第11章 台風直撃



台風直撃


クッカー炊きを伝授


タバケン氏と
 いや〜、実によく寝た。煙草に火をつけ外に出ると日が差していた。今日も元気だ。煙草が美味い。

 タバケンくんも起き出してきた。
『おはよう!』
「おはようございます」
 お互い元気に挨拶を交わす。

 さあ、朝の恒例の行事、飯炊きだ。ところが、タバケンくんは、米やクッカーは持参したが飯は炊いたことがないとのこと。
 よろしい!万事アバウトの北野流でよければ喜んで伝授しよう。俺から学んだことは、また別の旅人へ教えてやるといい。そして旅の技術なんてすぐに覚える。今は偉そうにウンチク書いているけど、俺自身、数年前まで何もできなかった。アウトドア術はすべて北海道ツーリングでの野営から学んだと言っても過言ではない。

 あっ、そうそう飯炊きのやり方教えんだったな・・・

 炊事場でまず米を洗う。手で米を研ぎ(手を回すだけ)、マメに水を入れ替える。1合程度なら全部で100回くらい米を研ぐ。30回に1回は水の入れ替えをしないとダメだ。米と水の配合は、1:1.2だ。異論を唱える人もいるようだが、俺は飯ゴウ時代から、ずっとこうして来た。長年の実戦から全部学んだことだ。

 できれば、ここで30分以上、水に米を浸けておくのがベスト。後はバーナーの弱目の中火で水気が全部抜けるまで炊く。クッカーの蓋の上にはなにかおもりを乗せておくとよいだろう。水気が抜け、こげるかこげないか微妙な匂いがしたら火を止め、15分くらい待つ。これでばっちりだ。

 途中、風でタバケンくんのバーナーの火が何度か消えるなどのアクシデントもあったが、まあまあの炊き上がりだ。これで彼はどこで野営しても飯炊きの腕は、北野仕込みで、ばっちりだよ。タバケンくは、おかずがないとのことなので、サンマの蒲焼の缶詰を差し上げた。そして、自ら炊いたご飯を美味しそうに喜んで食べていた。

「これだけ教われば炊き込みご飯とか応用もできそうですね」
『大変よろしい!是非やりたまえ』
 この一言には、教えた方も教え甲斐があり非常に満足した。後は俺から学んだ基本的なことを自分で応用してくれ。旅人は創意工夫が神髄だと確信している(笑)。

 俺はテントを乾したり、洗濯もしたいので、ここでタバケンくんとはお別れだ。タバケンくんは、気持ちの素直な若者だ。礼文でドロ〜ンとした粘着野郎の某Yというホラフキから離れたばかりなんで、長年馴染んだ関東の正統派の若者にホッとしていたのかもしれない(笑)。

 タバケンくんと一緒に写真を撮った。若者は、爽やかに心正しくかくあるべし。

 馬上から、大きく一礼しタバケンくんは宗谷方面へと消えて行った。

 さて、ダラダラと洗濯をし、そろそろ乾いたテントも撤収して、出撃か。

 もうお日様もかなり高く上がっている。パッキングを済ませ、ようやくアクセルをあげた。

 枝幸を過ぎ雄武へ入るとまたしても雨が降って来たぞ。カッパに着替え、さらにアクセルを握り続ける。



日の出岬


 体が冷えてきたので温泉に行くことにする。ここらで温泉は?TM(ツーリングマップル)によるとホテル「日の出岬」オホーツク温泉だな。

 左折して日の出岬に向かうと見えて来たぞ!しかし、恐ろしく豪華なホテルだな。かなりビビる。

 でも受付の女の子とか、とっても丁寧で感じがよかった。いい湯だし、露天風呂もあるしで、かなりお薦めだ。500円也。

オホーツク温泉

小さな港にて
 日の出岬を下ると小さな港があった。

 道内のどこででも見れる光景かも知れない。でも俺はなんだかとてつもないドラマ性を秘めているような気がしてならなかった。←妄想

 港の若い漁師が旅の行きずりの女性と知り合い恋に落ちる。しかし、その女性にはもの凄い前歴があった。
 だが、ひた向きな恋を続ける若者、そして魔の手が!

