第12章 突然の和琴オフ



突然の和琴オフ


北見


ヒマワリ畑
 台風直撃で玉砕状態の北のサムライは、あと少しの怒涛のキャンプ14連泊への自信がかなり失われつつあった。

 こんな時は道東の北野のベース基地、屈斜路湖の和琴キャンプ場で露天風呂へ浸かり、態勢を挽回しようと画策したのだった。

 ただまっすぐ和琴入りしてもつまらんので、湧別から遠軽、留辺蕊をアクセス、まずは北見入りして、昼食をとろうという算段だ。
 出発し、しばらくは雨が激しかったが、次第に晴れ間が広まり、名もないヒマワリ畑の中を突っ走る。

 あまりの天気のよさと台風の影響で南から来た暖かい風が本当に心地よく、幾度となく睡魔が襲ってきて大変だった。眠気との激戦を展開しながら北見の街へと入った。
 昨年も北見にてお休みのため食べれなかった「ひさご」のラーメンを楽しみにしていたが、今日も定休日?ガ〜ン。

 結局、商店街の丸正デパート1階の北見ラーメンにつられてオーダー。ちょっとショッパイけど、なかなかの醤油ラーメンに満足した。北見名産の玉ネギベースのスープへ拘っているらしい。メニューは「醤油」と「塩」のみ。650円也。でも少し食べ足りないかな。

北見ラーメン

トリトン
 そうだ!評判の回転寿司「トリトン」へ行ってみるか。

 さすがに超人気店だけあり行列ができていた。ライダーも多いし、とほ宿「さろまにあん」とドアに書かれた車も停まっている。

 待つこと暫し。そしてカウンター席へと案内された。ようし、喰うぞ!
 イカ、エンガワ、ホッキ、アオヤギ、中トロ、イクラ、ウニ・・・うめー・・・

 ゲップが出るほど喰いまくり。なんでも札幌・旭川にも支店があるそうだ。興味のある方は是非。

 しかし、北見ってあちこちに北見ラーメンのノボリが出てるな。回転寿司は美味いし、駅の帆立弁当は有名だし、意外にグルメな街なんだ。
 そんなことを思いながら、津別峠向けてチンタラと出発する。

 途中で古い集落を発見。ちゃんと人が住んでいるようだ。このあたりの冬は想像を絶するものがあると思う。でも人間ってこうやって逞しく生活しているんだから凄い。そして「ガンバレ」って、心の中から民家へエールを送りアクセルをあげる。

現役の古い民家
 津別峠展望台付近は凄い霧だ。とてもとても屈斜路湖は拝めない。先着のカップルがイチャイチャし出した。「馬に蹴られて死んじまえ」とか言われたら大変なので駐車場に戻る。

 しかし、一言ぐらい言わせろ。地球は絶対おまえら2人を中心に回っているワケじゃねえことだけは確かだ。時と場をわきまえた行動をしたまえ。

霧の津別峠展望台
 展望台から和琴側に半分くらい降るとようやく屈斜路湖の湖面が目に映ってくる。天気は雲が多いが、とても神秘的な水の色が際立つ。

 ただいまー!帰って来たぜ!

 もう嬉しくてアクセルがついついあがり気味になる。


突然の和琴オフ


 和琴キャンプ場へ入り、受付をしているとオーナーが現れ、開口一番「おー、今年も来たのかい。自衛隊さん」の一言。いい加減にやめてもらえないかな、そのニックネーム。毎年書いてるけど、俺は職業自衛官ではない。一応、芸能人だ?

 入り口付近から駐輪場までバイクを引いていると、手を振っている人が居る?AOさんだ。なんたる奇遇。 

湖畔にテント設営完了
 さっさと幕営を済ませて、酒でも飲もうかと思っていると、途中、AOさんと知り合いになったという「ふうらいだー」クッシーも登場。彼は綾之丞さん(風雨来記のファンサイトの管理人さん)の掲示板に現れ、永久ライダーのHPも見たことがあるとか。ほー?これも奇遇だ。

今年も現れたぞ!湖畔のフルート奏者
 連泊のAOさんによると、昨夜から今朝にかけては和琴キャンプ場もかなり酷い状況だったらしく、AOさんのテントは湖の波をかぶり、凹に設営したチャリダーのテント2張は水没したそうだ。なお、ふたりは管理棟のヒサシの部分へビバークしたらしい。とにかくここもかなりのパニックになったようだ。

 去年と同様湖畔のフルート奏者の演奏が始まった頃、後ろから
「北野さ〜ん」
 どこかで聴いた声だ。

『あーーー、混浴ライダー(注:ミヤタ氏)』
「北野さんの後姿、オーラが立ってますよ」
『マジっすか?』

 混浴ライダーは、屈斜路湖の夕陽に映える北のサムライの後姿へ激しく感動しているらしく、ほとんど涙ぐんでいたようだ?

 それにしてもさすが永久ライダーのベース基地だ。黙っていてもオフ会状態と相成った。

 フルートの調べを楽しみながら、楽しい酒宴となる。炭焼き先生ことAOさんが、炭を黙々と熾してくれるので暖かいし。ジンギスカンも次々に焼きあがる。
 このあたりで、風雨来記の話でクッシーと盛り上がる。読書人北野は基本的にゲームはやらないが、例外はプレステの「風雨来記」だ。バブルの崩壊の頃から北海道ツーリングが極端に下火となりつつある中、よく起ち上げたもんだと思う。

 実は以前、ルポライターをされているという原作者と北海道話で痛飲する機会があった。俺と同世代の気さくな方で以前は盛んに北海道ツーリングをしていたそうな。
 そして旅の雰囲気が俺の北海道ツーリングの記録と酷似している理由がなんとなく分かった。

