北海道ツーリング2007
納豆めし
3
ガサガサと揺れるテントの音で目覚める。朝から風雨が激しい。今日もテント停滞決定だ。本当に羊蹄山登山の天候回復待ちで、日程がどんどん消費されてしまっている。 クッカーで米を炊きながら、明日も荒天のようなら、羊蹄山登山は潔く諦め、北上しようと考えていた。 やがて、炊き上がったご飯に3パックの納豆をぶっかけて朝食を済ました。 |
さて、これからどうしよう? 京極温泉が始まるのは10時からだ。まだ時間がある。とにかく本でも読むか。テントの中で横になり阿修羅のように小説を読んだ。 浅田次郎の”日輪の遺産”である。帝国陸軍がマッカーサーより奪い、終戦直前に隠したという時価2百兆円の財宝。50年経った今、老人が遺した手帳に隠された驚くべき真実が・・・ 財宝に関わり生きて死んでいった人々の人間模様に深く感銘してしまう。どうして、こんなに凄い発想を思いつくのだろう・・・なんて考えているうちにまた爆睡。 再び目を覚ますと10時半になっていた。風呂の道具を持ち、スノピの傘を差して、雨の中、てくてくと京極温泉まで歩いた。本当にこの雨、いつまで降れば気が済むのだろう。 ガラガラの温泉はとても心地よい。じっくりと湯に浸かり、露天風呂にも行こうと思ったが、雨なのでやめた。 風呂からあがるとフニャフニャになってしまう。定番の瓶牛乳を飲んで、休憩室で横になる。本を読み、眠り、風呂に入るをローテンションのように繰り返しているうちに夕方になってしまう。温泉だけで一日が潰れるとは優雅で贅沢で、なんと堕落したもったいないことなんだろう。 テントに戻り、ビールを飲みながら、もやしとジンギスカンをフライパンで炒めてた。これが今夜の夕食だ。俺は、そんなに手の込んだ料理は作れない。ひとりの時は、本当に地味でテキトウな食事しかしない。 裏腹に週末のせいかファミキャンが多く、豪快な野外料理のにおいが俺のテントの中まで漂ってくる。 現時点で風雨がかなり強い。こんな台風のさなかでも普通に週末キャンプに来る北海道のファミキャンの皆さんの根性は凄い。意にも介さず、平然と野営を楽しんでいた。 今夜もテントが強風で揺れていた。俺はビールからグランブルーに切り替えて、ゆっくりと酒を飲んだ。ヘッドライトで活字を追ううちにいつの間にか意識が消えていく。 |
何時だろう?腕時計で確認したら7時だった。テン泊生活の俺としては少し寝坊だ。 後室のジッパーを上げ、外を見ると強くはないが、やはり雨が降っている。これで、羊蹄山登山の断念は決定だ。いつまでも天候待ちはできない。カッパを着てでも移動だと思いつつ米を炊いた。納豆を切らしたので、朝食は玉子丼となる。さっとかき込んだ。 |
2泊3日で、溜まりに溜まったゴミのうち、燃えるものはロゴスの焚き火台へ入れ、モンベルのトーチで強引に燃やしてしまった。 文句を言われても行政が自ら地域で販売したゴミの引取りを放棄している以上、キャンプライダーは、こうするより仕方がない。俺ほどの男が不法投棄などするわけないし。 雨は一時的に止んだので、テントも撤収だ。 |
マシンへパッキングを済ませ、暖機を始める。燃えないゴミは仕方がないので、ネットに絡ませて持ち帰る(どこへ?)ことにした。管理棟へ挨拶をしてスロットルをあげる。 とりあえず目的地は札幌の秀岳荘白石店だ。まずフックコードを受け取らないと。空はどんよりとした曇り空で、本州の梅雨のように湿度が高い。喜茂別からR230に入り、中山峠を目指す。時折、パラパラと雨にあたるが、まだカッパを着るほどじゃなかった。それにしても札幌ナンバーの車は、どうしてこんなに飛ばすのだろう。俺もそれなりのスピード(制限+20程度)で走行しているのだが、たちまち、煽られたり、パッシングされてしまう。 中山峠で小休止。結構、混んでいた。