クリオネ
第5話 二度目の本土最北端
8月6日(金)天候 晴れ後雨後曇り後晴れ

 犬がかしましく吠えている。お陰で早朝に目が覚めてしまった。どうやらオーナーの犬2頭(シバ系の親子)と客の犬(白い巨大なヤツ)がいがみ合っているようだ。「散歩ついでに外に出てみるか」と思いつつ犬のところに行ってみた。白い犬の頭を撫でていると飼い主らしき、おとうさんが声をかけてきた。

 札幌から来たというおとうさんは、奥さんと小さい娘さんと犬との家族旅行である。いろいろ話を訊くと奥さんも娘さんもあまり体が丈夫ではないらしい。また動物づれなので結構宿泊拒否をされるそうだ。普段は仕事で頑張って、休みは家庭サービスの日々。奥さんや子供さんにもすごく気を遣っている様子がよく伝わってくる。おとうさんて本当にたいへんですね。というオレはかなり複雑な心境?

 次は知床に行きたいと言っていたので僕の北海道宿泊ガイドで動物可の宿を探してあげた。さっそくおとうさんが電話をするとうまく予約がとれた。よかったね、おとうさん。僕が言っても説得力がないけど、あまり無理をされないでくださいね。

 朝食は8時過ぎなので、かなりの時間があった。やっと食べ終わり、同部屋の税理士氏や札幌のおとうさんにも別れを告げていざ出発するつもりが、車旅行の若い男が、すっかり宿の雰囲気にひたってしまい写真を撮りまくっている(彼の車は我々のバイクの前に駐車してある)。しばらく待ち9時ごろ、ようやくサロマニアンを出発することができた。ところが最初は晴れていたのに、しばらく走っていると雲行きが変わり雨になった。トホホ。

 途中、あの有名な「網走刑務所」を見学する予定だったが,いつの間にか通り過ぎてしまった。「俺は昔見たからいいや」と言ったらヨッシーはがっかりしていた。網走付近は曇天。


この辺で勘弁してやる!
 紋別でヨッシーの懇願があり、流氷科学センターと水族館へ立ち寄った。マイナス20度の中で白熊と格闘したり、クリオネを見たり結構楽しませてもらった。噂だとマイナス20度の中、マッパー(裸のライダー)が出るとか出ないとか?  

 

 ひたすら通称オホーツク国道を走り、16時半頃、本土最北端「宗谷岬」に到着する。ライダーの数が多い。僕は2度目なのでそれほど感激はないが、とりあえず記念写真を撮って稚内へ急ぐ。できれば今日のうちに礼文島に渡りたい。 
宗谷岬’99

 17時半過ぎに稚内フェリーターミナルへ到着する。だが礼文行最終便は16:30に出航してしまった。残念。「今日は稚内泊まりか。2日連続の民宿は贅沢だ」とヨッシーに話しながらなにげなく防波ドームの方を見るとたくさんのライダー達がゲリラキャンプしている。まさか我々がそんな真似をするわけにもいかないのでRHを探すことにした。 

 低料金の某RHの了解をとり、建物?に着いてみると廃屋みたいな気の滅入る建物だった。おまけに後ろがお寺でカラスがいっぱい鳴いているシチュエーション。中に入ると古い湿っぽい空気がよどんでいた。そして、オーナーから「今日は金曜日だから前金ね」と言われた。「金曜日はカレーの日」みたい。でもなぜ金曜は前金なんだろう?(ほんとはいつも前金らしい)。とにかく「前金、前金」と騒ぐので料金(600円)を払った。逃亡を未然に防ぐためかもね?

 バイクの音はするが、やたら引き返して行く。みんな建物を見て、引いてしまい逃げ帰っているような気もするが。僕が贅沢なのかも知れない。でもここは、古くても味があるとういうカテゴリーには属さないと思った。

 それでも我々の後から、ようやく1人の若いライダーが現れた。彼は、昨日東京を出発して高速道路を一切使わずここまで来たそうだ。え、ちょっと待って。ここは、日本の最果ての街だぞ。どんな真似をしてきたのだ?飛んできたのか?

 よく訊くと途中、青森駅でシュラフだけで野宿し、それ以外は、ほとんど全部走りっぱなしだったそうな。「一気走り」というやつですか。凄い猛者もいるもんだ。さらに所持金が1万円ちょっとしかないので、バイクを置いてフェリーで礼文に行くと言っている。飛脚みたいな人ですな。


 のんびりできればまだいいけど、やたらオーナーが現れる。礼文の民宿に携帯から電話をしてる最中にも現れ「民宿はよくないよ。キャンプがいいよ」と言い出す始末だ。もちろんキャンプメインの旅で行くつもりだが後年のように別にポリシーにしていたわけじゃない。それに僕はなにが嫌いかというと強制されるのが大嫌いなんだ。せっかく美味しい料理を出してくれる民宿やアウトドアツアーが充実した宿がそろう礼文に行くのだ。先のことは我々の自由にさせてもらいたかった。

 常に監視されてるみたいで落ち着かないのでヨッシーと速攻で銭湯に行き、帰りにビヤホールに逃げ込んだ。遅くまで飲んで精算をしていると、レジのおねえさんが「ライダーですか。チャリダーですか」と聞いてきたのでライダーだと答えた。あまりにも腕の日焼けがすごいのでどちらかだと思ったそうだ。彼女に「バイトなの?」って聞いてみたら『いえ店長です』ときっぱりと答えた。し、失礼しました。

 「明日はどちらへ」と訊かれたので礼文に行きたいと答えると島ではちょうどお祭りがあるのですごく混んでるという情報を提供してくれた。どうりで礼文島で泊まりたい宿から全部ふられたわけだ。「また是非いらしてください」と言われ店を出る。感じのいい店長だと思いつつシュラフに入り熟睡。