道の駅田沢



 8月13日 テントの近くを歩き回る音で目が覚めた。何時だろう。まだ早い時間だ。昨夜はシュラフに入って寝たのだが、いつの間にか腹の上にかけていた。それぐらいテント内の温度が高かった。

 テントから這い出し、炊事場で洗顔し、タオルで体を拭くとかなりさっぱりした。そして、朝食の準備。熱々のご飯へ牛缶をかけて食べた。

 雲が多いが天気はまずまずで、陽が射している。今日はテントを張ったままで行動しよう。荷物もかなり降ろしたので、身軽になった。

「キタノさん、熱いコーヒーを飲んでいきなよ」
 ご馳走になるとコーヒーの苦味が効いて、とてもおいしかったし、ばっちりと目が醒めた。

 キャンプ場利用者が連れてきた犬をなでなでしていると、
「キタノさん、あんた体の具合悪くないか。なんだか痩せた?」
 おじさんが、俺の身体をしげしげと眺めていた。
『あちこち弱ってます。食も細くなったし』
「大丈夫か。なんだか以前のような迫力というか、精気がないような気がしたもんでね」
『ちょっと、仕事が忙しかったし、北海道にも行けなくなったしで、いろいろ心労が重なったのですよ』
「そうか、奥さんや子供さんもいるんだから、せいぜい身体を大切にしなよ」
 おじさんは、チェーンソーを担いで作業現場へと向かっていく。
『いってきます』
「はい、気をつけてね」
 おばさんに見送られながら、スロットルをあげた。

 さて、汗で身体がべとべとするので、まずはたばこ屋旅館で温泉にでも浸かるか。桧原の集落に入り、たばこ屋の前に愛機を停めた。すると、クラウザのトップケースがない。なんということだ。どこかに落としたらしい。ついでに財布もテントの中に忘れてきた事実に気づく。顔を真っ青にしながら、キャンプ場方面に引き返した。しかし、俺はいつまで経ってもビギナーな失敗ばかりするなあと、自分自身にすっかり呆れてしまう。

 途中の橋の上にトップケースが荷物を散乱されながら、落ちていたのを発見し、すべて回収した。さらにキャンプ場のテントの中から、財布を取り出し、喜多方方面へ向けて再びアクセルをあげる。

 やがて、喜多方市内へ入る。せっかくだから、喜多方ラーメンでも食べようか。人に喜多方で一番美味しいラーメン屋はどこかと訊かれれば、躊躇いなく”はせ川食堂”のチャーシュー麺だと断言する。と、いっても以前食べたのは、ずいぶん昔の話なので、場所が定かでない。とりあえず喜多方プラザの方に向かい、あとは聞き込み捜査の連続でようやくはせ川食堂に辿り着くことができた。
 店舗も新しくなったはせ川食堂なのだが、お客が店の外にまで溢れ出すほどの盛況ぶりだ。駐車場係のおじさんは1時間近く待つようになると絶望的ことを言っていた。だが、せっかく喜多方一のラーメン屋まで来たのだ。鳴くまで待とうホトトギス。受付の用紙にキタノと書き、再び外へ出た。ベンチに座り、一服していると俺の横に大型犬が飛び出してきて、すりすりしてくる。俺が無類の犬好きだということが、なぜわかった?レッドリバーは老犬で、吉宗という立派な名前が小屋に書かれていた。
「おひとりでお越しのキタノさん、お待たせしました」
 初老のご夫婦が座る相席のテーブルへ失礼しますといいながら席につきチャーシュー麺をオーダーした。

 暫くすると右画像のチャーシュー麺が運ばれてきた。このボリューム、チャーシューのとろけるような柔らかさ、旨味の詰まったスープ、まさに絶品である。やはり、喜多方で一番美味いラーメン屋は”はせ川食堂”だと確信した。
 ふーふーいいながら、あっという間に完食。絶対にお薦めである。