ここらで燃えないゴミを処分したかったのだが、とてもそういう状況ではなかった。まあ、とりあえず焼き鳥を頬張る。 バイクに戻ろうと歩いていると、おじいさんが俺のバイクの周りをグルグルとまわっている。多分見物していたのだろうか?バターになりそう。かまわず俺はゼファーの横に到着すると、おじいさんは逃げ出していった。 さらに俺のバイクの真後ろに旅で少しハイになったっぽいおっさんが、「いやあ〜」とにやにやしながら、なにかを言いたげにカブを停めた。おい、出れなくなっちゃうよとは思ったが、かまわずチェーンオイルを塗っていると、俺に言葉をかけるタイミングを逸して無念の形相で売店の方へと消えていく。どうも近年、馴れ馴れしいやつがシンドイ。俺は偽善者じゃないので正直書く。 おっさんのお蔭で、出しづらくなった過積載のマシンをようやく駐車場から引きずり出す。本当に重いんだよね。そして降ったり止んだりの定山渓国道を駆け抜けた。渋滞の箇所もあったが、順調に真駒内に入り、”魚一心”という回転寿司で昼食をとった。味は、まあまあだったかな。記憶がはっきりしない。 白石区に入る。 ええと、秀岳荘って、いちさんの説明だと環状線の近くだったよなあ?少し迷走してしまう。ちょうどガソリンが尽きそうなのでスタンドで訊いてみた。店員さんは、とても親身に対応してくれ、地図まで持ち出して丁寧に教示してくれた。さらにキャンプの燃えないゴミまで引き取っていただき本当にありがたかった。 やがて、秀岳荘白石店にめでたく到着。凄い広い店内だし、お客さんで混み合っていた。でも冷房がとても心地いい。 スノーピーク直営店に入ると店長さんは大変親切な方だった。在庫のトレイルトリッパー2から、わざわざフックコードのみを外して、 「福島のキタノ様ですね。これをお使いください。代金は要りませんから」 それが当然のような言い方で呟く。 うっ、なんて良心的なんだ。かなり感動してしまう。 「バイクでキャンプ旅ですか。天気が悪くて大変ですね」 とても自然な微笑みだった。 『一応、山も狙っているのですが、この荒天ではなかなか』 「そうですか。北海道はどのぐらいいらしてるんですか」 『毎年、夏には2週間ぐらいは来てますよ』 「それなら、いっそ移住されたら如何です」 『それも一考したことはありますが、家族も仕事もありますので』 「なるほど、それもそうですね」 店長は、またこぼれるような笑顔を見せた。 『ところで、ここから近いキャンプ場を紹介してもらえませんか』 「それなら、江別市森林公園キャンプ場がいいですよ。この道を真っ直ぐ行けばわかり易いし」 『わかりました。今夜は、そこでキャンプしましょう』 店長に礼を言い秀岳荘をあとにした。 R12を江別に向け北上する。蒸し暑いが陽が差してきているので、精神的にとても楽な気分になった。そして順調に森林公園側に右折し、今夜の買出しをする。 キャンプ場はぞんがい山の中だったのだが、日曜ということで日帰りのファミキャンの方が多い。また、ちょうど入れ違いの時刻だったらしく、駐車場近くのそれなりに便利な一角へ場所をとれた。 ここの管理人さんも人当たりのいいおじさんで、いろいろ便宜を図っていただく。利用料四百円もキャンプ場適正料金だ。 しかし、シチュエーションが山の中だけに蚊の数が半端じゃない。テント設営中に何度刺されたことか。とにかく防虫スプレーを乱射しながら設営完了。 蒸し暑いけど、虫対策で、料理はすべて前室で行う。肉野菜炒めが仕上がる頃の時間になるとなぜかピタッと蚊が居なくなった。蚊にも活動時間外というのがあるようだ。 |
ここは人気のサイトらしく、本来なら札幌方面から大挙してファミキャン軍団がやってくるそうだ。でも、今宵は悪天候が続いていたせいか、とても静かな夜だった。 俺は、グランブルーを少しずつ頬張りながら、小説の世界へと入っていく。 深夜、キツネの遠吠えが聴こえた。 |