一切経山2007







兎平〜姥ヶ原〜酸ヶ平〜一切経山〜浄土平〜兎平



2007.6.17



 昨日(土曜)は疲労回復のため、完全に停滞日となってしまった。

 今朝はやや寝坊ながらもなんとか起きだす。しかし、山行には遅い時間だが、準備を開始した。女房はまだ寝ている。

 先週は安達太良だったので、本日は吾妻連峰にしよう。車を運転していても陽の光が眩しい。そして気温もぐんぐんと上昇しているようだ。

 スカイラインを快走し、兎平駐車場に入るも既に満杯の状況で、やむなく道路わきの僅かなスペースに車を停めた。そして登山靴に履き替え、ザックを背負い姥ヶ原へと向かう。だらだらとして長い登りを歩き、姥ヶ原の木道へ入った。既にシャツが汗でビショビショに濡れ、喉が渇き、何度も水分を補給しながら進む。 
   しかし、今日は本当に人が多く入っている。

「こんにちは」、すれ違う人と挨拶をかけ合った。
 雪融け水で、渓流ができ、その上を覆うようにヤマザクラの枝が伸びていた。花はまだ蕾である。通りがかりの人が結構撮影している。俺もついでに1枚撮っておくか。
 なんだか岩魚やヤマメが居そうな感じがするが、このあたりは温泉の成分が強く魚は棲めないそうだ。カエルぐらいなら、居るみたい。声がするから。  
   木道脇にどこかで見た花が点々と咲いていた。高山植物のチングルマ?俺は花、いや植物系がからっきし疎いのだが、以前、羅臼岳登山のときに観た記憶がある。
 ちなみに姥ヶ原は、お花畑と呼ばれ、この時期、花好きの人にはには、たまらない魅惑のエリアらしい。あちこちで高級カメラを抱えて熱心に撮影されている方の姿が見られた。

 やがて、東吾妻山への分岐を過ぎると谷地平の標識が見えてくる。木道も尽きた。山行の安全祈願のお地蔵さんの横から登山道へ入った。

 深く暗い森である。ところどころ木の枝に巻きつけてある赤い布を目印に歩くが、なんだかルートがはっきり読めない。つまり道がないのだ。このまま1時間も歩けば谷地平に出れるようだが、先日の東吾妻山からの下山の際に雪でルートがずれ、迷ってしまった苦い体験が彷彿とした。

 単独山行、さらに初めてのルートで分かりづらい場合は潔く撤収しよう。なにか遭ってからでは遅い。かっこよくいえば”勇気ある撤退”だ。本当は”臆病な撤退”だけど。

 てくてくと元来た道なき道を引き返した。

 まあ、いつの日にか谷地平へ到達する日もやってくるだろう。
 なんだか物足りない気分だったので、鎌沼から一切経山を目指すことにした。この付近の景色も絶妙である。
「これはツジザクラといって、まあヤマザクラの一種なんだが開花はまだだよ」
 前を歩いているオジサンが、いろいろ解説してくれた。
「ところで、谷地平はどうだった?」
 
  『ええ、ルートが獣道みたいで、はっきりしないし、行ったこともないのでひとりでは無理と途中で断念しました』
「それは残念だったね。谷地平はいろいろな草花が観れて、とても綺麗なところだよ。ルートの入口から1時間ぐらい辿り着けるかな」
 とてもとても方向感覚のない俺には無理だ。
「今年はワタボウシがすごく小さいんだ。暖冬だったけど春先の寒さが厳しかったからかな」
 オジサンのレクチャーを訊きながら酸ヶ平へ向かい木道を延々と歩いた。

 酸ヶ平へ到着する頃、
「キタノさんですよね」
 見事に統制のとれたパーティのリーダーH氏から声をかけられる。
『これは、これは、こんにちは』
 いつも登山会でお世話になっている皆さんだ。若い女性メンバーの皆さんは、たいへん礼儀正しく「こんにちは」と一斉に挨拶してくれたので、恐縮してしまう。

 最後尾のサブリーダーW氏も
「キタノさん、お久しぶりです」
 相変わらず、とても温厚そうな口振りで話しかけてきた。
『どうか、お気をつけて』
 俺は一応、そう言ったが、全国屈指の精強ぶりを誇るチームの皆さんに俺の言葉は蛇足だったろう。気をつけなければならないのはこっちの方だ。
 ここまで、高山植物の解説をしてくれたオジサンとも酸ヶ平で別れた。
『俺は一切経山に登りますので、ここで失礼します。ありがとうございました』
「どういたしまして。魔女の瞳を楽しんでくるといいよ」
 オジサンは笑顔を見せながら、浄土平方面へと去っていく。避難小屋を過ぎると雪が右画像のようにまだたくさん残っていた。
 
   雪の下は空洞になっていて、まさに踏み抜き注意の状況である。俺はゆっくりと安全なポイントをねらいながらトラバースした。一切経山、山頂が1948Mと言っても現時点の標高がかなり高い。難易度は高くないが、足場が悪く結構急登である。まあ、終始、自分のペースなので持病の膝の痛みもまったく出なかった。
 驚くほどの軽装で、山頂を目指す人、下山してくる人の姿も目立つ。いくらなんでもこんなに足場が悪いルートを大丈夫なのかとこっちが心配になるぐらいだったが。途中、吾妻小富士が、はっきりと望めた。こんなに綺麗に見渡せたのって初めてかもしれない。一応、犬の散歩のときに毎朝、吾妻小富士を否応なく下界から眺めるのが日課だったりする。  
   強い日差しを浴びながら、ゆっくりと足を動かし、一切経山、2度目の踏破。頂上付近は、かなり肌寒い。通りがかりの登山者の方に1枚画像を撮影していただく。お若い方で、とても礼儀正しく好感が持てた。
 さて、”魔女の瞳”も久しぶりに拝むか。頂上から家形山方向へやや移動すると、見えたきた。本当に神秘的な沼だ。一応”五色沼”と呼ばれているが、地元では”魔女の瞳”という呼び名で親しまれている。
 やはり”魔女の瞳”の美しさは尋常じゃない。本当に来てよかった。水面の色は画像では、とてもじゃないが表現できないなんて思っていると足元を小動物が走り去る。鮮やかな白と茶の模様で手足が短い。イタチ科の”テン”だと思う。高級毛皮の素材で襟巻きになりそう。事実、年々その数が減っているらしい。  
 ここで、遅い昼食としておにぎりを頬張った。

 降りも非常に足場が悪かったが、スピードに乗り、浄土平まで一気に下降。40分ほどで木道に到達する。

 下界は気温がかなり高い。だらだらと兎平P近くに停めてあるクルマへ戻り、ザックを下ろし、登山靴を脱いだ。

 今日は、せっかくだから、スカイライン終点の横向温泉近くまで行ってみることにする。このあたりを通過するのも久しぶりだ。

 緑が映える山間のルートを突破し、自宅近くのR4から吾妻連峰を見上げると吾妻小富士、一切経山、東吾妻山の稜線がくっきりと美しいシルエットとなりそびえ立っていた。  



FIN



2007.6.19UP



記事 北野一機



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