 チャーシュー麺を存分に堪能し、店を出た。そして吉宗の頭を撫でてスロットルをあげる。まだ、キャンプ場に引き返すには時間的に早い。久々に大峠(R121)から米沢へ出てみよう。3940mという東北最長のトンネル(大峠トンネル)を抜ける頃になると雲行きが怪しくなってきた。だが、まだ雨の心配はなかろう。それより蒸し暑い。山間の道は、信号がなくとても快適に走行できる。なんて思っているうちに道の駅田沢が見えてきた。ここで暫し休憩をとることにする。

 道の駅田沢、それが、このページ冒頭の画像だ。あまりにも暑いので、売店でソフトクリームを購入。味が濃くてとても旨い。店内には大河ドラマの影響で直江グッズが並んでいた。俺も”天地人”Tシャツが欲しくなった(かなりミーハー)が、妻に叱られそうなので断念する。

 そろそろ行こうかなんて思いながら、マシンに跨ると同年代のビクスク乗りから、こんにちはと元気な挨拶を頂戴した。なんだか嬉しい気分になり、お気をつけてと挨拶を返し、スロットルをあげる。
 途中、これまた久々に小野川温泉に立ち寄り、200円の公衆浴場に入る。しかし、ここの温泉の熱さは尋常じゃない。羅臼の熊の湯以上の熱さだった。とてもとてもゆっくり湯船に浸かることなどできずに身体だけ流して撤収。

 画像は、お隣の古くて味のある旅館が気になったので撮影してみた。たまにはこういう風格のある旅館に泊まってみたい・・・と、近頃、少しは思うようにもなってきた。
 お盆休みで、やや渋滞気味の米沢市街から、裏磐梯に引き返すべくスカイバレーへ突入した。しかし、標高が高くなるにつれ、ガスが出始める。これでは眺望がまったく楽しめない。さらに最低なことに雨が降り始めた。気温も劇的に低下してきて、かなり肌寒くなってきた。やむなく愛機を止めて登山用のゴアの雨具を着込んだ。シューズは先日購入したばかりの防水使用のショートブーツなので問題ない。

 ぶるぶる震えながら頂上付近を通過し、桧原湖畔へでた。やっぱり寒い。今日一日の気温差は20℃ぐらいあるのではなかろうかなんて思いながら、道の駅裏磐梯へ辿り着く。今夜は夕食を作るのが面倒になってきた。レストハウスで、なんか暖かいものでも食べようかと思ったら、営業終了となっていた。まだ17時台だぜ。裏磐梯は天気が悪くなると店を閉めてしまうのかいな。

 やむなくラピスパ裏磐梯で食事をしようと雨の中、覆道を越えて辿り着いた。さっそく、レストランへ向かうもここも営業終了である。で、結局、大広間のファーストフードで、性懲りもなくかけそば啜るキタノの姿あり。

 ママキャンへは結構遅い時間に戻る。雨は容赦なく降り続いていた。

「お爺さん、キタノさんが帰って来たよ」
 おじさんは、高校野球を観ながら横になっていた。
「おう、ずいぶん遅かったねえ」
 おじさんが横になったまま呟く。
『とりあえず缶ビールをください』
 おばさんにお願いすると、茄子の漬物や枝豆などもサービスしていただく。すいませんねえ。

 ビールをちびちび飲んでいるとオートバイ3台が入ってきた。
「テントを張らせてください」
 開口一番、おばさんに申し出た。
「こんな遅い時間だし、しかも、この雨だからコテージの方が無難だよ」
 ライダーさんたちは、ぞんがい素直に従い、コテージへと入っていく。

「キタノさん、代金なんかいらないから、あんたもこの脇のコテージに泊まりなさい。体調でも崩されたら、奥さんになんとお詫びしてよいか」
『俺がコテージ?このぐらいの雨なら俺はテントで充分ですよ』
 と、いいつつエアライズに過信したキタノはテントへ戻った。エアライズなら、この程度の雨などものともしないだろう。テントの中は、あんがい暖かいし。

 ところが・・・

 深夜に暴風雨となり、トレックタープが吹き飛ばされた。俺は、ずぶ濡れになりながら、タープを下ろすハメになる。その後も幾度となく、フライシートから轟音が鳴り響き、何回も目が覚めた。

 まったく熟睡できずに、いつの間にか8月14日の朝を迎えてしまった。




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