第19章 ダッチオーブンの宿



かみふらの道楽館


   猛烈!霧の日勝峠

 凄い霧だ。真っ白でなにも見えん!本当に恐いくらいなので、ゆっくりと巡航しながら頂上へ向かった。そして渋滞発生。案の定、頂上付近のカーブで乗用車同士の正面衝突の事故が発生していた。俺が通過する頃には、警官が既に現場検証をしていた。

 フロントがペチャンコになっている車を横目に下りに入る。日勝峠も台風10号の影響でつい先日まで通行止めになっていた。なるほど川の激流が道路の端までえぐっている部分もあり、台風の猛威を見せつけられる。

 そして、麓が近づくにつれ晴れ間が広がってきたぞ。信じられん。天候が悪いのは日勝峠の標高が高い部分だけらしい。

 なんで旅の終わりごろになって、こんないい天気になるんだ?ポカポカした心地よい風を全身で浴びながらアクセルを握る。

 やがて、この旅初日にも利用した「道の駅樹海ロード日高」へウィンカーをあげた。結構ライダーの数が多い。巷ではお盆の時期で休みが取れ易いからなのかな?

 道の駅では「連続14連泊キャンプ」達成を祝う多くの若い女性ファンの黄色い声を浴びながらの登場となった。

 愛機を降りる永久ライダーが渋く一言かます・・・
「疲れているんだから、そっとして置いてくれよ。ふう」

 なんてことが、あるはずもなく・・・

 愛車から転がり落ちるように駐輪場へペタッと座り込みこんでしまう。つまり14連泊キャンプを完遂して虚脱してしまったのだ。

 煙草に火をつけた。目をそむけていた現実、間もなく今年の北海道ツーリングも終わりを迎えようとしている。実感がまったく湧かない。けど初日からずいぶん長い時間が経過しているように感じるが・・・

 確かに俺の周りにはライダーが集まって来た。
「日勝峠越えされて来たのですか?どうでしたか?」
『はい、頂上付近は霧でさんざんでした』
『ゆっくり行けば行けると思うが、あとは自己責任の問題です』
 この手の質問を数回受け、同じ数だけ回答した。

 つまり、愛車の汚れが凄まじいため、いかにも悪天候の中、日勝峠越えをしてきた・・・という印象を他のライダーたちへ発信していたようだ。

 質問した中のカップルライダーが
「あっ、永久ライダーのステッカーだ?永久ライダーって、どこかで聴いたことが?」
 やべぇ〜、そろそろ退散しよう!(礼文島以来、このシチュエーションにはホントご勘弁願いたい)

 逃げるようにスロットルをまわす!

 好天の中、身も心も天日乾しをしてるって感じを体現しながら、まったりと走行していた。するとリザーブ(予備タン)だ。たまたま目に入ったトマムのスタンドで給油する。そして日勝キャンプ場のゴミを引き取ってくれと従業員のお姐さんへ言ったら、かなり嫌な顔をされる。

 それはいいんだけど・・・
「向かいのセイコマへ捨てればいいしょ」と言われた刹那、かなりキレそうになった。

 金山付近ではレーダー取締りあり。危うくかわして先へ進む。なんだか無茶苦茶な感じで富良野へと突き進んだ。

 そしてこの旅2度目の富良野入り。

 腹が減った。北海道ツーリング仲間の高市さん@松山と同郷で懇意という大阪風お好み焼き「まさ屋」へ入ってみた。マスターは北海道ツーリング中、富良野が気に入り長期滞在しているうちに移住してしまったとか。

 いいなあ〜

 マスターは気さくな人柄で、いろいろ話しかけてくれる。
「どのぐらい北海道周ってるんですか?」
『まあ、ざっと2週間ほどです』

まさ屋のお好み焼き
「今日はどちらへ泊まるんですか?」
『ええ、ネットでお世話になっている道楽館なんですが』
「あ〜、道楽館。よく知ってますよ。じゃー、ダッチオーブン楽しみですね」
 なんて具合に。

 しかし、ここのお好み焼きのボリュームも半端じゃない。かなり頑張って腹に納めた。うっぷ、満腹!富良野でお好み焼きが食べたくなったら是非「まさ屋」へ。お薦めです!
 上富良野へ向けて渋滞が予想される花人街道を避け裏道(道道851)を走っていると「フラワーランドかみふらの」という巨大な観光農園があり、しばし休憩。

 それにしても広い。色鮮やかな花が天に向かって咲き乱れていた。その季節それぞれの花が楽しめるらしい。

フラワーランドかみふらの
 花人街道へ合流し、先へ進む。しかし道楽館ってどこだろう?少し迷う。AKIYAさんの話だとトリックアート美術館がキーワードとやら。どうやらその手前で迷っていたらしい。

 現在地からやや旭川へ向かうとトリックアート美術館を発見。ちょっと進み右折すると「かみふらの道楽館」あり。


ダッチオーブンの宿

かみふらの道楽館



オーナーのソットー氏
 道楽館前へ愛機を停めるとソットーさんはゴミ焼却作業中だった。
『こんちは!ソットーさん、北野です』
「いや〜どーもー北野さん」
 とソットーさんは飾らないで笑顔で出迎えてくれた。さっそく日勝キャンプ場のゴミをドラム缶へ入れて処分してもらう。すいませんね〜