「さあ〜眠りなさい♪疲れきった〜♪」
 なんて岩崎宏美(古い)の曲が脳裏をかすめたりもする。


台風直撃

 港を出るとさらに風雨が強まってきた。

 実はサロマ湖畔のキムアネップキャンプ場を目指していたが、こんな暴風雨のなか、とても無理な相談だ。

 ここは昨年も宿泊したコムケ国際キャンプ場にしよう。四阿(あずまや)にビバークできるし。

 ということで、陽も傾いて暗くなってきた中、コムケキャンプ場へ入った。

好物の塩ホルモン
 管理人が台風10号が来てるのにキャンプするのかいと呆れていたがやむなし。しかし、四阿はファミキャンに占拠されていた。無念なり。

 悪天候の中、ビショビショになりながら速攻でテントを立てた。場所は炊事棟前だ。いざとなったら炊事棟にビバークするつもりだ。

テントを立てる

 クッカーで飯を炊き、好物の塩ホルモンで夕食を済ます。

 荷物はほとんど炊事棟へ置くことにした。とにかく洒落にならない暴風雨。こんな時にテント張ってる俺っていったい?

 バーナーでお湯を沸かして、とにかく珈琲酎を飲んで落ち着こう。
 ちびりちびりと酒を飲みながら、ラジオを聴く。どうやら道内(特に日高地方)は大変なことになっているらしい。台風は通常、三陸沖あたりで温帯低気圧となり消滅してしまうのだが、今回は勢いを加速しながら北海道へ上陸したようだ。とにかく北の大地はズタズタとなり、交通機関などは完全に麻痺。犠牲者も出始めている。

 テントが風雨で激しく揺れている。本当にやばい・・・なんて考えているうちにいつの間にか寝てしまった。

 
炊事棟へビバーク
 俺は、フラヌイ温泉の源泉(冷泉)につかっている。そろそろ体が冷えて来たので出たいんだけど体が動かない。なんで?

 なんて朦朧とする意識の中で、そんな夢を見ていた。

 耳元でピチャ、ピチャと水の音がする。異様な気配だ。ふと目を覚ました。

 ・・・あ〜っ

 体半分が水没してるよ・・・

 ひっ、ひえ〜信じられん!

 とにかく水びたし状態・・・もう少しで非業の最期を遂げるところじゃねえか!

 あっ、危なかった!本当に洒落にならない。

 俺の知識の浅はかさにも気づく。芝のサイトのやや凹の部分に幕営していたのだ。暗くてまったく気がつかなかった。なんという失敗だ。

 幸い荷物のほとんどは炊事棟に運んであるので被害は最小限に留められたが、あの世へ行っていたらと思うとそら恐ろしいぜ、まったく!

 相変わらずムチャクチャの暴風雨の中、炊事棟でビショ濡れの服を着替え、同じく濡れたシュラフではなくシュラフカバーにもぐってもう一度寝ることにした。しかし危機一発だったぜ。

 去年もここで似たような目に遭ったがスケールが桁違いだった。

 朝、なんだかはっきりしない気分で目覚めた。

 とりあえず飯だけは炊こう。画像の通り、飯炊き名人となり、いつもの納豆定食を腹に詰めこんだ。

 しかし、よく生き残れたなあ。もの凄い虚脱感で呆然としていた。

納豆定食
 こんな時は、ベースの和琴キャンプ場へ帰ろう。そして思いきり温泉三昧にふけるのが得策だ。

 テントを撤収し、屈斜路湖へと愛機を走らせた。

 全身に針のようにぶつかる雨粒がとても痛かった。