最終章






   おくの細道




 炭鉱の街をラッシャーと走る。目的地は駅前なんでわかり易い・・・なんて思っていると通り過ぎてしまった。

 それでも、なんとかアウトドア店&喫茶へ到着。

 あれえ〜駐車場にどこかでみたVFRが?

 AOさんだ!どこまでも奇遇だなあ。どうやらこの付近でキャンプされていたらしい。

 AOさん、ラッシャー、北野の3人で店内へ突入。ちなみに札幌のAOさんは何度も来店している。
『こんちは!』
「いらっしゃい!」
 既に先客の方がいらっしゃり、次々に後続のお客さんも来店してくる。かなりの活況でオーナー夫妻も忙しそう。

 丼物で、すっかり満腹になり、ラッシャーと店内を見学した。

 さて、そろそろ出発かあ・・・

「ご馳走さまでした」

ラッシャーと北野
 店主の奥さんが欲しがっていた永久ライダーのステッカーを差し上げラッシャーと表へ出る。

『ラッシャー、礼文以来、おまえにも世話になったな』
「そっ、そんなあ・・・こっちこそ・・・」

 ほとんどラッシャーが泣き顔になっている。
 馬鹿野郎、メソメソしてんじゃねえ!旅の別れはなあ、新しい出会いの始まり・・・

 ダッ・・・ダメだ。

 ラッシャーへ説教かまそうと思ったが、さすがにことここに至るとこの旅へのさまざまな出来事が彷彿として来た。感慨無量、万感の想いが込み上げてくる。

 まったくの偶然で知り合っただけかも知れない。

 とにかくラッシャー、多少(大幅に)、年齢は違えど俺たちは生涯の旅の仲間なんだ。いつの日か、また再会できる日がくるだろう。

 なんの自慢のない俺へも一言ぐらいねぎらいの言葉をかけたい。

 自己満足なことだ。されど悪天候にもめげることなく14連続キャンプ、

『よくやった』

 ラッシャーへ別れを告げ、振り切るようにアクセルをあげた。

 ヘルメットのシールドは曇っている。けど北のサムライの涙は誰にも見せたくはなかった。

 Parfect・・・
 尚、その後のラッシャーは、キャンプ場の孤独な夜との闘いに耐え抜いたり、また熊の湯キャンプ場では大雨にやられるなど苦労の連続だった。しかし、道内各地を転戦の末、9月の半ば近くまでの39日間の野営の旅を無事完遂し、帰路へ着いたそうだ。

 おまえは立派に男を上げたぞ、ラッシャー!

ラッシャーの勇姿











 苫小牧へ向けアクセルを握り続けた。

 見慣れた風景を堪能しようと思っていたが、頭の中ではこの旅のことを回想することしきり。怒涛の14日連続キャンプの目標は達成したが、名実共に『北のサムライ』と成り得ただろうか?この場で筋道を立てて、この旅の軌跡をすべてを表現するのは無理な相談だ。膨大な旅の記憶の断片、これをまとめるにはまだかなりの時間が必要かと思われる。

 ただただ14日間、徹底的にこだわり抜いたキャンプツーリングのせいか、テントを立てて、そしてたたんでという作業の情景ばかりが浮かんでは消えていく。

 なんでそんな面倒なことをと思う人も多いだろう。でも俺は面倒が楽しくてしょうがないんだ。そもそも野営(アウトドア)とはわざわざ面倒なことを満喫するものかなと思えてくる。だから非日常なのかもしれない。そしてテントの中は誰にも気をつかわない自由な空間があるし。今回の14連泊テント泊で、さらにまたキャンプがやみつきになってしまった。

 テントを立てて、夕陽の中で酒を飲む。至福の酔いに日常と時を忘れ眠りにつく。朝の目覚めと同時にクッカーで飯を炊き、そして荷物をまとめ愛機と共に次なる野営地へと旅立つ。

 またテントを立てて珈琲酎飲んでジンギスカン喰らって翌朝旅立つ・・・

 またまたテントを立てて、たたんで・・・

 こういう遊牧民のような生活が長く続くと熱血度数100%、「北のサムライ」仕様永久ライダーが完成する。そして最狂の北海道病野郎と化し羞恥心という言葉が完全に欠落するので困ったものだ。

 たくさんの想い出というかけがえのない荷物を過積載にした北野とその愛機ゼファーは、遥か東雲の彼方へ威風堂々と駆け抜けて行った。




おくのほそ道(芭蕉)



旅こそ栖(すみか)



月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。

舟の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は日々旅にして旅を栖とす。

古人も多く旅に死せるあり、予もいづれの年よりか、片雲の風に誘はれて漂白の思いやまず、

海浜にさすらへて・・・

・・・これを矢立ての初めとして、行く道なほ進まず。

人々は途中に立ち並びて、後ろ影の見ゆるまではと見送るなるべし。



FIN



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