第11話 北海道内陸部一周出撃  
8月12日(木) 天候 晴れ             

 昨夜、不注意から両足の大腿部や膝に大ヤケドを負い、その痛みで起床。ヨッシーには「たいしたことないよ」と強がって言ってはみたが、ホントは凄くピリピリして痛い。足が曲がらない。痛みと自分自身への不甲斐のなさに情けなくなりつつテントを撤収した。

 そして、いよいよ内陸部一周がスタートする。社会人の妻子持ちが北海道の海岸線を一周し、続いて内陸部一周に旅立つなんて、途方もない計画を立ててしまった。企画者の僕やその計画に乗ったヨッシ−は、なんて偉大な勇気あるアホだろう。しかも僕の体は、満身創痍。顔から足にかけて全身、蜂・蚊などの虫刺されでボロボロ、関節の内側は汗疹だらけ、おまけに例の昨夜のヤケド(なぜかヨッシーは虫刺されが無い。サイボーグかも?)。この状態で、内陸部一周に挑むのだ。まさに壮絶な後半戦のスタートとなりつつ、まずは支笏湖に向かう。

 スタートしてすぐスタンドで給油。従業員の話だと、この夏は異常な暑さと不景気で洞爺湖の温泉ホテル街はガラガラとか。その代わりキャンプ場が大盛況と言っていた。どうりで人が歩いていないわけだ。


 ワイディングをクリヤーしているうちに支笏湖到着。道央では一番気に入っている美しい湖だ。支笏湖は湖周41キロ。カルデラ湖で最深部360メートルと北海道で最も深い。北海道ではサロマ湖、屈斜路湖に次いで3番目に広い湖水面を持つ。日本でも8番目の大きさだ。

 ホテルや売店のある手前の駐車場にバイクを停め、湖畔近くまで歩いていった。一番の賑わいを見せるはずのこのあたりも落ち着いた静けさを保っている感じがする。快晴の空と透明度の高い鮮やかな青の湖がとてもマッチし、「清楚」(一番僕には似合わず、そして一番僕が好きな表現)という字がピタリとはまると思った。湖全体を見渡すとここ以外は原生林に覆われているように見える。遊覧船の存在がとても目障りだ。そっとしておいてあげたいという気持ちが湧いてくる。静かに支笏湖を去った。

 やがて国道・道道と乗り継いでいるうちに夕張へ入る。まず「幸福の黄色いハンカチ」思い出広場に向かう。監督山田洋次、主演高倉健、倍賞千恵子。当時のロケ地や武田鉄也が乗っていた「マツダファミリア」がそのままに残される。かなり古い映画(昭和52年公開)になっちゃったけど一見の価値ある名作(炭坑全盛の頃と廃鉱になりメロンの町になった現在の様子がぜんぜん違うのも興味深い)だ。感動のラストシーンのように黄色いハンカチが風になびいていたのが印象的だった。そして僕も存外俗物だと思った次第。 


実際にロケに使ったファミリア

 ゆうばりメロン城を見学する。この地の特産である夕張メロンを原料にワイン、リキュールなどの製造過程を無料で見せてくれる。ここのメロン酒が美味そうだったのでワインと合わせて購入し、自宅に送った。

 帰りにヨッシーが夕張メロンを家に送りたいと言うので道路脇の売店に立ち寄った。夕張のキングメロンは都市部の果物屋などで贈答用として目の玉が飛び出るような値段で売られている。しかし品質によって秀・優・良・並・選外品と選別されていて、並や選外品などは、一山千円くらいからある。なかなか素人目の判断では難しいと思った。映画とは逆に帯広方面を目指し夕張を去った。

 日勝峠を越えて帯広へ向かう。この有名な峠は、12年前初めて北海道ツーリングをした際の僕にとって記念すべき初日のルートだった。そろそろ日も傾いて来た頃、広大な牧草地帯に覆われた十勝平野が眼下に広がって来た。

 帯広到着と同時に腹も空いたので帯広名物豚丼(専門店がいくつかある)を元祖”ぱんちょう”で賞味することにした。丼ものは、あげればキリがないが豚丼というのはあまり耳にしたことがないと思う。それもそのはず、ここ帯広だけの特製品なのだ。十勝は昔から豆の産地。豚を飼うにも飼料には苦労しなかった。いつからか十勝の豚は肉が締まっておいしいとの評判が立ち始める。


 昭和10年、”ぱんちょう”の先代店主が、この豚に目をつけ苦心の末あみだしたのが豚丼という訳だ。梅竹松(肉の量で値段が違う)の種類がある。何でもここのおばあさんの名前が梅子だから梅が最高級なんだと。せっかくだから梅をオーダーする。焼き鳥丼に似たタレをつけ炭火で焼いた厚切りの豚肉がご飯の上にぎっちり乗っている。脂身が適当にあり柔らかくてホントに美味い。僕は肉の中では特に豚肉が好きなのでたまらなかった。

 ヨッシーがオイル交換したいとのことなので、レッドバロン帯広店に立ち寄った。僕の愛機も家を出てから既に3000キロ以上走破しているので、交換に便乗させてもらう。オイルといえば思い出す。留萌の・・・腹が立つだけ損なので嫌なことは忘れよう。

 ゼファーは僕と同じで満身創痍になりながらもよく走ってくれている。トラブルはすべて人為的なものだった。ゼファーのエンジン自体は絶好調だ。「カワサキ魂」を見せてくれている。吹き上がりが軽くなった(気のせい?)愛機で池田町の「牧場の家キャンプ場」に向かう。

 このキャンプ場の場内には五右衛門風呂があり楽しめるとマップに書いてあったが、「老朽化のため使用できない」と受付に張紙が。でも、その代わりキャンプ場から「清見温泉」という共同浴場までの送迎バスが出ているそうな。フー、よかった。

 テントを張り、さっそく送迎バスに乗り清見温泉到着。中は広い。サウナ・休憩室・売店・カウンターバー何でもついてる。もちろん本物の温泉。これで300円。実に安い。ゆっくり汗を流し、よく冷えた生ビールを飲んでテントに戻った。サウナ好きのヨッシーは最終便までゆっくりするとのことだ。今日も長い1日だった。心身共にさっぱりした僕は、あっという間に就寝する。疲れが溜まってきたようだ。