北海道ツーリングストーリー







 オホーツクに沈みつつも夏の太陽が再び顔を出し始めた頃、稚内市街地へと入った。

 やや渋滞の中、フェリーターミナルへと直行する。しかしタッチの差で礼文行の最終便を逃してしまった。チッ、ついてないな。

 もう時間は17時を過ぎている。今夜は稚内泊まりだな。後年なら躊躇わず丘の上の稚内森林公園キャンプ場にするところだが、贅沢にも最北の街の夜を楽しみたいと思いライハを探すことにした。そしてなにげなく宿泊ガイドに載っていたライハへ電話をし、あっけなく予約を済ます。

 オーナーに言われた通りのルートを辿り、無事ライハ到着。しかし、気が滅入る建物だ。とにかくオーナーに挨拶してなかへ荷物を入れる。我々以外誰も利用者はいない。なんか間がもたない。オーナーが前金というから料金を支払った。

 暫く経つとようやくひとりの若いライダーが現れた。彼は昨日東京を出発し、高速道路を一切使わず稚内まで辿り着いたそうだ。いやあ〜たいしたもんだ。東京から一気走りか。ここは日本最北の町、稚内だぜ。世の中には凄い人間も居るもんだ。

 さて、明日の早朝には礼文島へ行くんだから、それまでの辛抱だ。気を取り直して礼文の民宿の予約をとろう。礼文は穴場的な見所が多い。初めての場合は宿をとり、宿のオーナーからアドバイスしてもらうのがベストらしい。なかには宿をあげてトレッキングツアーへ組んでいるところもあるそうだ。

 しかし、携帯からTelした民宿はすべて満員で断られた。礼文って凄い人気の島なんだなあなんて思っているとオーナーがいつの間にか現れ、「民宿はよくないよ。キャンプにしなよ」と言い出した。おいおい、どういう根拠で他人へ強制しているのかは知らんが無礼じゃないか。キャンプもしたいが礼文では、始めから民宿にするつもりだった。

 俺はかなりムッとする。ライハ、確かに労せず安く泊まれて便利かも知れない。感謝すべきだろう。でもだからと言ってなんでも迎合したくない。安いかも知れんが自分の大切な部分まで安っぽくなりそうで息がつまりそうだった。その後もやたら仕切り行為をするヌシと呼ばれるやつともめた事件もあり、ライハの利用は自粛するようになった。

 どうもしっくりこない。風呂にでも行くか。ヨッシーと銭湯へ行き汗を流した。そして例のライハに早くに戻るのがどうにも嫌でビヤホールに入った。

 ビヤホールは、なかなか雰囲気のよいお洒落な店である。ソーセージなどをつまみにビールをがぶがぶ飲む。真夏の風呂上りの一杯はたまらなく美味い。遅くまで飲んだ。かなり酔いもまわっている。精算を済ませようと席を立つ。おっと足元がおぼつかなくなっている。

 レジのおねえさんが、
「ライダーですか。チャリダーですか」
 と聞いてきた。
『ああ、俺らはライダーだよ』
「お客さんの腕の日焼けが凄いから、間違いなくどちらかだと思いました」
『そうかい。そいつは鋭いな』
「明日はどちらまで」
『一応、礼文のつもりだ』
「島は丁度お祭りだから混んでますよ」
 なるほど礼文の民宿が満杯だったわけだ。
『情報ありがとう。じゃあ利尻から周るかな』
「どういたしまして。稚内へ来たら、またここへ寄ってくださいね」
『ああ、あんたが居るならな。でもおねえさんバイトだろ』
 我ながら酔っ払いのエロオヤジみたいな言い方だと直後に反省した。
「いえ、ここの店長です」
 彼女は、きっぱりと言いきった。
『失礼しました』
 でも感じのいい店長だと思いながらRHへ戻り、速攻で寝た。

 う〜頭が痛い。夕べはビールを飲み過ぎだ。それでも5時には目覚める。6時台の始発で利尻島へ渡るつもりなので、すばやく荷物をパッキングするがなんか不安定な気がする。後年、パッキングには絶対に妥協しない男へと成長するが、この頃はかなり甘かった。もちろん後刻痛い目遭う。

 利尻島行のフェリーに乗り込んだ。

 波も穏やかで百名山筆頭の利尻富士の稜線がはっきりと見える。真夏にこれだけ綺麗に利尻富士が拝めるのは珍しいことらしい。

 ウミネコと戯れているうちに鷲泊港が見えてくる。離島にしかもオートバイを持ち込んで上陸するのは初めてのことだったので、とてもわくわくした。

 8時半きっかり利尻島上陸。しかし、腹が空いたな。当時、まだ利尻島にセイコマ、いやコンビニ自体、存在しない時代だったので困った。

 漁協直営の食堂へ向かうが開店は10時からとのこと。ふと店の前の生簀が目に入る。中にはなんとソフトボールぐらいの大きさはあるだろうか。巨大なウニに仰天する。店のオヤジにこのウニだけでもいいんだがと言うとOK。手際よくウニの殻をわってくれた。しかし美味い。まさに新鮮で絶品のウニだ。これだけで朝食を食べたくなくていいぐらい腹がふくれた。5百円也。

 その後、まったりと島内一周を楽しんだ。天気はいいし、極端な暑さも感じない。オタトマリ湖で休憩するが何件もの売店が競合し、激しい商売合戦を展開していた。後年、利尻出身の方から聞いた話だと利尻の冬は完全に閉ざされてしまうので、この時期に一生懸命稼がないと島での生活が大変なことになってしまうらしい。

 有名なミルピス屋にも立ち寄った。ミルピスとは米が原料の飲料水だがカルピスと牛乳で割ったような味がした。またギョウジャニンニクやハマナスなどの手作りジュースなどを少しずつ試飲させてもらう。

 しかし、オバサンのたくましい商魂には負けたよ。ミルピスだけ飲みにきたつもりが、とうとう4千5百円のギョウジャニンニクジュース、土産に買ってしまった。トホホ。

 気を取り直して出発する。Tシャツにあたる風が心地いい。本当に暑くもなく寒くもない。快適なライディングと海岸線の眺望を楽しんでいた。

 そして、伝説の悲劇が起きる。

 Tシャツの首筋からなにかが入ってきた。その直後、アチチチ。ハチだ。ハチが胸元から腹にかけて暴れまわり俺の肌を刺しまくっていた。痛過ぎる。ここでパニックになっては大事故になってしまう。泣きそうになりながら必死にハチを押し潰した。

 おっ、俺の生きざまを見てくれえ〜



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