最終章 自由な旅の空から


天馬街道付近


判官館森林公園キャンプ場


8月18日 雨のち晴れ


 今日は、安らかに寝坊する。窓の外は雨。もう雨ぐらいではまったく動じなくなっていた。ゆっくりとシャワーを浴びる。そしてホテルのフロントで会計をした。北海道で泊まる最後の夜、なにがあっても野営にするつもりである。

 カッパに着替え、出発する。日曜だから和商市場は定休日だ。まっすぐ白糠方面へ向かった。シールドに大粒の雨の滴がボツボツと音を立ててぶつかってはじけていくが、怯まずスロットルをあげ続ける。
 



豚丼
 「道の駅しらぬか恋問」に立ち寄る。

 そしてレストハウスにて迷わずオーダーしたのが「豚丼」だ。出てきた豚丼は炭焼きのお肉たっぷり。一口頬張ると美味い。ガツガツと食べた。大きい肉が6枚も入っている。いや違う、ご飯の中にも入っているから都合7枚だ。心憎い配慮である。かに汁も流し込んで完食。噂に違わぬ満足の逸品だ。900円也。


 浦幌、大樹を抜け天馬街道へ入る。ずっと雨が続いていたが小康状態となる。途中、翠明橋公園にて休憩を取った。

 あたりを物色すると湧水があったぞ。気温が低いせいか水が温かく感じる。顔と手を洗い、水を飲むと甘い感じがした。天気がよい日にもう一度飲みに来たいと思った。

 トイレも済ませた。よし行くか。街道の出口付近で乗用車同士の大きな事故があった。1台は道路わきへ、もう1台は横転している。大丈夫なのだろうか?途中、救急車とすれ違った。

天馬の湧水



判官館森林公園キャンプ場
 浦河、三石、静内を過ぎ、そして新冠へ。

 今夜の幕営地にと見当をつけていたのが新冠の「判官館森林公園キャンプ場」だ。ここの公園は東京ドームが実に14個も入る広大なものだそうな。しかし、受付では、昨日までは利用者が多かったけど盆休みが開けたこともあって宿泊者ゼロとの一言。こんな広いところに僕一人。


 誰も居ないならと炊事棟へテントを張っちゃえ。これなら雨でも大丈夫。そして米を炊いた。おかずは変わり映えしないサバ缶。でも間もなく、この旅の味ともお別れかと思うと切なくなってきた。食後、珈琲酎を煽る。この酒にも毎晩世話になったなあ〜

 HBCラジオからは巨人戦が流れている。シュラフに入った。後1日ある。想い出にひたるにはまだ早い。と思おうとするのだが旅の出来事が次々と彷彿してきた。そしていつの間にか眠りについてしまう。


8月19日 晴れ後雨


 小鳥のさえずりが凄い。思わず目覚めると6時。日が差していた。終わりよければすべてよし。

 苫小牧港が近いので、たっぷりと時間だけはある。乾かすためにテントは荷物を出して、風通しをよくし、シュラフは開いてバイクの上に干した。ゆっくりと米を炊いてツーリング最後の自炊をすました。腹ごなしにベンチに横になるとまた眠ってしまう。疲れが溜まっているのかなあ?

 かなり日が高くなってから、ようやく出発した。


 あっと言う間に苫小牧到着。フェリーターミナル近くにあるサンワールドへ向かった。

 ここは北海道のお土産を買うのに最適。海産物、メロンなどの農作物が所狭しとそろっている。なにより激安。

 職場へメロン、自宅にはカニやマスなどを宅配で送ってもらった。

サンワールド



マルトマ食堂
 サンワールドのすぐ近くにある市場に併設された「マルトマ食堂」。ここもかなりお薦めだ。営業時間は6時〜14時。

 旅の締めに贅沢をしよう。千円の「イクラ丼」にホッキ刺し、ニシン焼きを添えた。しかしホッキって、こんなに美味しいものだったのだろうか。やわらかくて臭みがぜんぜんない。

 ただ有名な店らしく行列ができていた。


 最後の最後まで現地レポートの手を弛めない永久ライダーもついに睡魔には勝てなくなってきた。


 近くの健康ランドへビバーク。ひと風呂浴びて仮眠室にて爆睡してしまう。

 夕刻に目覚めた。そろそろ乗船手続きをせんと。乗船する前にひと工夫。フェリーの中で使うもの。着替え、洗面用具、文庫本等。これらをリックに積んで荷物をパッキングし直す。これで出入りにフェリーの中であたふたすることはあるまい。

フェリーに乗船する前に


 乗船手続きを済ませフェリーへ。乗船待機中にブーツで地面を何度も踏み叩いた。来年まで、北の大地の感触を忘れないように名残りを惜しんでいたのだ。周りの人は、驚いていたようだが・・・

 雨が強く降ってきた。セーフ。ギリギリ濡れずに乗船成功!


自由な旅の空から



上サロベツ


 ロビーから苫小牧の街の灯をじっと見つめていた。悪天候のため、甲板へは出れん。

 出港の銅鑼の音が船内にこだました。

 苫小牧の街の灯が、大好きな北の大地が・・・少しずつ遠ざかっていく。

 僕の旅は何故、北海道へのひとり旅なのだろう。

 思えば15年前、旅の仙人「カブおんちゃん」から旅人のハートを硫黄山にて伝授された。

 北の大地で、かけがえのない大切なものを拾ったと思う。

 でも歳と共に汚れが染みつき、俗社会の中に埋没していく自分を感じていた。

 原点回帰・・・だから、その染みついた汚れを落としに毎年1度、渡道するのだ。

 家庭や仕事はもちろん大切だ。だが、ひとり旅ができないいい訳だけにはしたくない。

 僕は行動する。誰からも理解されなくたっていいし、また理解されようとも思わない。

 僕はただ、生涯「北の大地」と関わり続けるだけだ。

 そんなことを思いながら、すっかり旅の供となった「珈琲酎」をゆっくりと傾けた。

 灯がほとんど見えなくなる頃、思いっきり込みあげるものがあり座り込んでしまう。

 力をもらった。自由な旅の空から。明後日からは、スーツ姿の日常へ戻るだろう。

 そして、しばらく北海道病の後遺症に悩むと思うが、永久ライダーはまたひと回りしぶとくなった。


全行程17泊18日 総走行距離3500キロ


FIN


  旅は終わらない