北海道ツーリングストーリー



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 なんだ?排気音がヘンだぞ?

 ホテルを出発しようとアクセルをまわすとマフラーから違和感のある排気音がする。絶対にいつもと違う。これだけ連日愛機に跨っているとちょっとした変化へも敏感に反応できるようになるらしい。

 なんだか排気音がかん高い。

 マフラー部分に目線を下げるとなんとサイクロン中央の接続部分がはずれていた。マジかよ。ヨッシーに前からエキパイ部分を押さえてもらい、俺は後尾のサイレンサーを何度も蹴とばす。完全にピタッとは接続しない(ストッパーもない)がなんとかなるかと思いながら出発した。しかし参ったな。まさにトラブル続出。

 今日もうだるような暑さのなか小樽へ向け走り続ける。しかも渋滞だし。

 小樽入りする。さっそく小樽運河で記念撮影を済ますが、運河は夜の方が絶対にロマンチックでいいと思う。

 昼食は有名な「小樽倉庫NO.1」で初めてパエリアというスペイン料理を食べた。まあ、西洋海鮮炊き込みご飯という感じだ。味は?よく分かんねえがこんなもんかな?

 しかし、ここのレストランって俺の地元の「びっくりドンキー」と同じ系列だったとは。少しがっかりする。

 札幌で充分鋭気を養なったので都市部はもういい。キャンプ生活に戻りたい。早々に小樽を後にした。

 積丹半島へ入った。岩場の多い海岸線が続くが海の色が際立ってくる。有名な積丹ブルーというやつだ。

 覆道が多いが美しい海を楽しんでいるうちに先端の積丹岬到着。

 海底が見えるほど透きとおった琥珀色の海。これが本当に北海道の海なのか。常夏の島へ来たような錯覚におちいる鮮やかな蒼の世界だった。

 積丹岬の駐車場からやや昇りの道を歩くと狭い洞門があった。そこをくぐり抜けると前述の光景と遭遇するのだ。

 女郎小岩。夫婦岩。彼方に海中公園「島武意海岸」が眺望できる。見事だ。海水浴客が気持ちよさそうに泳いでいる姿も目に入り羨ましく思う。俺もこんな暑さから解放され美しい海へ飛び込んでみたい。

「今日はここでキャンプするのも悪くねえな」
 ヨッシーへ話しかけると彼も大きく頷いている。

 ところが・・・

 キャンプ場に「マムシ注意」の貼り紙が・・・

 ヘビが大嫌いのヨッシーがあっさり戦意喪失。積丹岬キャンプ場での野営は夢幻の如くなり。撤収。

 砂浜が比較的多い積丹半島の南側を走っている頃、日も傾いてきた。そろそろキャンプ場に入りてえな。スタンドで給油したとき、従業員にキャンプ場の情報を尋ねた。道沿いに結構点在するとのことだが、思ったようなサイトがなく積丹半島を出てからもかなり走り続ける。

 とうとう瀬棚町へ突入した。あたりはもう暗い。TMで確認すると「せたな青少年旅行村」と記載があった。よし、そこでキャンプしよう。ところがなかなか見つからない。町内地図の看板で確認していると後ろから我々の方に向かって駆けてくるヤツがいる。

『誰だ!』
 異様な気配を察知した武道家の俺は叫んだ。
「ぼくっスよ。雄冬キャンプ場でお世話になった」
『キミは・・・・・』
 ヒッチくんじゃねえか。奇遇だなあ。東京へ帰ったんじゃねえのか?

 ヒッチくんは、今朝ヒッチハイクさせてもらった男にウニの密漁ポイントを教えたそうだ。教えられた男は「今日は仕事へ行っている場合じゃねえ」と言い出し、2人で夕方まで海に入り、ウニを乱獲していたそうだ。ヒッチくんの手にはビニール袋に黄色いウニの身の方だけがびっちり詰まっていた。

 いいなあ・・・

 じゃなくて、とっ、とんでもねえ野郎だ。一緒にキャンプしねえかとも誘ったが、もう一度ヒッチハイクするとのこと。どうやら帰りに乗るフェリーの関係で苫小牧港へ少しでも近づいておきたいらしい。ヒッチくんへ別れを済ませ、キャンプ場を探すも見つからないので、また地図の看板付近に戻った。するとヒッチくんは既に姿を消していた。相変わらず見事な腕だ。

 キャンプ場は実は丘の上に存在していた。街中でいくら探しても見つからないはずだ。管理棟で受付を済ませ、さっそくテントを設営した。そして今日はもう遅いので外食をすることにした。マシンを走らせ街中へ戻り、寿司屋兼定食屋でカツ丼をオーダー。しかしカツ丼が出てくるのが遅過ぎるぜ。ふと壁の貼り紙を見ると・・・

 「また瀬棚(セタナ)」と貼られている。なんだか今日はもう寝るわ。ようやく出てきたカツ丼を大急ぎで完食させ、マシンに跨る。

 そして、オヤジギャグの貼り紙のせいで酷い虚脱感を味わいながらキャンプ場へ戻った。大好きな酒を飲む気力もない。すぐにシュラフにくるまった。

 巷ではお盆に入ったのか。どこからか盆踊りのお囃子が風に乗って聴こえてくる。でも悲しい音色だなあ。なんて思っているうちにいつの間にか俺の意識は消えていた。 




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