海流
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俺が見たもの? 人のお化けではない。バイクだった。こっちを見るようにわざわざ横向きに停まっていた。そうその存在を誇示するがように。 なんのために?あたりに人の気配はない。盗難車を乗り捨てたのだろうか?違う。盗難車をあんなに丁寧に扱うワケなど絶対にあり得ない。 目をそらすようにアクセルをあげ通過しちまったので、車種までは限定できなかったが、ホンダの250ccあたりか。 忘れよう。 標識の方向へ進むとキャンプ場の灯りがちらほらと見えてきた。やがて意外に立派な施設に入った。ホテルのような管理棟の受付で場所を確認する。広大な芝のサイトだ。 さてIWA氏たちはどこだろう。ゆっくりとマシンを走らせるといたいた。こっちに向かって手を振っている。マシンが2台。あれ3台と聴いていたが? 『お晩です。皆さん』 札幌のカリスマ美容師IWA氏と高校時代からのお仲間2人。K茂氏とアズ氏だ。 『キタノです。よろしく』 K茂氏は現在川崎市に在住、サラリーマンをされているとのこと。アズ氏は札幌で友人と居酒屋を経営している実業家だ。皆、仕事が忙しい中、日程をやりくりしてキャンプに結集したそうだ。 「途中でバイクが停まってませんでしたか」 『えー、かなりビビリました』 「あれは、アズのマシンなんですよ」 とK茂氏が話した。 どうやら免許を取って間もないアズ氏がコーナーを曲がりきれずにクラッシュしたらしい。バイクが動かないため引き取りにくるバイク屋へ分かり易いようにああして目立つように停めたそうだ。本人に怪我がなかったのが不幸中の幸いだと思う。 IWA氏がさっそく例の炭焼きコンロで、炭を立て始めた。そしてジンギスカンの煙が周囲にたちこめた。懐かしい香りだぜ。北の大地の匂いだ。 俺はテントの設営を開始したが変だ。テントがビショビショに濡れている。今日は雨にはやられてないし。そうか先月の日勝オフキャンプ以来テントを乾してなかったんだ。うひゃあ、こりゃ、参った。異臭まで漂っている。とにかくジッパーを開放状態にして乾すしかねえな。風通しをよくして炭焼きコンロの宴に交ぜていただく。 ジンギスカンをご馳走になりながら、ぐんぐん酒を煽った。転倒のショックからかアズ氏は元気がない。大丈夫、ライダーは体で覚えるもんだ。そして誰もが経験したことだ。これを教訓にすればもう事故ることはない。 いろいろな話題がでた。みんなの高校時代の話。近況。北の大地の話。俺以外は、みな北海道の生まれだ。ちょっぴり疎外感も感じたが、気のいい人ばかりだ。K茂氏やアズ氏とは今日、初めて会ったという感じがまったくしない。 K茂氏が 「僕もキタノさんの『永久ライダーの軌跡』を読んだことがあります。おもしろいサイトだと思っていましたが、キタノさんがあのストーリーのままのキャラなら友達になりたくないと思ってました。でも会ってみると普通の人ですね」 『ワハハハハハ・・・なんて正直な人柄なんだろう』 「永久ライダーの軌跡」か。 あれは非日常をテーマにしている。だから文章も非日常で感じたことばかりが活字になっている。俺自身も365日、「キタノ」のままなら身が持たないだろう。キタノという男は俺の理想であり、仲間であり、家庭人・社会人の俺の立場から見れば敵かも知れない。 やがてペロペロに酔い出した。そしてIWA氏とプロレスの雌雄を決するべき時来たれり。 仮にも柔道3段の俺と互角にわたり合うIWA氏はなかなかのツワモノだ。そしてすっかりヨッパライダーへ変身したキタノはアズ氏へも勝負を挑む。 おとなしいアズ氏は、耳を噛まれるなどの反則行為に心身ともにボロボロになり果てたようだ。まあ、野良犬に噛まれたと思って勘弁してくれ。 ゴメンネ! 身の危険を察したK茂氏は、とうにテントにビバークしていた。 こんなヨッパな行動ばかりしてたら友人を失うに違いない。しかし、逆に仲間が増えていく現象は俺も理解できない? しかし、なんだ。文章のスタイルを変えてもやってることはいつものヨッパライダーキタノじゃねえか。 そして狂乱の宴の後の牡鹿の夜は静かにふけていく。 おやすみ! |