第7章 愛とロマンの8時間ハイキング


8時間隊の面々
 8月6日 快晴。ジリジリと暑い。昨日まで、キタノと行動を共にしていたミオちゃん、リエちゃんコンビは今日旅立つそうだ。特にミオちゃんは、最後まで8時間コースに参加したかったらしく、かなり残念そう。でも来年、是非参加されてみてくださいね。どうもお世話になりました。あと写真やお手紙ありがとう。

 ミオさんの哀しそうな瞳を見た瞬間、少し胸が痛んだ。
 さて、かなり以前から西海岸8時間ハイキングにチャレンジしようと思っていたが、体力に自信がなくためらっていた。でも4時間コースで充分手応えを掴んだキタノは、前日に延泊を決意。一念発起し、西海岸8時間コースに名乗りをあげる。

 メンバーは、「まっちゃん」、「モミヤマ」、「トム」、紅一点の「ナナ」、そしてキタノ。昨日に引き続き隊長の大役を仰せつかる。オーナーに香深井までクルマで送っていただき、コースの説明を聴く。いよいよ出発。勢いよく礼文林道に突入せり。ところが・・・


 先頭を歩く俺に何千匹のアブ野郎が集中攻撃。「ヒ、ヒッチコック〜」怪しい踊りを踊るように駆けまくった。虫除けスプレーなんて用をなさない。「隊長、道違いますよ」。トムの声がする。あまりのパニックでルートを間違える。至らない隊長で申し訳ない。ゆうに2時間分の体力を浪費しちまった。

宇遠内の売店前にて

 途中ですれ違ったカップルに「この先は大量のアブで大変ですよ」と警告してあげたが元気なさそう。どうにか林道を抜け、宇遠内の売店到着。陸上から物資が運べず舟で持ってくるらしい。ここのばあさんのとった行動には、ちと参ったなあ。いや驚いた。ここでは書けません。詳しくはBBSにでも質問してくだされ。

 先ほど林道ですれ違ったカップルは昨日の夕方、暗くて道が見えず、引き返して来て、ここの売店の納屋にビバークしたそうな。特に彼女の方が憔悴していたらしい。道理で元気が無かったのか。このコースを甘く見ると大変なことになるようだ。



プライベートビーチ
 岩がゴロゴロの海岸線(いわゆるゴロタ)をひたすら歩いた。ここ歩いてて間違いないだろうな。自問しつつ時折、オーナーから借りてきた地図を見る。本当に歩きづらい。しばらくすると綺麗な入り江を発見。人があまり入らないところなのでプライベートビーチ状態。ナナが喜んで海水に浸かっている。ここでキャンプしたら最高だろう。 


 海岸線を抜けると強烈な崖登り、「砂走り」と言われているポイントだ。まさに「ファイト」「一発!」状態。これはハイキングというより登山だろう。8時間コースでも遭難事故が結構あると聞くが、これでは犠牲者が出てもおかしくない。

 砂走りを抜けると森の中へ、途中の沢まで来るとモミさんと僕しかいない。あれ〜。そのうちトムくんが来たが、まっちゃんとナナがまだ現れない。

実際は、もっと傾斜がきつい
 「お〜い」と何度も叫んだ。不安にかられ、捜索隊出動かと思った時にようやく2人が到着。ホッ。
 「隊長、速いよ」の声。このあたりからやっと隊員の皆さんひとりひとりの心が打ち解けて、ひとつになってきた。



延々と一本道が続く
 次の沢で昼食をとっていると30人くらいの桃岩隊(有名な桃岩荘YH)の皆さんが整然と通過して行った。前後にヘルパーさんか常連さんがきちっと統制をとりながら。「あともう少しで昼食ですから頑張ってください」とメンバーのおばさん達へも叱咤激励している。桃岩荘って、意外に年輩者も宿泊しているそうだ。伝説のミーティングにも参加しているのかいな?でも素晴らしい、桃岩隊。

 その頃、我が星観隊の状況は・・・、

「隊長、おしっこ・・・」

「おまえ、絶対に高山植物の上だけにはかけるなよ。生態系が変わっちまうぞ」
 トムを怒鳴る。

「あっ、新種の高山植物だ」
 トムがナナへ呟く。
「わーホントすごーい」
「うっそ〜」
 葉っぱの上に僕がさっきあげた梅干しの種乗せただけじゃねえか。怒るナナ・・・

