箕輪山2007横向登山口







横向登山口ピストン


2007.11.4



 早朝、町内会の下水掃除を済ませ出発。下水掃除は登山の服装のままだった。既に山行の周到な準備は整えてある。

 入ったことのないルートから安達太良を目指すということで、今回は横向登山口(箕輪スキー場に並行して登る)を選んだ。

 土湯トンネルを抜け、横向温泉へ向け道路を右へ降ると、すぐに登山口は見つかった。しかし、駐車スペースは狭い。

 まあ、既にオフシーズンなので、なんとか駐車することはできた。
   重いザックを担ぎ登山口へ入る。看板には”安達太良山まで片道6Kと書かれていた。手頃な距離だ。野地温泉ルートよりも、ずっと安達太良山に辿り着き易いと思う。天候さえよければ。時折、晴れ間も見えるが、なんだか、どんよりとした冬の空に一抹の不安を感じる。
 笹に両脇を覆われた登山道はよく整備されている。最初だけ、少し勾配がきついが、笹の密集地帯を抜けるとなだらかな登りが続き、快調に登攀を続けることができた。しかし、本当に人気がない。右手に見えるスキー場のリフトも微動だにせずに一列に並んでいた。  
   風が出てきた。まだ紅葉の名残りを残す木々もなんだかうら寂しく北風になびいている。気温もどんどん低下しているようだ。一応、フリースの上にモンベルのウインドジャケットを着込んでいるのだが、その程度の装備では心もとなくなってきた。暖機のために少しペースをあげることにする。
 リフトの終点を過ぎるとルートがえぐれ粘土状になっている部分が目立ち始めた。何度かスリップし、危うく大転倒しかける場面もあったが、どうにか凌ぐ。  
 吾妻連峰を眺めると、やはり霧でほとんど山容が確認できない。少しだけ吾妻小富士が顔を出したので、一枚画像を撮影した。

 寒い。さらに気温が低下している。

 冷たい風に辟易しながら、テクテクと箕輪山の頂上を目指した。もう、登り始めて2時間近い。そろそろ山頂に到達してもよい頃なのだが、山頂が見えないし、初めてのルートなんで先がまったく読めなかった。

 この頃、ようやく下山してくるカップルと遭遇する。彼女の方は防寒対策からか風防をしっかりと顔にまいていた。

「こんにちは。頂上はもうすぐですが、かなり寒いですよ」
 一言、アドバイスをいただいく。

 彼女は、風に舞うように優雅にふわふわと下山していった。
   黙々と登る。疲れたともキツいとも思わない。ただ、もの凄い孤独感。天気が悪いというだけで正直、気分が相当萎えてくるなんて思っていると、ようやく頂上が見えてきた。そして、ぞんがい多くの登山者の喧騒が聴こえてくる。なんだか寂寥感から解放された弱い心の自分の姿があった。
 標高1718Mの山頂に到達。既に団体登山のお年寄りたちやご夫婦、ご家族づれの方々が早めの昼食をとっていた。多分、野地温泉登山口からやってきたのだろう。とにかく過去二度ほど、野地温泉から、ここまで到達しながら断念した箕輪山〜鉄山〜安達太良山頂のルートを踏破しておきたい。ところが、鉄山方面は深い霧に覆われていた。  
 もちろん、ここから安達太良山頂を目指す人など皆無である

 俺は諦め切れずに少しだけ、ルートに入ったが、ダメだ。何にも見えない。

 すぐに引き返す。このガス、さらに風、気温は既に零度まで低下している。バットエンドの極めつけた。あと3.5キロなのに。でも往復すれば7キロということになる。無理をすればいけないこともないが、鉄山は強風時は滑落の危険性があり通行不可だ。三度目の正直を期待したが、今回もこのルートからの安達太良ピストンは中止に決定する。

 無念なり。
   気温が、さらに氷点下にまで達していた。寒風にぶるぶる震えながら、立ったままでおにぎり2個の昼食を済ます。もう山は冬だ。冷たいお茶より、暖かい飲み物を飲みたいと心から思った。
 家族連れ方から撮影を依頼されたのでシャッターを切る。ついでということで、キタノの山頂での姿を撮っていただく。

「そして誰も居なくなった」
 アガサ・クリスティのミステリー小説かよ。

 ひとりきりになった箕輪山の頂上で、また心細くなった俺は慌てて下山を開始した。下山は意識してペースを上げる。途中、犬2頭連れのご夫婦とすれ違うが、犬が俺のほうに寄ってきた。

「すいませんねえ」
 ご主人は頭を下げるが、
『なんも、俺は無類の犬好きなんで気にされないでください』
 というとにっこりと微笑んで、頂上へ向け登攀していった。

 何度も粘土状の窪みで足をとられそうになるも快調にスピードを乗せていく。

 スキー場の最上部のリフト小屋付近で小休止し、煙草を吸っていると、なんと、さっきの犬の小さい方(ヨークシャーテリア?)が俺の膝の上に飛び乗ってきた。もう、頂上から、ここまで引き返して来たのかい?

 つまり、このルートは犬の散歩コース程度なのかも知れない。う〜ん、もの足りない。鉄山から安達太良まで本当に行きたかった。

「返すがえす、申しわけありません」
 ご主人は深々と頭を下げた。
『なんもなんも』
 俺は犬の頭を撫でながら笑った。 
 ご夫妻と犬2頭は、そのままスキー場の草原を急ぎ足で駆け下りていく。やはり犬の散歩コースか。俺もそれに倣いスキー場を暫く歩いてみた。確かに歩き易いけど他人の私有地へ立ち入るという罪悪感にさいなまれ、すぐに登山道に戻る。  
 ラストスパートということで、横向登山口まで全力で駆け下りたが満たされない気分が込みあげてきた。

 やはり硬派キタノは、こなごなになるまで体を酷使する見せ場を演出しないと書いていて自分がつまらなくなる。正直言って自虐性に欠けるレポは俺の男が立たない?

 登山口に到達するとなんだか暑い。それもそのはず気温は11℃もあった。山頂と登山口の気温差は10℃以上。俺はたまらず、ウインドジャケットを脱いだ。

 不完全燃焼気味の山行であったが、野地温泉から安達太良山頂をピストンするという長大なルートは時間がかかり過ぎる。

 今回、横向ルートで、天候にさえ恵まれれば、安達太良ピストンは充分実現可能だという手ごたえはつかんだ。

 ただ、間もなく、このあたりも雪に覆われるであろう。

 現段階の俺程度の力量では、厳冬期の箕輪山〜安達太良山頂(冬は連日吹雪)のピストンは無理だ。俺の山行は常に自力で暗中模索である。特に誰に師事しているわけでもないし。つまり素人同然の登山なのだ。

 裏磐梯側からの安達太良突入は、来シーズンの時節到来を待とう。

 ちなみに近くの横向温泉”森の旅亭マウント磐梯”の温泉施設は秘湯ムード漂う名湯だ。就中、ランプが灯り、渓流を見下ろす露天風呂は、風情満点。

 源泉は安達太良連峰の鉄山から湧き出る”含鉄単純炭酸泉”で効能が高い。日帰り入浴700円也。

 横向温泉は”会津八湯ゆめぐりの湯”にも指定され、キタノお薦めの穴場である。



FIN



2007.11.4UP



記事 北野一機



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