大志


12


 俺は、鬱蒼とした樹海の中を縫うように走っていた。

 いつの間にか雲が裂け、ギラギラとした中天の陽が肌を激しく照らす。やがて豊平川へ架かる大橋を渡りきると札幌の中枢部へと辿り着く。

 人口155万人(当時)、まさに北の首都だ。俺は横浜の下町にある商店街の猥雑な一角のアパートへ棲んでいるが、当然夏は狂わんばかりの暑苦しさだ。それに比べこの爽やかさ、湿度の低さはなんなんだろう。

 広い土地を贅沢に活かした街造りを念頭に置いているから、ほどよい具合に空気が抜ける。また、なんといっても緑が多くていい。

 いい街だ。リョウコが憧れるはずだな。

 とりあえず腹が減っては戦さはできん。ふらりと入った店の名は「サッポロ一番」。こってり系だが、とんこつベースではない。俺の好きな飴色の濃厚な醤油味は実に秀逸な味だ。場所は南4西4へ今でも存在する。興味のある方はどうぞ。

 札幌ラーメンで腹をつくり羊ヶ丘まで、ひとっ走りしてみた。羊ヶ丘の風景を一口で表現すると下半分が緑で、上半分が青と表現するのが一番適切だろう。もちろん緑は果てしなく続く草原で、青は澄み切った空の色だ。

 クラーク博士の銅像の前で、大の字になって横になり、すっかり寝入ってしまったら寝冷えをしてしまう。

 とにかく札幌って凄い。こんなエリアへビルが立ち並ぶ中心部から15分ほどで着いちまうんだから。

 途中、木彫りの土産などを購入し、時計台に向かった。時計台は旅行誌などで必ず目にする超有名ポイントだが、なんだ?ショボイぞ。ビルの谷間に囲まれた小さな建物だ。

 しかし、中へ入館すると実に興味深い資料がたくさん展示されていた。クラーク博士のエピソード、開拓の歴史等。また農学校(現北大)出身の逸材も多い。内村鑑三、新渡戸稲造、新島襄・・・・・

 道庁の旧本庁舎もいい。赤煉瓦造りの建物と庭の青い芝がよく調和がとれていた。ここにもいろいろな資料が展示されていて充分楽しんだ。一見の価値はある。

 北大へも立ち寄った。バイク乗り入れ禁止なので暫し歩いた。広いキャンパスのなかのイチョウやポプラ並木がとても絵になっている。こんな環境で勉学に励む学生って羨ましい。

 そろそろ今夜の宿を探さねばなるまい。駅前の宿泊案内所で安宿を紹介してもらった。いかにも安っぽい宿へ荷物を降ろし、夜の札幌を散策してみた。

 魚屋一丁。

 ここは安くてボリュームがあり美味いと思う。日本酒2百円。毛蟹千2百円。刺身も非常にネタが多く新鮮だ。後年のチェーン展開の店ではなく、純粋な炉辺焼きの居酒屋だった。ツブ貝や帆立を直火で焼く香ばしい匂いが店内を覆っている。

 さんざん食べて飲んでも低料金だ。千鳥足で宿に帰るもTVを消し忘れて爆睡してしまい、夜中に宿のおばちゃんから、こっぴどく怒られる始末だ。

 そして、ジャックダニエルを少しだけ飲んで、静かにふて寝、いや寝なおした。

 なんだか寒気がする夜だ。 


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