利尻富士
第6話 利尻富士と花の浮島 8月7日(土) 天候 晴れ          


 5:00起床。一刻も早く、このRHを離れたい。素早くゼファーに荷物をくくりつけた。パッキングが甘い気もしたけど。同宿の男がこの建物をバックに写真を撮ってもらいたいとヨッシーに依頼していた。「ここで写真撮ってうれしいか?」と二日酔いで、さらに不機嫌の僕がつぶやいてるとヨッシーに目顔で制しられた。

 念のために書いて置くが、このRHだって、オーナーの人柄を慕っている人が結構いるし、現に僕の旅仲間にも常宿にしている人もいる。つまり、どんな宿でも合う、合わないは個人の判断だと追記しておく。

 フェリーターミナルに到着。礼文島は祭りで混んでいるそうだから、まずは利尻島を目指すことにした。乗船名簿に記入し、一安心する。6時台の始発で出港。

 途中「利尻富士」が見えて来た。これだけ真夏にきれいに見えるのはめずらしいらしい。カモメが乗船客からもらえるお菓子をねらって集まってきた。おもしろい。客室でくたばっているヨッシーを呼んできたら喜んでエサをやり始めた。飽きてきたので僕だけ客室に戻ってゴロンとしているとヨッシーが「みんなエサをやり始まって収拾つかなくなってますよ」と苦笑いしながら戻ってきた。
利尻側から見た礼文


ほんとにうまい
 8時半くらいに利尻島上陸。漁協でやっている食堂で遅い朝食を取ろうとしたら10時にならないとやってないそうだ。店の前のイケスを見ると何とソフトボールくらいの大きさはあるだろうか「巨大ウニ」がたくさん入っていた。スゲー。このウニだけでも食べれるかと店の人に聞くと「OK」。一匹食べたら朝食を食べたく無くなった。500円也。

 その後、島内一周にチャレンジする。オタトマリ湖で休憩。何件かのみやげ物屋やレストハウスが競合していて激しい商売合戦が繰り広げられいる。さらにこの先の昆布工場兼ドライブインを誹謗する看板もある(この島には昆布工場が無いのにあるような看板を出し、さらに強引な商法は島内でも評判云々・・・)。何とも商魂たくましい。 

 晴れているが暑くもなく寒くもなく快適なライディングを楽しんでいたが・・・首筋から蜂が侵入して来るという驚愕の事態に。

「アチチ・・・」

 ここで取り乱しては大事故のもと、必死に耐えながら蜂を押しつぶした。何箇所か刺され激痛をこらえながら走行する。


 「俺の生きざまを見てくれ〜


 有名な「ミ○ピス屋」にも立ち寄ってみる(米が原料で手作り、牛乳とカルピスを合わせたような味)。ここのおばさんも商売っけが多く、店に入った瞬間から自分が取材されたビデオを放映し、盛んに自家製ジュースの宣伝を始めた。僕はただミ〇ピスを飲みに来ただけなのに結局断り切れなくなり4500円のギョウジャニンニクジュース1.5リットルを買わされてしまった。ヨッシーも何か買っていたようだ。無念なり!

 ちょっと幻滅しながら利尻島一周を終え、朝、立ち寄った漁協の食堂で炭火焼の「ホッケ定食」を食べた。ここは良心的な値段でうまいと思う。ヨッシーは名物「ウニ丼」を賞味していたが僕は今朝食べたウニで充分である。

 ヨッシーのガイドブックによると利尻富士登山口キャンプ場付近から何百メートルか登ると、おいしい湧き水(甘露泉水)が出ているというので行ってみることにした。途中、今度は荷崩れだ。荷物の一部が路上に落ち、一部はマフラーに絡みついていた。停車して確認すると、何と自慢のヨシムラサイクロンにアルミマット表側の青いナイロンが溶けてこびりついているではないか(T_T)。号泣!

 何とか登山口まで行くとヨッシーと管理人のおにいさん(芸能人のアゴさんに似ている)がなにか話していた。ヨッシーが僕に水場まで登らなくてもアゴさんが「甘露泉水」をごちそうしてくれるらしいと言った。アゴさんは長椅子に寝そべりながら、奥さん?に冷蔵庫でよく冷えた泉水を出すことを命じコップで飲ませてくれた。確かに美味しい天然水だ。

 「今日、どこに泊まんだあ」と訊いてきたのでヨッシーが利尻島は1周したので礼文島に行くと答えるとひどくがっかりしている様子だった。礼文と利尻、どうやら永遠のライバルらしい。島同士の交流も少ない。また両島のYHのミーティングでは、利尻が「うんこ島」で礼文が「ぞうきんしぼり島」とお互いを罵りあうなど(もちろん100%本気ではないだろう)熱きバトルが展開されている。

 「そう言わねえで利尻に泊まってげえ。バンガロー2千円だ。4人で泊まれば一人五百円だどお。ヘビもクマもいねえ。乾燥してっからヘビいたらカラカラだあ。礼文は凄く風強いぞお」などと粘り強く利尻への宿泊を勧める。ヨッシーは吹き出しそうになりながら、それでも礼文島に行くと言ったら、存外あっさり「そうがあ、まだ来いよう。待ってるがらなあ」と諦め、礼文のキャンプ場情報を教えてくれた(あまり参考にはならなかったけどうれしかった)。奥さんも手を振ってバイバイしている。ピースサインを送り登山口を後にした。とても牧歌的な人たちである。

