第12話 屈斜路湖再び
月13日(金) 天候 曇り後晴れ                    

 朝、テントをタタんでいると小さい虫がテントの裏にたくさんついている。よく見ると大量のノミだ。ひ、ひぇ〜。こんなとこに僕は寝てたの。ここは牧場だからな。でも北海道にノミは、存在しないはずじゃないですか?て、撤収!何でサバイバルがこんなに続くの。

 気を取り直して出発。今日のターゲットは、今回最も行きたかったポイントのひとつ「オンネトー」だ。オンネトーとは、アイヌ語で「老いた沼」という意味だ。ガイドブックによると湖面に映る雌阿寒岳、阿寒富士の姿が実に見事で、水面が鏡のように静まりかえった時などは、息を飲むほど神秘的だそうな。さらに刻々と表情をかえることから、昔の人は「五色沼」とも呼んでいたらしい。またキャンプ場から歩いて40分ほど登ると高さ30メートルもある湯の滝が見れる。この湯の滝は、その名の通り摂氏42度の温泉の滝だ。

 意外に早くオンネトー到着。確かに人をあまり寄せ付けない雰囲気が漂っているが、曇っているのでいまひとつ湖面の美しさに欠ける。裏磐梯の五色沼の方が、はっきり言って綺麗だと思った。でもここにキャンプすれば明日には晴れて、神秘的な美しさになるのだろうと思い直し、国設野営場に向かった。

 赤エゾマツに囲まれたキャンプ場では、早い時間にもかかわらず、すでに何張かテントが設営されていた。ところが管理棟がしまっている。しかも「火山活動のためキャンプ場は閉鎖しています」との張紙。湯の滝どころじゃないよ。

 呆然としていると近くにいたライダーが見かねて、ここは去年から閉鎖されていて、今テント張っている人は、みんなゲリラキャンプだと教えてくれた。「俺らもゲリラキャンプやるか」とヨッシーに言ったら禁止区域で何かあったらワイドショーで「マナーのないキャンパーが被害に遭い・・・」と氏名入りで全国にオンエアーされるからやめた方がよいと言う。千葉から家族づれで来ているクルマのおとうさんもここにキャンプする予定だったらしく隣で悩んでいる。

 結局、前半立ち寄ったお馴染みの屈斜路湖和琴湖畔キャンプ場がここからそう遠くないので、そこに向かうことにした。千葉のおとうさんから、いろいろ質問されたので先日泊まった国設知床野営場を勧めた。わずかな休みを利用して1日に相当移動を重ねているらしい。おとうさんの顔が少しやつれてる。先日の札幌のおとうさんといい、今日の千葉のおとうさんといい、これが本来のおとうさんの姿だと妻子を置いてきた我々は苦笑いした。


 途中、阿寒湖アイヌコタンに立ち寄る。コタンとはアイヌ語で集落という意味だ。道の両側には民芸品店が並んでいて、手作りの置物や木彫りの熊(一家にひとつは置いてあるようになったので売れないみたい)など、北海道ならではのお土産が手に入る。

 コタンの真ん中にあるオンネチセでは、アイヌの着物を着た女性たちが、アイヌ古式舞踏を披露してくれるそうだが見れなかった。無念なり。

 和琴湖畔キャンプ場に到着。「来たよ」とオーナーに声をかけた。「何?もう北海道一周して来たの」と言われたので「もう2周目」と答えると吹き出していた。いつもゴロゴロしているオーナーも、お盆休みのかき入れ時だけあって非常に忙しそうだった。

 キャンプ場もえらい混んでいる。わずかなスペースを見つけテントを設営する。ところが近くでキャンプしている津軽訛りの団体(数家族、女性や子供もたくさんいた)がすごくガラが悪い。酔っ払って大騒ぎをするのはいいが、バイク置き場にあるバイクを見て「バイクたくさんあるから気に入ったのあったら直結してくれるよ」と他人のバイクに勝手にまたがり失礼なこと言っている。

 この手の連中はアメリカンがお好きらしい。ヨッシーのドラスタも狙われていたので、ゼファーにまたがっていた僕(実は酔っている)が大きな声で「おまえのドラックスター狙われてるぞ」とヨッシーに叫んでやった。絡んできたら迎撃してやろうと思ったぐらいタチの悪い集団だった。僕の声で連中もヨッシーも結構慌てていた。その後、彼らはテントが密集している中でロケット花火打ち上げて「火事になったらどうするの」ってオーナーに怒られていた。こんこんちだ。


ヨッシーの隠し子疑惑?
 ヨッシーは、今度はひとりで表摩周湖に向かった。僕は酔っているので留守番。今日はは、雲が多いから見えないよと出掛けに釘をさしておいた。ところが携帯に「見えてますよ。サイコーですよ」とわざわざ連絡が入った。僕が初めて北海道に来たとき、2度摩周湖にチャレンジしたが2度とも霧で見れなかった。なのになぜ初めてのヨッシーが2度とも見れんの?「あ〜そ〜、よかったねえ〜」と言ってビールを一気に飲み干した。ケッ!こんこんちきめ!

 夕食は、レストハウスでとった。このキャンプ場は6月〜10月までなので、OFFは何をしているのかとオーナーに訊くと「何にもやってないよ」と答えた。ということは1年の半分以上休み。忙しいのは、夏の週末やお盆あたりだけ。オフは釣りをやったり、自家製イクラ造ったり(少しご馳走になる。うまい)と趣味に生きてるらしい。羨ましい限り。

 そのうち、12年前は完全に仕切ってた「おばあちゃん」も店に出てきた。昔話をいろいろして、次に僕が訪ねるまで元気でねといいつつレストハウスを出る。

 テント前のわずかなスペースに戻り、ヨッシーと一杯やってると向かいのテントの青年が寂しそうに佇んでいた。「こっちで一緒に一杯やらない」と誘ったら「いいんですか」と言って喜んで移動してきた。彼は4月に長野県を出発し、ここまですべて歩いてきたそうである。凄い豪傑。間宮林蔵のような人だ。ガンガン飲ませたけど酒も強い。10時くらいに就寝したが、深夜まで続くあのガラの悪い連中の馬鹿騒ぎがうるさかった。