北海道ツーリング2008








ポークチャップ700g







和琴の奇跡



 昨夜はグテングテンにヨッパになったが、やはり早起きしてしまう。そして、和琴の公衆浴場でひとっ風呂浴びるとアルコホールがばっちり抜け本当に清々した。

 今朝の朝食は納豆とキムチをおかずにクッカー炊きのご飯をかきこんだ。天気はイマイチかな。陽射しがあるのは和琴付近だけかもしれない。

「山には行かないの?」
 AOさんも起きだしてきて南部鉄釜で飯を炊きだした。
『ええ、もうどこへ行っても天気が悪いでしょう』
 既にふくちゃんとかは、テントハリッパーでツーリングに出かけたらい。AOさんも連泊決定のようだ。

 食後も洗濯とか、だらだらと雑用を済ませていた。時間だけが足早に経過してゆく。

 ジャンパーやズボンに着替え、俺も出かけるか。
「いってらっしゃい」
 隣のテントの美しいおかあさんにまたも声をかけていただく。やっぱり照れるなあ。でも思わず熱き抱擁を交わしてしまう(嘘)

 重いマシンを引きずりながら、湖心荘側の出口から出撃する。今日こそは、別海のロマンでポークチャップ塩味を喰らおう。

 またもR234で根室方面を目指す。和琴を出るとすぐに曇り空となり、なんだか気持ちが鬱になる。それでもめげずにアクセルを握り続け、多和平入口付近を通過。昨年の今ごろは多和平キャンプ場でテン泊したっけ。

 虹別を過ぎたあたりの広大な牧草地帯での出来事。突然、動物が飛び出してきた。あわや激突すれすれである。いきなりエゾシカが道路を横切ったのだ。こういう場合、追随する鹿がやってくる可能性が高いのだが、幸い一頭だけだった。

 長年、北海道を旅してきたが初めての経験である。もう3秒ほど先を走っていたら、俺やゼファーはただでは済まなかったと思う。道路脇へマシンを停め、一服しながら胸を撫で下ろした。

 シカたのないことだ・・・

 もとい、70キロで巡航していたのだが、充分注意しないと大変なことになると思った。

 気を取り直して、大草原の中のパイロット国道を黙々と走り続けるとロマンが見えてきた。どうやら営業しているようだが、駐車場が一杯になるくらい混みあっている。オートバイの数も多かった。この店もライダーにかなり知られるようになってきたらしい。確か昨夜、FUGさんが来年あたりのTMへ掲載されるかも知れないと言っていた。

 ほぼ満員御礼の店内に入り、空席を探していると、どこかで見た顔が。
『おう、これはふくちゃんじゃねえか』
「昨夜、皆さんがここの店のポークチャップがボリュームがあってとても美味しいと話していたので来てみました。とりあえず700グラムをオーダーしたんですけど火が通るまで40分以上かかるといわれましたよ」
『俺は700グラムは無理なんでチミケップ・・・も、もといポークチャップミニの400グラムにするわ』
 400グラムでも完食できるか、かなり疑問だけど。参考までに通常の豚カツは150グラム程度らしい。

「注文はお決まりですか」
 店員のおばさんが水をテーブルに置いた。
『ポークチャップミニで、塩味でできるかい』
「はいできますが、焼きあがるまでお時間をいただきますが、よろしいですか」
『いつまでも待つわ♪』

 暫し待つとポークチャップミニが出てきた。相変わらずこんがりと焼けていい香が漂ってくる。
 ミニは25分で焼きあがるので、彼の700グラムより当然早く運ばれてきた。
『わりいが、先にいただかせてもらうな』
「ええ、どうぞ冷めないうちに」

 ナイフで肉を削ぎ落として、ひと口ぱくりと食べてみた。表面パリパリ、中身ジューシー、なまらうめえ。それにこの塩味が素晴らしい。胡麻油を軽くひいて250℃のオーブンで焼き上げるお肉の味はまさに秀逸だ。
 やがて、通常のポークチャップ(700グラム)がやってきた。凄え、俺はいつもミニしかオーダーしないので驚愕してしまった。高さ7センチ、まさに肉がそびえ立っていた。本人も唖然としている。そして恐る恐るナイフとフォークを動かし始めた。これを3枚食べるとタダになるそうだ。10年間で達成できた人はたったの6人。というより6人もいたのか?
 塩味のポークが予想以上に美味しかったので、少食の俺もきれいに食べきった。対照的にふくちゃんは、苦しそうにお肉と格闘している様子である。でもどうにかクリアする。