 近年、オフィシャルコンプリートワークスに掲載されている景勝地を旅の参考にしているのもあるが、それ以上の「なにか」がある。

 おそらく心の奥底にお互いの北海道ツーリングの原点、青春時代の真っ盛りだった80年代後半の北海道の旅への想いが深く刻まれ、それを共有しているからではないのだろうか?とにかく時代が北海道ツーリングが濃かった。

 今でも北の大地には個性的な旅人は多い。しかし当時は現在の比ではないし、旅人、ライダーが9月に入ってもうじゃうじゃいた。ギターを持っているヤツも結構いて、酒を喰らいながら大いに歌い、そして口角泡を飛ばして語り合ったものだ(しかも和琴のこの場所で)。おっと年寄りくさい懐古モードになってきた。

 ・・・それは置いといて

 内容は、主人公が北海道をキャンプツーリングしながら、インターネットで記事をUPしていく。そして旅の出会いや交流、北の風景にハマっていくのだ。これはまさしく自分がやっていること、まんまじゃねえか。ストーリーも号泣ものだし。

 北海道ツーリング経験者なら画像のヒトコマヒトコマやキャンプ場の宴会の雰囲気に狂喜するだろう。実はここ(和琴キャンプ場)での宴会シーンもあったりする。これ以上はネタバレになるので自戒しよう。

 ただゲームをやってから、ギャルとの出会いだけを求めて北海道に来るヤツもいるらしいが、はっきり言って無理だ。日常でモテないヤツは、旅先でもモテない。ススキノへでも行くか、ゲームの腕より現実の自分自身を磨いてから来たまえ。ゲーム(妄想)と現実の旅は、比較できないぐらいかけ離れている。

 やがてクッシーとふたりだけの会話がさらに加熱・・・

『樹の木は、美幌峠の二股に分かれたやつだな』
「1本が枯れたみたいですよ」
『マジっすか?裏摩周のはどうだ』
「やっぱり、ぼくは樹の摩周湖でのバッドエンドが普通で好きです」
『あれかい?後ろ向いて、1・2・3ってやつだな』
「そうですよ、かなりジーンと来ますね」
「ちなみにバイクに張っているステッカー、見ました」
『綾之丞さんからもらったのかい?』
「いえ、自家製なんです」
『おう、そいつは凄いなあ』

 あまりにもマニアック過ぎてAOさんと混浴ライダーは目が点になっていた。

 そして・・・

「違う!俺の知っている旅人北野さんはこんな人じゃなかった!」
 永久ライダーを尊敬して止まない混浴ライダーがキレだした。
 
「2000年のDEEPな夏、ここ(和琴)で初めて出会った永久ライダーは、もっと男っぽかった。男気があった。ゲームの話をしまくる人じゃなかった」
『おいおい、ムキになって、どうしたんだミヤタ?』
 とりあえず、皆で彼をなだめて宴会は続く。

 かなり遅くなった頃、2台のスーパーカブが・・・

 まさか・・・

 礼文で出会ったカブ3兄弟のうち、「まつ」と「ラッシャー」だ。奇跡だ!奇跡が連発している。3兄弟の1名ジャニーズは、カムイワッカ方面から帰ってこないとか。おいおい、大丈夫か?生きているんだろうな?

 ふたりは、さっさとテントを設営し、礼文でも作っていた得意料理「ぶっかけケチャップスパゲティ?」を作って宴に参加してきた。これで6名、もうグテングテンに酔い出した。

 ラッシャーとまつは、緊張した面持ちでブルーシートへ正座している。
『まあ、酒を飲め』
 ヨッパライダーにビビリ気味なのか?チビリチビリと珈琲酎を飲んでいた。

 0時ぐらいだろうか?
「イエ〜イ、飲んでるかい?」
 と見知らぬ人物が乱入。

 多分、かなり酔っていたのだろう。
「俺は20年前から和琴キャンプ場へ来ている」
 彼は豪語していた。

 しかし後に、氏の投稿した、あるBBSのコメントを読むと・・・

「北海道にはもう15年間通っています」

 あれ?5年減ってるじゃん?

 なんだか、あんまりいい感じはしない。

 いくら酔っても初対面の人間へは、きちんと礼儀や筋を通して欲しかったな。

 その時点での俺の状況は、激しい睡魔に襲われていて、人の自慢話などどうでもよくなっていたが。

「九州でライダーハウスを始めたから来てくれ」
 宿の名前の入った名刺をもらった。

 でも間違えてもここにいるライダーで、ライハを頼る旅人は居ない。というか誰も行かないだろう。

 また俺たちは、夏の北海道だけを楽しみにキャンプツーリングへ来ているのだ。つまり九州ツーリング、いや正確には北海道以外のどの地域にも関心のカケラもない。馬の耳に念仏である。

 とにかく永久ライダーと愉快な仲間たちは、一年中、北海道ツーリングのことばかり考えている重度の北海道病揃いなのだ。

 いつの間にか九州の彼は消え、やがて、深夜の気配が濃厚に漂い出していた。

『俺のことは兄と思え』
 と言うと、ラッシャーとマツの表情がやや柔らかくなってきたようだ。怪しいオッサンたちにいきなり宴会に誘われて、やはり引きモードだったようだ(笑)。

 そして、このあたりから俺の記憶が消えた。

カブ3兄弟のうちの2人
 どうやら俺(飲み過ぎ)とラッシャー(酒が弱い)はブルーシートの上で武士らしい壮絶な最期を遂げ・・・

 いや、酔い潰れて寝込んでしまう。後刻、AOさんと混浴ライダーからテントへ強制的に搬送されていたようだ。

 生き残りのメンバーは露天風呂へ突入。そして偶然のオフの夜は静かにふけていった。