 楽しいけど、万事こんな調子ですわ。トホホ・・・

 しばらくして出発。登山家のモミさんと僕のペースは、速過ぎるらしい。
「キタノさん、速い」
 またしてもナナたちからクレームがきた。

 森を抜けると草原の一本道が続いていた。

 星観隊は、延々と歩く。


 アルピニストのモミヤマは北海道民である。「道民は意外に道内を旅行していないよ」と語っていた。まっちゃんは静岡の社会人。岐阜のナナは大学院でバイオとか難しい研究をしている。トムは、山口県の大学生・・・ちょっと待てよ。や、山口だと。長州人か。「斬る」。まさに会津出身者にとって不倶戴天の仇敵。

 何てウソ、現代まで恨みつらみを云うほど度量が狭くありません(笑)。とにかくトムは、おもしろくていいヤツである。この8時間ハイキングのムードメーカー的存在と言える。

高山植物が咲き乱れる



マネをしないでください
 スカイ岬で休憩をとり、だらだらと長い海岸線を歩いた。ナナとトムは、えらい元気がいい。例のゴロタ岬の長い登りの入口で小休止。僕は、前半のハイペースで少しばて気味かな。これから岬の頂上までの激しい登りを延々と歩くのかと思うともうイヤン。でも気持ちを取り直していざ出発。みんなの息が後ろから聞こえてくる。全員が相当疲れている。と思ったら「おー、牧場は緑・・・」ナナが歌い出すではないか。この人は魔女?凄過ぎる。次は踊りか?
 ナナの歌に励まされ、まっちゃんやトムたちも歌い出す。凄い。最強のチームだぜ。そして頂上到着。皆さんの歌声でパワーを回復し余裕、余裕。さらにモミさんとまっちゃんが柵を乗り越え断崖絶壁の真上へ。おいおい、そうやって事故が起きるんだよ。ご覧の皆様は決して真似をしないでください。このチームが異常なのです(笑)


 ゴロタ岬を一気に降りて、ひたすらスコトン岬へ。万歳。みんな本当にいい顔してるわ。本当にお疲れさまでした。そしてお世話になりました。
 
 17:30頃、最北限の地に到着。記念写真を撮り星観荘に戻るはずがトムがスコトン岬にカメラを忘れた。宿の近くから猛ダッシュで取りに戻った(僕なら走って戻る気力など起きない。あんたは偉い)。カメラは無事あった。よかった。よかった。

 星観荘が見えてきたぞ。30キロの道のりを間もなく完歩する。こんなに歩いたの生まれて初めて。こういう感動も何年ぶりだろう。

宿総出の盛大な出迎え



万歳!
 宿では、オーナー始め、宿泊されている皆さんの盛大かつ熱烈な出迎え、ちょっと照れるなあ。トムが、ドロンズみたいにみんなで手をつないでゴールしましょうよと言っている。「隊長、恥ずかしがらずにほら」と5人全員が手をとって感動の帰還。まさに礼文島の神髄。

 宿の皆さん全員の手とタッチして、西海岸、愛とロマンの8時間、いや実際には10時間ハイキングの幕は閉じた。この感動は、生涯忘れないだろう。

 その夜のミーティング、宴会でもこの5人の結束は固く遅くまで盛り上がった。いや〜できた。これで思い残すことなく明日は礼文を去れる。普段、クルマやバイクの目線ばかりだが歩くことの目線の大切さを礼文で学ぶことができ有意義だった。

 8月7日 僕以外、全員で礼文岳登山。すいません、参加できなくて。さらにナナは、利尻富士登山へ(お手紙では悪天候のため断念したそうだ)。何でみんなそんなに体力あるの?根性のない僕は、朝2番のフェリーで、たくさんの思い出多き礼文を去った。よし、次はこのメンバーで利尻富士頂上を制覇しよう。

 星観荘のオーナーさん始め、お世話になった皆様、本当にありがとうございました。心から御礼申し上げます。


スナップ集


宇遠内にて、まっちゃん、キタノ、トム、ナナ
画像提供:ナナさん


礼文林道にて(画像提供:ナナさん)

星観荘、恒例の朝の写真撮影(画像提供:ミオさん)