていた。

 あのなあ、警察よりヤスケは違うところで絶対診てもらった方がいいんじゃないか。昨夜、ラーメンを作りかけでトイレに行って燃やしてしまったって、直後にうろたえながら俺のところへ来たじゃないか。それも嘘だったのかも知れないけど?

 嘘ばっかりついてんじゃねえよ。やっぱり、ヤスケって、かなりヘン。

 もう呆れてしまって、後ろで吹き出しながら聞いていた。オオボラフキオくんのお話を。

 今度はヒトラーが僕に
「男の人は山登りでも立ちショ○できるからいいですよね、女にはあれは無理ですよ」
 と話しかけてきた。
 ゲッ!おまえなー、可愛い顔して、な、なんと言うことを。でも俺はこのぐらいでうろたえる男ではない。
『こ、子供の頃、近所の農家のおばさんが畑でしてたぜ』
「ほんとに?」
 ヒトラーは目を丸くしていた。

『ああ、そりゃあ実に見事なもんだったよ』
 さすがにこのやりとりには、ホラ吹きヤスケも吹き出していた。

 暑い中、澄海岬の売店でビールを飲んで(うめー)小休止。今日の澄海岬も、とっても綺麗だった。でも前述の通りデジカメはない。

 澄海岬からキツイ登りをせっせと歩くと礼文では珍しい広い砂浜へでる。ゴロタ浜だ。さっそく海へザブーン、小さなバフンウニ2・3個とカニをとって(もちろんリリースした)ヒトラーへ見せると彼女は大喜び。画像を取りまくっていた。

 そんなこんなでキャンプ場へ戻った。管理棟のオヤジの話だと13時から祭りが始まる(実際には16時だった)とのことだった。俺は香深のATMで金を下ろしたりなど、モロモロの用事もあるので、ふたりと別れた。ヒトラー、置き去りにしてすまん。ホラフキヤスケの子守りを頼む。

 香深で用を済ませ、久々に風呂にも入った。プハー、蘇えるぜ。じっくりと湯につかりキャンプ場へ戻った。上泊の祭り会場へ行くとイトウとカブ3兄弟(スパーカブ90で鎌倉から来ている大学生)たちが既に盛り上がっていた。

 それにしても生ウニ200円。焼きウニ200円。焼きだこ200円。うに汁200円。そして焼きアワビがなんと5個1000円。マジっすか?この瞬間、俺は発狂した。ビールをがぶがぶ飲みながら喰いまくる。いや本当に海の幸が激安で美味い。それにしても礼文のふるさと祭り・・・

 なんだこれ?楽し過ぎる!美味過ぎるぞ!!

 ここで逆にご覧の方は画像を見なかった方がよかったと思う。絶対、羨まし過ぎて涙と涎が同時に出るだろう。1999年に礼文へ来た時も凄いと思ったが、その比ではない。ウニ4個、アワビに至っては20個以上喰ったと思う。

 ヤスケが澄まし顔でヒトラーを連れて来た。ヤスケは置いといて・・・

『おー、ヒトラー、来たか来たか!お前も食べれ』
 と身をむいてやり、ヒトラーへアワビを食べさせたら大喜び。

 ヒトラーは島の若い衆からも大人気で、彼女の側にいるとおつまみなどの貢物が次々と献上されて来る。そして相伴に預かる特典もついてくるのだ。超ラッキー。

 俺は誰がなんと言っても北海道で一番好きなのは礼文だ!(過去にも書いたような気がするが?)

 イトウが異常なテンションで盛り上がっている。カブ3兄弟も次々に食べ物をゲットしていた。尚、カブ3兄弟には、マツ、ラッシャー、ジャニーズとそれぞれ似ている芸能人のキャラを連想し、キャンパーネームを命名して置いた。特にラッシャーは旅の最後の最後まで北野と関わることになろうとはこの時は知るよしもない。

 バンド演奏、カラオケタイムが佳境にさしかかった頃、無情の雨が降り出してきた。それでも怯むことなく食べ続け、飲み続けていたがドシャ降りとなり、やがて撤収することにした。ヒトラーとイトウは一緒だが、ホラフキ男のヤスケが居ない。まあいいか。風呂にでも行ったのかもしれん。正直居ない方がいい。

 そして暴風雨の中、北野のテントで遅くまで酒宴が続いていく。誰かがヤスケは?と言ったが、あいつは異常な寂しがり屋だから呼ばなくても勝手に来るだろうということになり、そのまま忘れてしまった。

 かなり遅くなった頃、ヒトラーの怪談話となり、ビビったイトウたちは自分のテントへ逃げ帰った。この話は本当に怖かった。

 話が終わりしばらくし、ふと我に返る。夜中にテントの中でヒトラーとふたりっきり。彼女は仮にも(失礼)若い女だ。かなり気まずくなりながらも時は過ぎていく。

 そして甘美な夜は雨音と一緒にふけていった・・・

 ここから先は・・・18禁。

 ・・・・・おっ、おい!

 もちろん冗談だ。彼女は「雨がつめたーい」とか叫びながら猛ダッシュで自分のテントに帰った。

 これを書いた直後からヒトラーとの関係が各所で疑われているが、本当になにもありません。

 正統派の旅人という北のサムライの矜持が、エロイ行動を決して赦さないのだ!

 単に妻が怖かったから、狼になれないイクジナシという噂もある?

 おやすみ!