北海道ツーリングストーリー



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 根室浜中釧路線を突き抜けるように走った。岬や入り江が多い。山間のワイディングかと思えば道路脇の絶壁から海が見渡せたりと実に変化にとんだルートを楽しんでいるうちに霧多布(きりたっぷ)岬へと到達する。。

 やはり霧多布と言われるだけあって、ガスがかかっていて残念だ。この岬は絶滅が心配される野鳥「エトピリカ」が棲息していたり、エゾカンゾウ(ユリ科)の群生で有名なポイントである。

 もうひとつ。有名なのがライダーハウス・ホ○タップ伝説だ。オーナーが、なんとモーホーだという噂がライダーの間で実しやかに囁かれていた。なんでも宿泊客にジャニーズ系の若者がいると、「ボートでケンボッキ島という無人島へ連れてってあげるよ」と言葉巧みに誘い出されるそうだ。

 島に着くとオーナーが豹変し、
「オレのいうことを聞くか、島に置いてきぼりになるか、どっちかにしろ」
 といわれ、悲劇が起きる。

 そして俺らは、当時ホ○タップ直営のレストハウスで、有名な小松牛乳を飲んでいた。バイトみたいな青年はやはりジャニーズ系だ。

 カウボーイハット、怪しい口髭そして乗馬用のブーツ姿、細身のオーナーが出現した頃、俺たちは、戦場カメラマンのように極度の緊張感を強いられた。

『ギャー、出たあ。ヨッシー、て、撤収だ。早く逃げろ!』
 逃げ足の速い俺たちは、あっという間にスロットルを捻り、ほとんどホイルスピンしながら、”なぎさのドライブウェー”方面まで一気に遁走した。

 道内には、さらにある老人が運営する某ライハがあり、そこのオーナーもモーホーらしい。野郎ばっかりだととても親切で上機嫌なのだが、女性ライダーが泊まると、たちまち不機嫌になってしまうそうだ。ホ○タップと双璧といわれているらしい。

 某とほ宿のホ○オーナー版もあったりした。なんだか、北の大地には、こんなしょうもない怪しい都市伝説が横行していた猛暑の世紀末であった。とにかく、インターネットというやつが、ようやく普及し始めた時期だ。虚々実々の情報ばかりが先行していたと思われる。

 ホ○タップ伝説について詳しくしりたい方は○のキーワードを解き、文字検索されるといい。驚天動地の検索内容が?あくまで噂だけど。

 霧がかってはいるものの、上空は晴れている。妙な天気だ。まあ、涼しいからいっか。しかし見事な景色だ。左手に霧多布湿原、右手には美しい砂浜。この光景を堪能しつつ北太平洋シーサイドラインへ。

 始めは牧場なども点在していたが次第に民家が見えなくなった。交通量まで少なくなる。でもやはり左手は手つかずの原野。右手は荒々しい大海原が続く。ちょっと日本とは思えない大陸的な幻想を抱かせる雰囲気が漂っている。

 やがてやや内陸へと入り、根室本線と並行しながら林の続くストレートな道を快走した。本当に民家が見当たらなかった。このあたりでキャンプしても誰からも苦情を言われねえだろうなあ。しかし熊が出そうだぜ。

 北の国からの撮影ポイント「落石」を通過。ここで泥酔した五郎が蛍に新巻鮭渡すんだったな。

「こ、これえ〜、先生に渡してくれ。蛍、いつでも富良野に帰ってくんだぞ」
 ふとドラマのワンシーンへとリンクしていた。

 根室半島へと入った。道もよくなり車もそれなりに走っていた。なんとなく日常に戻ったような気もする。そして根室の繁華街、確かに普通の地方の街だ。でも最果ての寂しさを感じるのは俺だけか。妙なオーラが漂う市内中心部だった。

 中心部を抜け、半島東側のシーサイドラインを走った。このあたりで霧が濃くなり気温が劇的に低下してきた。半端じゃない寒さにブルブル震えながらハンドルを握る。本州なら初冬の冷え込みに匹敵する体感気温である。

「島を返せ」
「島は奪われた」
 などといったポスターが目立ち始め、街宣車ともすれ違うようになると納沙布岬だ。本土最東端へ到着ということになる。

 マシンを降りて岬の先の方まで歩いたが、霧で北方領土は望めなかった。しかし観光客の数が多い。皆、この霧にがっかりしているようだったが、たくましく土産物屋で買い物をしまくって、鬱憤を晴らしている様子だ。

 俺らもレストハウスで「オホーツクラーメン」なるものを食べた。体が冷えているせいか、海草たっぷりのラーメンがとても美味しく感じられた。

 帰り際、駐車場まで歩いているとライダー同士の関西系のカップルが口論している。
「もう、ひとりで帰るわ」
『謝るんなら今のうちやで』
「なんで、あたしがあんたに謝らいかんの」
『なんやとう』
「なんよ」
 ど派手にやっていたが、その後の展開は知るよしもない。ただ、彼女の方が圧倒的に迫力があった。

 寒い中、今度は西海岸を並走する道を凍えながら走り、RHインディアンサマーカンパニーへ宿をとることにする。ここの大将もおばちゃんもとても暖かい人柄だった。泊まり合わせた客も良識的な若者ばかり。特に関西コンビのトークがメチャメチャおもしろく抱腹絶倒の宴を楽しみ夜がふけていく。

 消灯時間12時きっかりにシュラフの中へ入り、とろけるように眠りに落ちた。

 翌朝、習慣となった早起きをする。結構、日本最初の日の出を拝みに行ったやつが多かったのか既に出発の準備をしているライダーやチャリダーが目立つ。

 俺もパッキングを済ませているとなんとヨッシーのドラスタは既に用意万端に整っている。日本最初の朝陽を見に行ったそうだ。でも霧で朝陽を拝めず途労に終わったらしい。まあ、青春とは結果ではなく行動だぜ、若者よ。俺は充分熟睡したので体調ばっちりだ。

 おばちゃんに見送られ出発する。その背中にようやく朝陽が輝きだしていた。



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