北海道ツーリング2006
沓形キャンプ場の夕陽
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よく寝た。 でも起き上がると全身に釘を打たれたような痛みが走る。酷い筋肉痛だ。 テント内の温度が急上昇しているらしく汗がしたたり落ちる。這いつくばりながらジッパーを開け外へ出ると、幾分霧がかっていた。しかし、日中の好天と高温は間違いないだろう。長年の野営の経験からの勘だ。 とりあえず洗濯をしたい。コインランドリーがあるのは?TMで調べるとあった。「沓形岬公園キャンプ場」だ。沓形港は確か礼文に向かうFTのある港だな。 よろよろとゼファーに跨り、海岸道路を走る。確かに気温は高いが、湿度はそれほどでもない。したがって体にあたる風がとても心地よかった。 |
ほどなく沓形公園キャンプ場到着。そして、くらくらするような陽光が瞼へ入る中、洗濯物を持って無人の管理棟?まで歩く。 しかし、このキャンプ場、全面芝で海に面している。なかなか素晴らしいシチュエーションではないか。 特に利尻山踏破を目指すワケじゃないのなら、北麗野営場より、絶対こっちの方がお薦めだ。 |
洗濯機へ衣類を放り込むと、ざっと1時間はかかるらしい。つまり閑なので仙法志御崎公園へと足を伸ばした。 TMには「アザラシいるよ」と書かれていたが、居るのは観光客のおっさんやおばさんの喧騒ばかり。 すぐに沓形公園へと引き返した。 しかし、この囲いの中の海でアザラシのように泳ぎたかった。 |
管理棟で洗濯機から乾燥機へ衣類を移動させていると、 「あっ、あの利尻山は登られました?」 若い奥さんから声をかけられた。 『ええ、昨日登って来ましたよ』 と応えると・・・ 「わたしたち夫婦も利尻山へ登りたくて毎年、島に来ているですが頂上付近の天候がイマイチで躊躇っていました」 やがて旦那が現れた。埼玉からいらしたとか。 「特に登山の装備も経験もないのですが、でも利尻山へ登りたいんです」 ご主人も呟く。 『俺も登山歴が2年程度の素人ですが、それなりの装備と経験は積んでいます。それでも今の俺としては、今回の山行は苦しくてやっとでした』 「そうなんですか。以前、札幌で、かなりのお年寄りが、Tシャツ姿で楽勝で頂上まで登っていたという噂を訊いたことがあったもので」 『本当なら多分、最高に気候条件がよく、ご老人も相当なベテランではないでしょうか』 と言うとご夫妻は少しがっかりしたく口調で、 「わたしたちが、甘かったようです」 と肩を落としていた。 安易に山に入り、なにか遭ってからでは遅い。一昨日も頂上手前でソロの女性が倒れていたそうだし。 まだまだ山慣れしていないが、俺の装備でお役に立てればと思いザックの中身を列挙した。 登山帽、ヘッドライト、シャツ・パンツ・靴下はすべて登山用(着替え含む)。サングラス。フリース。雨具(上下ゴア)。スパッツ。登山靴。水分は4リットル(最低2リットルが常識)。食料(2食分+携行食数食分)。山岳地図。ザックは30リットルぐらいの容量。渓流手袋。ツェルト(簡易テント)。ホイッスル。トランジスタラジオ。熊避け鈴・熊撃退スプレーは不要(島には熊が居ないので)。携帯電話etc・・・ 「そっ、そんなに???」 ご夫妻は仰天していた。 『俺はキャンプツーリングでも装備派なんで、大袈裟かもしれません。でも備えあって憂いなし。単独行ってこんなもんですよ』 と言うと、 「来年は、地元の山で訓練してから来ます」 とのこと。 若ければ体力と勢いで、ある程度のことはできるだろう。しかし、俺は山をなめたら大変なことになる可能性が高いと思う。山行経験は積めば積むだけ臨機応変に対処きると確信している。 |
昼食は、沓形港近くの「かもめ食堂」でとった。オーダーしたのは、ツボダイ定食だ。バフンウニもつくので、かなり割高になった。 もちろんバフンウニは美味しい。知らなかったことだが、バフンウニは身自体が甘いので、醤油なしでもウニ本来の味を堪能できるそうだ。 満腹で店の外へ出る。そして、カンカン照りの中、ゼファーに跨り、北麗野営場へ戻った。 |
