北海道ツーリング2012



後志




走古丹原生花園付近にて



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 今朝もお決まりの二日酔いで少し頭が痛い。それでもきっぱりと起きて洗顔を済ませた。秋刀魚の塩焼きがメインの朝食を美味しくいただく。よくダシの効いた味噌汁を飲むと二日酔いが引いていく気がした。

 パッキングを終え出発するか。あっ、そうそう薬をもらいに病院にいかないと。オーナーさんから場所を訊くと知床倶楽部のすぐ近くだった。これならわかりやすい。オーナーとお若いお客さんに見送られ出発。どうもお世話になりました。

 天気はいい。しかし、知床なのになんで朝っぱらこんなに暑いのだろう。うんざりしながら羅臼町立病院の中に入った。時刻は8時半だったが混雑している。もちろんこちらの病院は初めてなので診察券を作る用紙に記入したりした。

 そして延々と待たされる。TVで高校野球などを観ながら時間を潰すももう12時近い。薬を落としたぼくが悪いのだが、いくらなんでも待たせ過ぎだ。

「いったいいつまでまだせんだ。8時半から待ってるのにおかしいべえ。俺は湿布の交換にきただけなのによ」
 ついに地元のオジサンがキレ始めた。周囲のオバサンたちも「そうだそうだ」と同調し始めた。なんだか暴動が起きそうな雰囲気となった。
「病院としても精一杯対処しています。どうかもう少しお待ちください」
 受付のオバサンがなんとかなだめていた。
「もう少しって、いづまでだ。こっちは午前の仕事を休んできてるんだ。午後も休むようになりそうだ。まったく」

 オジサンがだだをこねまくっている頃、ようやくぼくの名前が呼ばれた。

「薬を紛失したのだね。何日分ぐらいの薬が欲しい」
『はあ、1か月分ももらえると助かります』
「わかった、ひと月分出しとくね」
 以上、ぼくの診察時間は45秒ぐらいでした。3時間半待って診察時間は45秒かい。ドクターなら聴診器で脈を見たり、「どう調子は?」とか訊かないのか?待合室でオヤジが暴れだしたもんだから、医師の診察が超アバウトになったような気がした。

 処方箋を持って近くの薬局へ入る。

「バイクで旅をされているんですか?」
 薬剤師の女性がソフィー・マルソー似の美しい方でぶっとんでしまう。

 う〜ん、今日の初恋!(冗談です)

「まあ、福島からですか。原発事故とかで大変でしたでしょう」
『ええ、なんだか北海道に来たら空気が綺麗すぎて調子が出ませんわ』
「やっぱり、そうだったんですか」
 彼女は本気にしたようで、かなり驚いていた。
『嘘ですよ。空気の違いなどわかるはずがない』
「冗談だったのですか。一瞬、信じてしまいましたよ」
 吹き出しながら呟いていた。
「お気をつけて」

 薬剤師さんに見送られて薬局を出た。

 せっかく羅臼まで来たのだから、せめて相泊温泉ぐらいには行きたいと思っていたのだが、病院で半日も潰されるとゆっくりもしてられない。久々に根室に向かい、花咲蟹でも食べるかと思いながらスロットルをあげた。

 灼熱の中、ひたすら国後国道を南下する。対岸には国後島の山肌がはっきりと見えた。どのくらい走ったであろう。かなりお腹が空いてきたぞ。 
   標津町に入ると郷土料理武田の看板が見えた。7年ぶりにここで食事をしよう。

 オーダーしたのは、ウニ・イクラ・カニの三食丼だ。旨い。値段もいいが味もいい。あっという間に完食した。
 店を出て、また灼熱の中を南下していく。野付半島はパスだ。

 走古丹原生花園とツーリングマップルに記されていたので行ってみた。

 ここもお先日のエサヌカ原生花園同様、穴場だと思う。
 
   すれ違う車がほとんどない。そして広大な原野が果てしなく広がっていた。

 ただ、この道道475は風蓮湖で行き止まりになるので引き返すことになる。それでも一見の価値があると思う。

 道端に人懐こいお馬さんたちがいたので、暫したわむれる。
 雷警報が出ている根室はパスすることにした。4年ぶりに本場で花咲蟹を食べようと思っていたのだが残念だ。

 今回は北太平洋シーサイドラインではなく、やや内陸のR44をひた走る。いわゆる根釧国道というやつだ。なぜかトラックなど通行量が多い道だ。きっと風光明媚な海岸線より、直線的なので時間短縮ができるからかもしれない。

 途中、茶内PA手前で左折し、霧多布に入る。今宵は久々にきりたっぷキャンプ場を利用しようと岬の売店で小松牛乳を飲みながら決意した。

 キャンプ場につき受付を済ませた。

「温泉にいくなら、これを持って行きなさい。小松牛乳が無料になるよ」
 管理人のオジサンから、霧多布付近のパンフをいただいた。
 まだキャンプサイトは、がらがらだった。とりあえずテントの設営をてきぱきと済ませる。

 ひとっ風呂浴びよう。歩いては無理な距離なので、ゼファーで霧多布温泉ゆうゆへと向かった。

 ナトリウム塩化物泉の温泉はなかなかよい湯であったぞとパンフの無料券でゲットした小松牛乳を飲みながら思った。
 
 夕食もここで済まそうと思ったのだが、すべて出前で取り寄せているそうだ。1人前ばかりで出前をしていただくのは非常に恐縮なので、愛機で街に下りることにする。

「福島から来たのかい。いろいろ大変だったね。今夜は岬のキャンプ場かい」
 郵便局で金を引き出して歩いていると地元のオバサンから声をかけられる。ホント、みんな優しいねえ。

 近くにあった食堂で夕食をとった。結構なボリュームで、かつ丼を少し残してしまった。やはり胃袋がかなり縮んでいるようだ。
   キャンプ場に戻るとテントの数がかなり増えていた。外は結構冷えて来たので、ぼくはすぐにテントに入った。

 ラジオをつけて、ウイスをちびちびと飲む。全身に酔いが少しずつまわってきた。

 ウイスキーがお好きでしょ♪
 天井に電気のランタンを吊るした。テント全体がいい具合に明るくなる。

 さて本を読むか。キャンプツーリング時のテントの中ではほとんど修行状態だ。

 ただ、ラジオからいい具合に音楽が流れてムード満点になっていた。
 
 外で食事や飲み会をしているキャンパーたちの声も次第に聴こえなくなってきた。遠くで波の音だけがコダマしている。

 昔、このキャンプ場でもいろいろあったなあ。

 ぼくも若かった。無鉄砲で、ずいぶん無理というか無謀なこともしてしまった。

 でも今となっては遠い過去の出来事だ。

 寝る前にトイレを済ました帰りに夜空を見上げた。いつもは霧ばっかりのキャンプ場なのだが、今宵は綺麗に星が輝いている。珍しいことだ。

 そんなことを考えながら、シュラフにもぐると急速に意識が消えていった。




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