北海道ツーリングストーリー



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 うっ、頭がいてえ。

 やっぱり今朝も毎度毎度の二日酔いだ。ガンガン痛む頭痛を我慢しながらテントを這い出した。とにかくバーナーで湯を沸かそうとしていた頃
「二日酔い?」
 昨夜の2人組みだ。そして年長の男が話しかけてきた。
『ああ、毎度のこった』
 と応えると2人は吹き出していた。

「稚内にまた来ることがあったら連絡してくれよ。緑と太陽の村に来れば俺のこと分かるからさあ。なんなら稚内に移住して来たらどうだ。土地、ただでもらえるよ」
『移住かあ。それもおもしれえな。気が向いたらな。ところで、もう出発かい?』
「休みが短いから時間が貴重なんだ」
『そっか。いい旅を』
「ああ、あんたもな。あとこれ飲んでくれ。じゃあな」
 男は缶ビールを置いて立ち去った。透き通るような笑顔を残して。

 飯ごうでせっせと飯を炊き遅い朝食をとる。今日は富良野を観光した後、札幌に向かう予定なので時間だけはある。そんな頭があったせいか、ダラダラとテントを撤収しマシンへパッキングを済ました。

 もちろん今日もまた暑い。俺の背中のシャツの内側で汗が幾筋も流れては落ちていた。行くか。セルをまわした。まずは富良野ワイン工場へと向かう。

 富良野ワインは’81年にパリで開催されたモンドセレクション・世界酒類コンテストにおいて堂々金賞受賞という快挙を成し遂げた。そして一躍勇名を馳せる。そのワインが無料で試飲できるのが富良野ワイン工場だ。喜び勇んで富良野盆地や十勝連峰を望む清水山を登った。中腹あたりに見えてくる欧風の豪奢な建物がワイン工場である。

 駐車場へマシンを停め、工場の中に入る。そしてワインが誕生するまでの工程を無料で見学させてもらう。でも無料のワインばかりが頭に浮かび工程のことなどすっかり忘却していた。

 ようやく4つの木樽へ到達。赤、ロゼ、白2種類、特に係員が着いてるワケじゃねえし。うふふ。

 そっ、その気になればいくらでも飲めるが自粛。匂いだけをかぐ程度でとどめた。それに飽くまで試飲だ。くれぐれも良識的に。なかには水筒に補給した強者もいるとか。

 ワイン工場を出て滝川へ向かう。

 R38を順調に北上し滝川へ到着。インターからこの旅初めて高速道路を利用する。単純な俺は高速へ乗るとアホみたいにすっ飛ばす。いやあ、実に心地よし。家来のヨッシーは、マグネットのタンクバックが浮きあがり腹にぶつかって死にそうになっていた。

 そして、あっという間に札幌だ。インターを出るとまた排気音が変だぞ。やっぱり外れている。マフラーが。しかも4本全部。毎度のようにヨッシーにマフラーを押さえてもらいサイレンサーへ前蹴り10連発、どうにか接続に成功した。

 先日泊まったビジホへ到着。しかし時間的にチェックインへは早過ぎたようだ。とりあえずバイクだけでも停めさせてくれとホテルのフロントへお願いすると入室させてくれるとか。ありがてえぜ。

 洗濯など所用を済ませ部屋に戻る。どうも疲れが癒えない。クーラーでギンギンに冷やし、ベッドへ横になる少しまどろんでしまう。ヨッシーは札幌ファクトリーへ土産を買いにいくと言っていたようだが。

 何時だ?変な時間に目覚めた。暫し、ぼうっとしながらこの旅への思いにふける。ほとんど北海道海沿いも内陸部も走り切ったろう。体の芯から充実感が湧いてくる。長い旅もそろそろ終わりだ。しかし社会復帰はかなり難しそうだぜ。夜の札幌の街の灯りを見ながらウイスキーを煽ると心地よく全身に酔いがまわり、いつの間にかふたたび眠りに落ちていた。


 翌朝、やっぱり早くに目覚めてしまう。

 いよいよ今回の北海道ツーリングの最後の晩となる。ラストの夜はやはりキャンプがいい。なんて思いながらパッキングを済ませていた。すると同宿のライダーが派手にタチゴケしたので手を貸す。彼は照れ笑いをしていたが、マシンは特に損傷もないようなのでなにより。

 なんだか支笏湖あたりをもう一度自分の目に焼きつけたくなった。そんな気持ちへ素直に従うことにしアクセルをあげた。暫く走ると相変わらず蒼の光沢を放つ清楚な支笏湖の湖面が見えてくる。うっとりとする光景だ。そして苔の洞門の入口へ到着した。

 しかし、えらく混んでいるな。苔の洞門って。火山岩が侵食されてつくられた周囲4キロの峡谷だ。谷の両側の壁にはびっちりと苔がついていて緑の絨毯の中に居るような幻想的な錯覚へ陥るらしい。

 ところが、駐輪場前へ車が停めてあり中に入れん。他の場所へ停めたら横柄な係員のオヤジに罵倒される。事情を説明してもまったく聞く耳をもたず不快な言い方ばかり返してくる。しょうがねえから問題の駐輪場を見せた。すると真実を知ったオヤジは急にトーンダウン。ものは言い方ひとつだ。不快極まりない。俺はオヤジを一喝し、苔の洞門を見ずに出発してしまう。

 まあ、次なる目的地オロフレ峠の絶景を楽しもう。

 洞爺湖手前で道道2へ入った。眺望が見事といわれるオロフレ峠だ。

 標高930メートルのオロフレ峠の山頂へ近づくにつれ霧が出てきた。晴れていれば、洞爺湖、昭和新山、羊蹄山、クッタラ湖、太平洋となんでも見渡せるのだが残念。霧でなんも見えん。

 なんか今日は行くところがすべて裏目に出るぜ。

 登別へ降り、室蘭方面へ向かうことにした。

 海の近くなら天候もいいような気がする・・・・・と思いつつアクセルをあげた。




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