第17章 釧路の夜



雨の釧路駅


 前章では、硬派な「永久ライダー」のイメージを損なう軟弱な内容と各所でお叱り(羨望?)を頂戴したので、もとの食べまくり山賊サイトへ軌道修正したい思う。


幻のカキ弁当



ピリカウタ展望台
 霧多布岬を出発し、道道123を30分程厚岸方面へ向かう。末広の少し手前から海沿いの狭い道へ左折した。するとピリカウタ展望台だ。なんでも厚岸観光十景に指定されているという。そして大黒島を一望できるなど、かなり見晴らしがよい。でも誰もいない。これだけの施設があるのになぜ?

 そして僕がしたことは、顔を洗って、髭を剃って、歯を磨いて、体を拭いて・・・とんでもない。誰もいないことをいいことに非常にさっぱりする。山賊復活だ!


 厚岸駅に着いた。ここに来た理由はただひとつ。ご存知の方も多かろう。そう、人気の「カキ弁当」を食さんが為だけだ。

 ところが・・・

 本日完売。マジっすか。これを食べるのを以前からかなり楽しみにしていたのに。あんまり悔しいから駅前の食堂で牡蠣を焼いてもらう。7つで千円。レモンなんぞを絞って、食べてみると肉厚でうめえ。なんで牡蠣がこんなに大きいの?昔、旅した広島の牡蠣もデカかったけど泥臭かった。でも厚岸の牡蠣はヘンな臭みが無くジューシーな味だ。



焼き牡蠣


釧路の夜


 釧路へ入ると雨が降ってきた。山賊だから基本的に都市部があまり好きではない。でも釧路や稚内は北の哀愁が漂う雰囲気があり密かに気に入っている。実はデジカメも携帯も電池が尽きかけているし、洗濯物が溜まり着替えも底をついた。相変わらず野営には拘りたいが今日ばかりはどうしようもない。

 駅前広場にバイクを停め、暫し思案する。できれば今夜はとほ宿やYHなど旅系の宿ではなく、ひとりきりになりたい。贅沢だけどホテルをとろうとか思っていると凄い爆音。隣にバイクが3台停まる。うち1台の男が話しかけてきた。

「永久ライダーさんじゃないですか」
『おっ、きみは根室のカニ屋で一緒になった学生さんか』
「どうしたんスか?」
『うん、今日はもろもろの事情でな、宿を思案してたんだよ』
「あっ、それなら和商市場の裏の公園がいいっスよ」
『おまえらなあ〜』
 俺は誇り高き正統派の山賊?だから浮浪者みたいに公園に寝泊りしようとは決して思わん。こう見えてもメロンチストなんだ。あっ、ロマンチストでした。

「じゃー、また」
 オヤジギャグに呆れた学生軍団は爆音と共に去って行く。

 結局、駅前の「東急イン」へ宿をとった。


 久々に俗社会の香りをかいだ。デジカメ、携帯の充電をさっそく行う。そしてフロントで聞いた「洗濯屋」へと向かった。

 洗濯をしている時、店主に地元のお薦めの居酒屋を紹介してもらう。「にいさんが泊まっている東急インの真後ろにある酒楽だよ」との一言。


 居酒屋「酒楽」、安くて美味しいらしい。東急インの支配人も常連だとか。

 そしてフロントへ鍵を渡し、夜の釧路へ。

 酒楽に入った。常連さんが集うまさに穴場だ。メニューが凄く安い。



酒楽にて
『今夜のお薦めの肴はなんですか?』
「これだよ』
 威勢よく大きな魚を出した。
「キンキじゃないよ。メンメっつーヤツだ」
 キンキは鯛科だが、メンメはメヌキ科だそうな。
「キンキは刺身がいいけどメンメは焼き魚がいい」
『おっ、そいつにしてくれ』
「あいよー」
 うめえ、脂が乗ってて、骨までしゃぶれる。もう最高!

 ツブ貝もオーダーしたら、殻を手で叩く肝の出し方まで伝授された。


 しばらくすると隣にご夫婦の旅行者が座った。

「旅人ですか?」
 と話しかけられる。
「私達は、北海道初めてなんだけど、すっかり感動しちゃって」
『そうなんですか。僕も北の大地に魅了されているんですよ』

 旦那さんがいろいろ質問してくる。
「旅人していて異性との出逢いとかあるんですか?」
 と無邪気に聞いて来た。ゲッ、思わず酒を噴き出した。

『うっ、いや、あの、その』
 昨日までの僕なら、きっぱり「ございません」と言い切ったと思う。しかし、なぜかスミレの顔が浮かんだ。そして、なんにもないのにうろたえている。

 そこから、奥さんの総攻撃が始まる。
「何かあったの、家には奥さん待っているのでしょうがあ〜そんなんでいいの」
『何もないけど、よくないかも知れませんね』
 スミレは家族から遠く離れた旅の空にて、僕の中へ父性(という程、歳が離れてないけど)のようなものを見ていたふしがある。もちろん天地神明に誓って色恋沙汰ではない。でもそんなことを言ったらますます混乱し、事態の収拾がつかなくなるだろう。

「なんで、こんなご時世にそんなに連続して休みがとれるの?」
「なんで家族が居て、そんなに長くひとり旅できるの?」
『・・・・・』
 黙秘する。

 動物並みの好奇心に、もう答えるのも億劫になってきた。この人には男のロマンは絶対に理解されまい。まるで僕は、「北の国から’02遺言」で顔をセセキ温泉へトドに突っ込まれている純の心境。

 旦那の質問へだけ答えようとすると
「うちの旦那を洗脳しないで」って、キーキー。
『わかった、わかった。家族が一番ね』

 22時頃、そそくさとホテルへ帰った。明日は雪が降ってもキャンプだ。

 旅人と一般人の感性のギャップが大き過ぎる。山賊としては、どうも実社会はやりづらくなってきた。果たしてこんなんで社会復帰できるのだろうか?すっかり浦島太郎状態である。ベッドに入ると、すぐに寝てしまう。宿をとった方が野営より疲れる。