 フェリーターミナルに向かう途中、またも荷崩れ、根本的に積み直した。ロングツーリングにアクシデントはつきものだ。山に谷があるようにな。どうやら一種の「サトリ?」を開いてしまったかも。蜂に刺されたトコが痛い。             


愛とロマンの礼文島


 利尻島から礼文島へはフェリーで40分くらいで到着した。フェリーが接岸するかなり前からどっかの民宿の従業員らしき人たち数名が大きな声で「お帰りなさい」と叫んでいた。丁寧なサービスだと思った。上陸してから彼らのTシャツを見ると「桃岩荘」とプリントしてあった。歌と踊りで送迎ししてくれる有名なYH「桃岩荘」のヘルパー達だったのか。

 この日本最北の島は、低温のため低地でも高山植物が咲き乱れ、別名「花の浮島」と呼ばれている。天国のような所だ。島内は一周することはできず西海岸は、愛とロマンの8時間のハイキングコースになっている。今回は、オートバイの装備だけなのでハイキングはできないが、いつかはトライしてみたいと思う。

 バイクにまたがり、どうせ行くならトコトン北に行くしかない。ということで日本最北限「スコトン岬」を目指した(最北端は宗谷岬だがロシア国境に一番近いということで日本最北限というらしい)。男は黙って北へ向かうのだ。
トド島が見える

 ヨッシ−によると最北限への道を走っている最中、きのうのRHで知り合った飛脚くんが今度はチャリダーになっていたらしい。スコトン岬から阿修羅の形相で走って来たのとすれ違ったようだ(僕は気がつかなかった)。やはりバイクを稚内に置いて身ひとつで礼文島に渡り、港の近くでレンタル自転車を借りて最北限を制覇していたのだろう。東京から一切高速道路を使わず自走し、しかも礼文ではライダーからチャリダーに変身して3日目で最北限を極めるなんて凄い執念の持ち主だ。これからは君のことを「北限の鬼」と名づけよう。畏敬の意味をこめて。

スコトン岬
 スコトン岬到着。透き通るような海。点在する小島・岩礁、風は強いが最果てのすばらしい眺めだ。これで本土最東端(納沙布岬)・本土最北端(宗谷岬)・日本最北限(スコトン岬)すべて制覇。

 スコトン岬の崖の下に日本最北の民宿がある。波をかぶったらどうするんだと余計な心配をしてしまう。ここの宿(他にも星観荘なども)では沖の無人島「トド島」までの漁船を手配してくれるらしい(5人以上のみ)。そこで釣りをすると魚が入れ食いだそうだ。行きてぇ〜(翌年にはきっちり、リベンジしてます)。またこの岬は愛とロマンの8時間ハイキングコースの出発点としても知られている。

 今日は、久種湖畔キャンプ場に野営するつもりだ。キャンプ場近くの街「上泊」のマップが置いてあった。これは役に立つ。テントを設営しようとするが風が強くたいへんだ。「風でできない!」とヨッシ−がベソをかいている。しょうがないので手伝ってやった。やれやれ手のかかる家来だ。何とか設営しヨッシーとマップを見ながら銭湯に向かった。汗を流した後、商店街に行ってみると「ふるさと祭り」の真っ最中だった。

 生ビールを片手に出店をのぞくと立派なエビの炭火焼きが350円で売られていた。もちろん購入。普段はいくらぐらいで販売するのか聞いたところ「2千円は取るね」と商店会の若い衆は言っていた。さらにほっけが150円。ホタテバター焼き200円。ウニ焼き400円。安すぎる。生ウニもあったので値段を聞いたら「タダだよ」との答え。どひゃ〜。食べ方まで教わり2つもご馳走になる。最高だな礼文は。本当に天国みたいな島だ。

 もうひとつタダのウニが食べたくなり近づくと「手をだしな」と言われたので素直に出した。そしたらなんとドバッと実のほうだけを片手に大盛り乗せてくれた。両手に大盛り乗せてもらって「こんなに食べられないよ」と叫んでいる女性もいる。生きててよかった。島民でもないのにこんなに恩恵を受けてよろしいのでしょうか?ヨッシーは、お昼に利尻島で「ウニ丼」食べて後悔していたが、ウニがただの魅力に感激しちゃって、奥さんに携帯で報告していた。「こ、この島、ウニただだよ。ただ」。おいおい、そんな嫌みなことするな。案の定、電話を切られたらしい。

 僕が北海道で一番好きなところはどこかと訊かれたら、なんのためらいもなく礼文島と答えます。誰がなんと言っても「礼文島が大好きです」と答えます。すっかり満腹になりキャンプ場に戻った。「なんていい島なのでしょう、礼文は」と思いつつ就寝する。うに、ウニ、雲丹と寝言を言いながら。たぶん。


*エキノコックス症について
 大正時代、千島列島から12つがいのキタキツネが野兎・野鼠駆除の目的で礼文島に放された。そしてエキノコックス(サナダムシの一種、感染すると死亡率100%)の歴史の幕開けとなる。エキノコックスは、キツネや犬に寄生しやすいことから生水を通して人間にも感染する恐れがある。そこで島では、キタキツネ・犬を徹底的に駆除した。終宿主が存在しないので、現在はエキノコックス症の最も安全な島と言われている。