北海道ツーリングストーリー



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 今、何時だ?

 昨夜はあまりにも早くシュラフへ入ったせいか、とんでもない時間に目覚めてしまう。あたりはまだ真っ暗だ。日中であれば丘の上なので日本海の水平線のかなり沖合いまで見渡せる。

 しかし、闇の世界。イカ釣り船の漁火が点々と光彩を放つのみだ。ラジオから流れる松たか子の淡々とした歌声が、暫し旅のロマンと高揚を沸きたてる。

 胡坐をかいて、コーヒーを飲む。そして旅の思いにふけった。キャンプツーリング。俺にとっての旅の新境地が確立したといえる。自己責任のなかで最低限自分のことは自分でやる。このスタイルが無頼派の俺には一番アバウトで合っているようだ。

 しかし、こうしている時間がもったいない。いつの間にかテントの撤収作業を始めていた。やがて完璧にパッキングも済ませた。旅の始めの頃は、たどたどしかった俺の手つきももう寸分の無駄もない動きに成長していた。

 今朝は朝食の準備はせず。夕べ、早出して朝食は函館朝市で喰おうとヨッシーと約束していたからだ。しかし、彼はなかなか起きてこない。めずらしく寝坊のようだ。暫くしてようやくヨッシーがテントから顔を出す。そして用意万端の俺の姿に驚愕し、大慌てで撤収作業を開始した。

 予定よりはかなり遅くなったが、朝焼けの瀬棚の丘を出撃。

 山間部の檜山国道をひたすら南下する。早朝の凛と冷え込んだ空気が心地よい。まさに大地が目覚めた瞬間を体感していた。キビキビとタイトコーナーをクリヤーしながらやがて熊石町の海岸線へ突入。潮の香りが濃厚に漂っていた。

 単調な海岸線の風景を一気に走り抜け、R227、ふたたび山間部へと入った。そして、視界が忽然と広がってくる。坂の街函館だ。

 街のなかを標識に従い駅前へ向かう。さすがに渋滞が始まっていて走りづらい。すり抜けを繰り返しながらようやく函館駅前到着。しかし、いつ来ても思うのだが「北海道の玄関口函館」、意外に駅自体は小さい。

 徒歩で函館朝市に向かった。

 360もの店が集まっている。もちろん新鮮な魚介類や野菜、果実、その他乾物や衣料品にいたるまでさまざまなものが売られていた。仰天するくらい大きなカニもあちこちで見れるので珍しいとは感じなかった。

 でも目的はお土産ではない。朝食をとりにきたんだ。朝市の食堂のなかでも有名な「きくよ食堂」の暖簾をくぐり、鮭イクラ丼を食べる。美味いしボリュームも満点。しかし、忙しいせいか店のおばさんの口調が少し怖かった。

 さて腹もつくったし行くか。セルをまわし馬上の人となる。

 R5を北上すると優美なコニーデ型火山駒ヶ岳(1133M)がで〜んと登場してきた。その裾野には、大沼、小沼、薄葉沼の3つの沼が並んでおり変化に富んだ美しい風景が広がっている。もちろん大沼公園へ右折し、休憩をとることにした。

 新日本三景、日本のヨーロッパといわれる景勝地だけにさすがに観光客の多さも半端じゃないぜ。もう観光バスだらけ。風景を楽しむ余裕などない。

 気温もかなり上がっている。喉が渇いたのでジュースでも飲むかと思い、売店の冷蔵庫を覗くとなんと「白い恋人ドリンク」なるものを発見。クッキーの白い恋人は非常に美味しいからドリンクの方も間違いないだろう。躊躇わず購入し栓を開け、一口飲むと・・・

 ゲー、あっ、甘過ぎるぜ。確かに味は白い恋人だが、ゲボ、ゲボ、ゲボ・・・・・

 て、撤収!

 噴火湾の穏やかな海岸線をあまりの暑さにぼんやりしながら走っていた。するといつの間にやら長万部に入っていた。

 長万部といえば「かにめし」だろう。スタンドで給油したとき、従業員のあんちゃんにカニの専門店兼食堂を紹介してもらった。地元の人間の声がなんでも一番だ。確かにここのかにめしは美味しかったぜ。

 ふふふ、この旅で俺の直感や情報収集能力は格段の進歩を遂げたようだな。いい気になった俺はヨッシーに自慢げに「俺についてくれば間違いない」というような表情やしぐさをとっていたらしい。

 すっかり慢心野郎となった俺は、虻田町から洞爺湖方面へ進路をとった。そして峠道を楽しんでいるといきなり紺碧の洞爺湖が眼前に広がってくる。

 洞爺湖は周囲43キロのカルデラ湖で、湖畔には道内屈指の温泉郷が存在している。湖には大小4つの島が浮かんでいた。その中でも最大の大島には洞爺湖森林博物館が建ち、野生の蝦夷鹿を保護しているそうだ。

 今日は洞爺湖畔で幕営するか。「グリーンステイ洞爺湖」という高級キャンプ場の受付にテントの設営を申し込むと千円でOK。本当に綺麗でシャワーやランドリーの設備までが充実しまくりのサイトだった。さっそくテントを設営し、激ウマの松尾ジンギスカンを食べにマシンを走らせる。臭みがなく柔らかで美味しいジンギスカンに満足しキャンプ場に戻る。

 その後のことは、詳しく描く勇気がまだない。

 概略だけ書くと、慢心野郎は酔っ払ってまだエンジンの冷えきってないマシンへスパッツ姿で跨り左右にタチゴケ。両膝の内側に火傷。意外に重症(全治1ヶ月)だった。しかも左右のレバーが魔法使いのほうきのように折れ曲がっているし。

「キタノさんの奥様へ、いったいなんと報告したらいいんだ」
 ヨッシーは頭を抱えながら嘆いていたとさ。

 しかしなあ〜

 結局、俺はなんにも成長してなかったんじゃないかい? 




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