北海道ツーリングストーリー



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 ひでえ朝露だ。

 早朝の屈斜路湖畔は酷い霧でなにも見えない状態だった。そしてテントがグシャグシャに濡れている。タオルで丹念に拭きとりテントを撤収した。

 荷物をマシンにパッキングしていると昨夜のトホダーの若者が起きてきた。彼は無理せず連泊し、和琴温泉で疲れを癒すそうだ。気長に歩きの旅するには、休むときは休むという充電が秘訣なのかも知れない。彼に見送られながら和琴半島を去った。

 しかし、美幌国道も霧が濃い。美幌町を抜け北見国道へ入る頃、ようやく霧が晴れ劇的に気温が上昇し始める。今日も暑くなるんだろうな。なんて思っていると弾丸のような勢いで走るマシンにぶち抜かれ、あっという間に点にされてしまう。

 こっちもそれなりの速度で巡航していたのだが。いったい何キロで走ってんだ。一瞬に垣間見た車体から、あれは世界最速マシン「隼」だと判断した。くれぐれもあの世に辿り着くのも最速にならないことを祈る。

 早朝の北見駅に到着。意外に大きな街だ。駅前にマシンを停め、朝食に駅弁を購入した。帆立弁当が人気があるらしい。肉厚の帆立フライがなかなか美味しい。しかし食べ足りないので好物の駅の立ち食いそばもすすった。こっちの方が懐かしくて美味いと思うのは気のせいか。

 とにかく半端じゃない暑さのなかスロットルを握り続けていると北見ナンバーの四輪の族車から幅寄せされたり蛇行されたりと絡まれる。上等じゃねえか。俺は強引に前に出てピンポイントフルブレーキング攻撃を嫌っていうほど繰り返してやった。眠気覚ましに丁度いいや。俺の波状攻撃に辟易した四輪野郎は、急に猛スピードで反対車線へ飛び出して消えちまった。ご苦労。モトヤンをなめんじゃねえぞ(嘘?)

 道の駅「おんねゆ温泉」にて小休止。しかし両膝の間接部分の火傷の痛みが酷い。足を引きずるようにして歩いた。そしてクーラーの効いた施設内で暫し高校野球中継を眺め暑さを癒す。しかし、ここから動きたくねえなあ。

 あまりの暑さでヨッシーは、ヨタモノのように上半身裸になる。そしてそのまま石北峠へ突入だ。しかしなあ。やっぱり、どうしても暑過ぎるぞ、この陽気。なんとかなんねえか。結局、石北峠のパーキングでも休憩をとっちまった。

 勇ましい上半身裸族姿のヨッシーだが、売店前の巨大なヒグマの剥製に恐れおののいていた。俺は暑さに耐えかねて巨乳ソフト・・・、あっ、もとい、いやさ巨峰ソフトを購入。ファンタグレープの味がした。甘くて余計に喉が渇きそうだ。

 大雪湖を過ぎ、長いトンネルを抜けると層雲峡だ。相変わらずびっちりの観光客で賑わう。柱状摂理っつーやつを久々に拝んでいると白人の女の子がすまし顔で記念写真の被写体になっていた。屈託のない活発そうな子だった。しかし、アングロサクソン系の方は、この暑さでも平気なのか?とても涼しげな挙措動作が羨ましい。

 そういえば昔、名寄のライハで知り合い、すっかりお世話になったツノダさんと別れたのもこのあたりだったか。俺はおそらくとっても遠い目になっていたと思う。ここも青春のヒトコマのエリアだった。

 旭川へ突入。今や旭川は全国区のラーメン激戦区の土地柄だ。やや彷徨いながらTMに掲載されていた「蔦亭」というラーメン屋へ入った。そして醤油ラーメンをオーダー。出てきたラーメンは半とんこつという感じだな。俺はごまかしの効かない純粋な醤油ラーメンが本当は好きなんだが、ここのラーメンの麺とスープのバランスが絶妙で素直に美味いと思った。ボリュームもかなりあるし。

 その後、薬局で火傷の薬を店のおばさんから説教されながら購入。ほっといてくれ。サイボーグ並の俺は簡単にくたばらねえんだから。ぶつぶつ言いながら旭川駅前の予約していたビジホへ到着。今夜は旭川の夜の街を徹底的に堪能するつもりだ。

 しかしこの宿、安い料金だけに恐ろしく古かった。それに清潔感がない。まるで野戦病院のようなシチュエーションに気が滅入りながら外へ逃げ出す。宿は安ければいいものではない。安い場合は、それなりのリスクを覚悟しなければならないということを身をもって学んだ。そしてこういった経験の蓄積で「北のサムライ」、後年の無頼で怒涛な14連続野営の布石にもなったとも確信する。

 とにかく気を取り直して、夜の旭川を満喫しよう。ヨッシーのガイドブックに掲載されていたビヤホールで地ビールをがぶがぶ飲んだ。いやもうヘロヘロだ。さらに居酒屋で焼酎やら日本酒やらガンガン、ダメだ。完全に酩酊してきたぜ。

 仕上げに旭川ラーメンの元祖的な店「西山軒」で醤油ラーメンをすするが、最早その味も分からず。完全にヨッパライダーに変身していた。

 そして永久ライダー史にさん然と輝く事件が勃発する。

 そう、熱心な読者ならご存知のはず。「旭川噴水転落事件」。

 帰り道、日本で一番古いとされる歩行者天国を千鳥足で歩いていた。すると掌のオブジェのある噴水が見えた。

 こんな熱帯夜、せめて足だけでも浸かったら、さぞ気持ちいいことだろう。

 ヨッシーも特に止めない。暗いのも災いしたと思う。俺は普通の浅い噴水の感覚で片足を水へ入れた。

 がっ、ドボ〜ン・・・

 思いっきり深いじゃねえか。完全にバランスを失った俺は噴水のなかへド派手な水音とともに消えて行った。

 ゲボ、ゲボ、ゲボ・・・

 どうやら大量の水を飲んじまったらしい。咳が止まらない。一気に酔いも醒めた。なんで、こんなことばっかし。周囲には人だかりが出来ていた。

「おもろいにいちゃんがおるでえ。電波少年かもしれへんなあ。ガハハハハハ」
 この当時の俺は、もう30の半ば近い。にいちゃんと呼ばれるほど若くない。

 そして関西系の団体旅行のジジババ集団が写真を撮りまくっている。

『おっ、俺はコメディアンじゃねえ。写真を撮ってんじゃねえよ。肖像権侵害だぜ』
 俺はフラッシュライトを浴びまくりながらと絶叫していたそうだ。

 この後(帰り道)のことなどは、もう覚えてはいないし、思い出したくもない。

 永久に封印して置こう(涙)




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