「ぼくも普段はそんなに食べないのできつかったです。次回はポークチャップミニの塩味にしたいと思います。絶対に塩の方が美味しそうでした」
『俺が個人的に思っていたとなんだがな、本州の人間はケチャップ味より、塩味が好きなんだよ。その証拠にポークソテイは洋食屋のメニューに多いけど、ポークチャップって聞いたことがないだろ』
「確かにそうですね」
 なんて話しながら店の外へ出た。
『これからどこへ行くんだ?』
「この先を暫く走って右折すると、新酪農村展望台という眺めのよい展望台があると聞いたもので、寄ってみようと思ってました」
『聞いたことがないなあ?乗った。俺も行ってみよう』
 ということで最初はふくちゃんが先頭で走りだしたが、どうも場所を特定できない様子なので、俺が先になった。暫く曇り空の牧草地帯を走ると望楼のようなものがあった。これかなあ?
「これです。看板に書いてあります」
 ふくちゃんは、そう呟きながら展望台を駆けあがっていったので下から画像をパチリ。手をふっている彼の姿が真ん中やや左に写っている。

 俺もゆっくりと階段を登り、展望台の最上部へ行ってみた。確かに広大な牧草地帯を一望できる見事な眺めだし、穴場かも知れない。

 ただ残念なのは天気が曇天ということ。晴れていれば文句なしなのだが。
 画像には映ってないが、猛禽類が上空を旋回していた。獲物となる小動物を狙っているのだろう。

「あれはなんでしょう?」
『まさか鳶じゃないだろう。鷲でもないな。鷹っぽいね』
「確かに」
 なんて見ているうちにすぐに鷹?は消えていった。

『そろそろお盆が近いな。この時期になると俺の古い旅の仲間たちが続々と和琴にやってくるんだ。例えば混浴ライダーとか』
「誰ですか混浴ライダーって」
『俺の過去の北海道のツーレポを読むとわかるよ。毎年、北海道ツーリングを欠かさない関西のライダーなんだ。2000年の夏に和琴で出会った筋金入りの旅人なんで、妙に意気投合してね。以来、毎年、夏の北海道で再会している。彼は俺より先に知床岬を踏破しているよ。なんだか今夜あたり、混浴ライダーがひょっこり和琴にやってきそうな気がしてならないんだ』
「今夜の和琴でのキャンプが楽しみですね」
 ふくちゃんは、にっこりと微笑んだ。

 ここで中標津方面へ向かうというふくちゃんといったん別れて、俺はまっすぐ和琴へ帰ることにした。

和琴の奇跡
 また延々と牧草地帯を貫くように走るパイロット国道には飽きた。そこで計根別の方へ迂回してR243へ戻るなど多少変化をつけてみる。でも曇天だとどんなルートをとろうと気持ちが晴れない。まあ、とりあえず一服しよう。

 弟子屈の街へ入る手前にあったPAへマシンを停めた。そして煙草を吹かしつつ和琴の方角を見ると屈斜路湖の上空だけ明るくなっていた。おう、これぞ”和琴の奇跡”だ。俺は何度も和琴の奇跡を見てきた。
 煙草を吸いながら、ずっと和琴方面を眺めていた。すると一台のバイクが通り過ぎていく。特に気にも留めなかったのだが、そのバイクがUターンして俺の方へやってくるではないか。誰だろう?それにしても変わったバイクだ。BMだが、俺の見たことのない屋根つきのマシンだ。どうやら、C1というらしい。

「あの、永久ライダー書かれている方ですか?」
『いかにも』
 特に隠す理由などない。
「風貌をみてすぐにわかりました。ぼくは初めての北海道ツーリングなのですが、一番最初に永久ライダーのサイトを見つけて、かなり参考にさせてもらいました。知床岬踏破は、やはり大変でしたか?」
『俺にとっての知床岬縦走はかなり大変なことでした』
 ストレートに答えると彼はとてもいい笑顔で頷いていた。
『俺は和琴でずっとキャンプしてるんですが、今夜はどちらへ泊まるんですか』
「ええ、ちょっとバイクの修理の関係で北見へいくところです」
『珍しいバイクですね。あなたと一緒に1枚撮らせてください』
 ということで、デジカメを出して撮影を済ませた。
「では、キタノさんの写真もいいですか」
『俺ですか?目にしまりがないのでサングラスだけかけさせてください』
 お互いに画像を取り合うカタチになった。
『後日、ツーレポで書くことになると思うので本名でなくとも結構です。ハンドルネームを教えてください』
 名前も知らない人の記事を画像入りで掲載することはできない。
「ジャミンと申します」
 彼は少しだけ考える素振りをしながら答えてくれた。
「では失礼します」
 と、C1乗りのジャミンさんは北見へ向け駆けていく。

 本当にたくさんの人から声をかけていただく旅だ。そして、これからもどんどん続いていくことになるとは、この時は知るよしもない。

 もう1本煙草に火をつけ、俺は”和琴の奇跡”の光景を再び見つめていた。 



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