北海道ツーリング2007







仙台港FTにて







 暑い。本当に焼けるような暑さだった。

 自宅から東北道、仙台南部道路・東部道路などの有料道路をアクセスしながら仙台港へと向かう。それなりのスピードで走行したのだが体にあたるのは熱風ばかりであった。

 悶々とした空気の中、あっという間に仙台港フェリーターミナルへ到着した。
 今宵、乗船するのは”いしかり”だった。本当は豪華な新造船”きそ”に乗りたかったけど贅沢はいうまい。

 手馴れたもんで乗船の手続きをさっさと済まし、パッキングの紐を解き、山行用のメインザックに船中で必要なものだけを詰める作業を完了する。その頃になると北の大地を目指すライダー諸氏が続々とFTに集結してきた。
 BM乗りのカップルライダーが2台仲良く俺のゼファーのすぐ後に停まる。ヘルメットを脱いで、髪をかき分ける仕草を見せたお姐さんは容姿端麗で、まるでモデルのよう。BMがよく似合っていた。彼氏?は渋い感じの年輩のオジサンなので、一瞬、いけない関係かと誤解したが、顔がよく似ている。どうやら父娘で北海道ツーリングを楽しむようだ。見ていて微笑ましいというか、少し羨ましい気分になる。俺も娘がひとり欲しかった。俺に似れば間違いなく女優になったことだろう?もう遅いか。

 あたりが暮れなずむ頃、オートバイが一斉にスロープから乗船開始となった。かなり混みあっているらしく地下のデッキまで誘導される。初めてのことだ。

 地下1階のデッキからザックを背負いエレベーターへ向かった。デッキの気温が高く、汗がどんどん噴出してくる。

 なんだかフェリーから下船するとき、このデッキの場所を忘れてゼファーまで辿りつけずに迷いそうな気がした。実は過去に逆側へ歩いてしまい難儀したことがある。

「バイク、どこに停めたのか、わからなくなっちゃうかも」
 モデルのお姐さんも同じことを考えていたようだ。

 俺は、エレベーターの横に”ここは地下1階Eデッキです”と船内地図も付記し、印刷された用紙が備え付けられているのを発見した。

『この紙を持参しているといいですよ』
 彼女に告げると、
「ありがとうございます」
 とてもエレガントな微笑を返してきた。

 エッ、エレガントって?

 欧米か!
 B寝台はうまく1階だったので安堵する。どうも2階が苦手なもので(過去に落ちた経験あり)

 太平洋へ沈みゆく夕陽を拝みながらビールを飲む。これから20日間で、どんな旅の軌跡を辿ることになるのだろう。せめてお天気だけには恵まれたい。けど日本海側では俺と並行しながら台風が北上しているらしい。また嵐を呼ぶ男になってんのかい。

”俺が動くと場面が変わる”
 いつの間にかベットで熟睡していた。

 目覚めてすぐ風呂に浸かりながら太平洋を眺めると天気はまずまずである。でも天気予報だとこれから道内は台風が接近して大荒れになると悪魔のようなことを囁いていた。

 朝食は、900円のバイキングにした。近年、食が細くなって、すっかりヨワっちいキタノなのだが、バイキングだとなぜか燃える。がんがん喰らって充分にもとはとった。

 やがて苫小牧へ・・・

 下船し、ゼファーへ莫大な荷物を完璧にパッキングを済ませ、暖機していると、
「あんた、どこに行くのさ」
 よく日焼けした警備員のオジサンが声をかけてきた。

 どこへと言われても非常に困るので、
『あちこちです』
 俺はやむなく答えた。

「とりあえず今日はどこに向かうの?」
 オジサンは吹き出していた。

 羊蹄山をまず攻略しようと考えていたので、ニセコ方面に向かう旨を伝えると、もしかしたら台風が通過するルートになるかもしれないから、気をつけていきなさいと忠告してくれた。

 初日からテンションがかなり下がりつつ、樽前国道をひた走る。空気は湿度が高く蒸し暑い感じがした。

 やがて支笏湖の蒼の湖面が見えてくるととても懐かしい気分になった。支笏国道を走っている頃、雲が多くなり、空が怪しくなる。

 苔の洞門の看板が見えたので休憩がてら少し寄ってみることにする。がらがらの駐車場に愛機を入れると
「バイクは段差の上にある二輪用の場所に停めて」
 係員がとんできた。

 なんか、ここで昔(1999年)、えらい不快なことがあったことを彷彿してしまう。

『特に観なくてもよいので、これで失礼』
 どうやら、苔の洞門は俺と相性がよくないらしい。そのままスロットルをあげスルーした。係員はポカンと口を開けたまんまだった気がする。

 美笛峠、広島峠を越える頃になるとポツポツと雨が降ってきた。なんてこった。初日からカッパを着るのかい。道端にマシンを停め、ぶつぶつと文句をタレながら着替える。

 雨の喜茂別、真狩を通過。本当に気が滅入る。セイコマで今夜のおかずと明日の山行用の食料を調達し、後方羊蹄山の登山口にある半月湖キャンプ場に入った。ガスで山頂はまったく見えない。

 まさに羊蹄山登山のベースのためだけにある野営場という感じで、余計なものはない。ただ、ガイドブックには無料と書いてあるにもかかわらず、利用料500円、ゴミ協力金400円、都合900円の出費となる。

『明日の羊蹄山のお天気は、どんなもんですかね』
 管理人のオジサンに訊いてみる。
「天気予報では台風の影響であんまりよくないと言ってますが、天気ばかりは明日にならないとわかりません」
 ニベもない回答である。
 小雨の中、さっさとテントを設営してしまおうとフレームを組み立てていると・・・

 ドーン!

 雷鳴が響き、稲妻一閃。まさにバケツをひっくり返したような豪雨に見舞われる。とにかく雷がピカピカ、そこいら中に落ちてるし。死んじゃうよ。
 設営を中断し、炊事棟へ避難する。近くにテントを立てているファミリーの皆さんも車中に逃げ込み、難を避けていた。

 初日から、こんな展開に遭うとは、いかに俺の普段の行動がご立派だということが証明されたようなものだ?

 雷鳴が収まり、設営作業を復活する。しかし、ここでまた重大な失敗に気づいた。前室と後室のフレームを繋ぐゴムのフックコードがない(恐)

 オー、マイ、ガアッ!

 EOC安達太良の時に落としてしまったのか?

 これで、もし台風に直撃されたら、テン泊で凌ぐ自信がない。俺は顔を真っ青にしながらフックコードなしの不安定なトレイルトリッパー2の設営を済ました。

 前室で飯を炊き、レトルトの親子丼をぶっかけて夕食を流し込んだが、もう気持ちがナーバスになってしまい味などわからなかった。

 テントに叩きつける雨音が、時折激しく響きわたる。俺はグランブルー(羅臼の深層水を使用しているという焼酎)をちびりちびりと飲みながら、不安な面持ちでラジオに耳を傾けていた。

”今後の台風の予想進路は、道内に上陸し、後志地方を通過する可能性が高くなってきました”

 ところで、後志(しりべし)地方ってどこ?

 まっ、まさか?

 マップを見ると、まさにここじゃねえかよ。俺は目眩がしてきた。

 グランブルーで紅く染まった俺の純粋かつ清らかな頬が、リトマス紙のように青ざめていく。



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