北海道ツーリングストーリー



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 車の騒音で目覚めた。

 俺は旭川駅前の安ビジホであまりの暑さに辟易しながら窓全開で寝ていた。どうやら朝のラッシュらしい。歯を磨きながら外を眺めると今日もピーカンの空だ。暑くなりそうだぜ。荷物を抱えて外へ出ると既に汗ばんできた。

 駐車場には既に用意万端のヨッシーが待っていた。おっと急がねえと。慌ててパッキングを済まし、スロットルを捻った。目的地は美瑛。

 渋滞の市街地を暫く走り、富良野国道へ入った。そして意外に早く美瑛町へ辿り着く。既にオフシーズンだが道路脇に時折見える花畑には、遅咲きのラベンダーなどの草花がまだまだ美しく咲き乱れていた。

 北海道内陸部の丘陵地帯は、大雪、十勝連山、日高山脈と夕張、幌内山地に囲まれているため気候は盆地型に近い。冬は氷点下20℃以下になるが夏はかなり暑くなる。しかし、モノには限度があると思う。いくらなんでも連日熱過ぎるぜ。暑いという普通の表現のイメージではない。やはり熱いが適切だ。

 普通はバイクに乗っていれば向かい風で涼しくなるのだが、もろに熱風が叩きつけられどんどん体力が奪われていく。さすがに耐え切れなくなり、「北工房」という喫茶店に逃げ込んで涼をとった。しかし、ここのアイスコーヒーって美味い。砂漠に水が沁みていくような心地よさを感じた。

 鋭気を養い中富良野の「ファーム富田」へと向かう。じわりじわりと汗が噴出してくるが、怯まずスロットルを握り続けた。すると広大な花畑が見えてくる。

 ここか。マシンを停めて暫し歩く。ラベンダーのほかにも赤・白・ピンクのポピーや白いカスミ草、ハマナスなど10ヘクタールという広大な敷地に100種類もの花々が栽培されていた。時期がずれているのと連日の暑さで、花はややしおれ気味だが充分に景色を楽しんだ。

 昼食は富良野まで南下し、スキー場近くの「コーラカンパニー」というレストランでとることにした。この店のオーナーシェフは、以前イトーヨーカ堂で勤務している頃、スーツ部門で全国トップセールス賞をとった。その後は起業家を志し、世界各地の有名レストランで経営のノウハウを学ぶなど努力の人だった。帰国後は焼肉屋チェーンで成功を収めたりと興味深い経歴をお持ちだ。

 オーナーは凝り性で、カーネル・サンダースン、スターウォーズに登場するロボット(俺はあまり興味がないので名前は忘れた)、バットマンなど有名な人形の数々を収集。また古きよき時代のアメリカのゲーム機などマニアが見たら垂涎ものの展示物もずらり。これは本当に見事だ。

 オーナーが
「うちの料理は時間がかかりますが構いませんか」
 と聞いてきた。
『ええ、別に構わないよ』
 と答えるとバルコニー席に案内され、細かい料理の説明をしてくれた。ステーキ類だけは肉を熟成させたいから予約が必要とのこと。

 オーダーしたのは、お薦めのベジタブルステーキとシーフードパスタ風ヤキソバだ。まあ富良野の野菜たっぷりのお好み焼きと海鮮ヤキソバという感じかな(なんて書くとオーナーから叱られそうだが)

 ベジタブルステーキは相当な量の野菜を使用しているらしく、かなり体によいらしい。専門の北大教授の証明書も展示してあった。

 オーナーの努力賞の逸品といったところか。とにかく丁寧に説明しながら料理を運んでくる。かなりのボリュームに満足しながら店を後にした。

 ところでお味は?もう料理が出る前から知っていた。これだけ丁寧な接客ができる人の料理にハズレなどあろうはずがない。一切の手抜きのない本物の味に感謝するのみ。自分の読み物サイト、さらには本職もこうありたいものだ。

 オーナーは外のマシンのところまできちんと見送りに出て、本当にいい笑顔で手を振ってくれていた。

 俺はその笑顔を決して忘れない。そしてまた訪ねよう。

 クラブハウス コーラ・カンパニーへ。 

 ありがとう。




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