 しかし暮れなずむ丘のシチュエーションが絶妙、素晴らし過ぎる。建物も新しくてとてもお洒落だ。
 ソットーさんはお若く見えるが、実は俺よりいくつか年長の飄々とした好人物だ。ツーリングで道内を既に22周も完遂しているツワモノでもある。そしてこれらの経験や知識から、こんな宿があったらいいなあ〜がコンセプトの道楽館である。 
 したがって道楽館は、北海道ツーリング中のライダーやひとり旅の旅人等から絶賛されている宿なのだ。富良野付近に宿をとるならお薦めである。俺の好きなフラヌイ温泉も近いし。

 またダッチオーブン料理にも実にこだわりがあることで有名だ。ソットーさんは「高い素材を使ってまで豪華料理を作る気はサラサラない」そうだ。

ラッシャー登場(画像提供:道楽館)
 安くたってダッチオーブンではそれなりの高級料理になるとか。つまり日常で使うのがダッチオーブン料理の醍醐味と力説しておられた。そして魔法の鉄鍋が美味しいもの好きな旅人を新しい世界へと導いてくれるのだ。

 
しばらくするとカブ独特の排気音、ラッシャー登場!

ハートランドビール 
 そして部屋に案内してもらった。

 2階が寝室である。基本的に男女別相部屋のYH形式になっていた。とても清潔に清掃が行き届いているし、なんと羽毛布団とか。これは熟睡できそうだ。

 一階リビングにて、ビールにも詳しいソットーさんに生ビールを出してもらった。
「ゴクゴク、プハア、ウメエー」
 まさに至福の瞬間。立て続けでおかわりしてしまう飲んべえな北野であった。

 そしてお風呂も湯船がすべて木造のこだわり。久々にきちんとお風呂で汗を流した。

 このあたりで、ちょっとした事故に遭い到着が遅れた女性ライダーミサさん登場。今日の宿泊者はこの3人。ということでお待ちかねのダッチオーブン料理にソットーさんが、腕をふるい始めた。
 ダッチオーブンとは、アメリカの開拓時代にオランダ系の移民が使用していた鍋だった。それが広まったらしい。鍋全体によく火が通り料理の完成が早いため、現在はアウトドア料理に重宝されている。

 右画像は、道楽館の人気メニューのひとつ「スタッフド・チキン」の完成の瞬間。丸ごと一羽のチキンを使用する豪快な料理だ。

スタッフド・チキン

鰻と野菜の炊き込みご飯
 ソットーさんが自らがチキンを切って、ジャガイモや玉ネギなどの野菜と一緒に盛り付けていただく。

 一言・・・俺はアウトドア料理の認識を改めた。美味い!感動的な素材を生かした味だ!毎日クッカーで米を炊き、缶詰や納豆の粗食に耐え忍んでいた清貧の俺は涙が出そうになる。
 続いて鰻と野菜の炊き込みご飯。鰻はなんと浜松産とか。そして、この絶妙な炊き込みの美味さと言ったらもう。おこげの部分がまたいい味出してるし。

 ラッシャーやミサさんも大喜び。ラッシャーは大盛りサービスにしてもらったり、おかわりしたりでガンガン食べまくっていた。おまえの旅はまだまだ続くんだからいっぱい喰えよ、ラッシャー。

 ラッシャーは、ソットーさんと俺がオフでは初対面というのが、とてもとても信じられないようだ。というか俺自身もネット社会のこの現象を理解していない。ソットーさんは昨夜、日勝オフで北野と痛飲した旅仲間のakiyaさんとも懇意である。そんな繋がりから以前、永久ライダーHPのBBSに投稿いただき、以来、互いのサイトを相互リンクしている仲だった。つまり実際に会うよりネットの方で先に知り合ってしまい、どうも長年の知己と再会しているように感じてしまうのはなぜ?

 すっかり満腹となり、酒を飲みながらのおしゃべりタイムとなる。
 ソットーさんによると相模ナンバーのロードスター乗りのおじさんが、くれぐれも北野さんによろしくと言って先日宿泊されたとか。

 最初は、なかなか思い出せなかったが、あ〜、厚木の社長さんね。悪天候のため利尻富士登山を泣く泣く断念した帰りのフェリーで知り合ったおじさん。去年のツーレポの利尻の章にも登場した相模ナンバーの方。

ソットーさんと北野
 お懐かしい!そしてお元気そうでなによりでした。やっぱり、お孫さんからも危ないから、もう北海道ツーリングは止めるようにと言われても旅はやめられないという永久ライダーぶりを継続されていたのですね(笑)。俺が、こちらの宿を紹介していたんだっけ?すっかり忘却していて失礼しました。まあ、気が向いたら、うちの掲示板へでもカキコされてくださいね。待ってます!

 ソットーさんのご出身は八雲町だそうな。ご実家は旅館をされているとか。そんな関係から宿に興味が湧き、ツーリング中にもいろいろな旅館や民宿を利用していたそうだ。そしてそれぞれの長所を参考に自らの宿を開いたという筋金入りだ。

 やがて早めのお開きとなり、ふかふかの羽毛布団でゆっくりと休ませてもらう。
 
 なにからなにまで実によく配慮されている