北麗野営場で、テントを撤収。 沓形公園キャンプ場がとても気に入り、今日は移動するつもりだ。出がけに管理人夫妻に馬上から礼を告げ、ふたたび沓形へ戻った。 駐車場から近い位置にテントを設営し、利尻ふれあい温泉へ向かう。2005年に町営「ホテル利尻」にできた日帰り可能な大浴場である。 どうやら源泉は透明のようだが、空気にふれると酸化して茶色になる温泉らしい。露天風呂でまったりとくつろぎ疲れをとった。立ち上がると日本海の大海原が眺望できて、とても満足した。 |
サービスのよく冷えた麗峰湧水を頂戴したが、本当に乾いた体に心地よい美味しいお水だった。 休憩室で横になる。するとまた寝てしまった。本当に俺は旅の中では、どこででも寝れる体質らしい。 TVでは高校野球が放映されていた。早実対○○。早実の対戦相手は失念? |
いかん。夕陽が沈んじまう。ほとんど夕陽フェチと化している俺は慌ててキャンプ場へ戻った。 展望台?はログハウス風の造りになっていた。しかし、内部には旅人風の女の子が陣取っている。どうやら、ここで寝るらしい。 勝手だが、犯罪に巻き込まれたら、どうするのだろうか?装備のない山行はもちろんだが、装備のない野宿ってどんなものか? |
建物の内部に入るのは止めにして、外から日本海へ沈む夕陽を撮影した。少し、雲が多いが、まずまず綺麗な夕焼けである。 テントに戻り、モヤシとジンギスカンを炒め、酒を飲みながら夕食とした。 がらがらのサイトなのに、なぜか俺のテントの周りばかりへ、皆、幕営していた。息苦しいじゃねえか。 俺は早々とテントに入り、横になった。 そして、後ろのテントのおっさんのコーヒーをゲーっと吐き出す音が耳元で聴こえ、後刻目覚める。 |
翌朝、早い時間に起きたが、やはり気温がどんどん上昇してくる。てきぱきとテントを撤収し、久々に島内一周へと向かった。 少し雲が多く気温が高い、天候は概ね良好で湿度が低い。とても心地よくゼファーのスロットルをまわした。 海風をいっぱいに浴び、オタトマリ沼着。観光バスも入っているが、本当に癒される雰囲気が漂っていた。 |
売店では、創業40周年ということで「雪わりソフト」が120円引きで、180円で販売されていたので、躊躇わず購入。 ミルクの味が濃くて、なかなか美味しかった。 暑くて歩くのがシンドイので遊歩道はパス。静かにスロットルをまわした。 実に穏やかな気分になりながら、流れゆく景色を楽しんだ。 |
野塚PAでも小休止。 フェリーが稚内へ向け、ゆっくりと海上を進んでいた。きっと朝一番の便だろう。間もなく俺も第2便で利尻島を去らねばならない。 なんだか今回は、とても感慨深い利尻入りだった。 海上の空は、どこまでも蒼一色に染まっている。 |
逆に利尻山の方角は墨を落としたように黒い雲に覆われていた。 それでも今日も多くの登山者が頂上を目指し、四苦八苦していることだろう。 山の方から風が吹いてきた。以前、勝手にこの風を「島風」と名づけ、これを題名に私小説を描いたことがあった。 今、まさに島風が吹き降ろしている。 |
最後に姫沼へ立ち寄ってから、鴛泊港FT到着。実に7年ぶりに利尻島一周を果たした。 フェリーに乗り込み埠頭を見ると 「行ってらっしゃい・・・」 YHの見送りだろう。ホステラーが、いつまでも手を振っていた。 利尻山はすっぽりと雲に覆われていた。YHの連中みたいにさわやかに送ってくれないのかい? |
また利尻に帰って来いって拗ねているのか? 利尻山を踏破した俺は、最早、島を訪れる大義名分を完全に失った。 そんな俺でも、また利尻に帰って来てもいいのか?4度目でもありかい? 胸に熱いものが、次々にこみ上げてくる。 「行ってらっしゃい・・・」 背後から聞き覚えのある声がした。 まっ、まさか・・・・・ 振り返ると誰も居ない。 ふっ(笑)、気のせいだったか? フェリーは白い波の軌跡を残しながら、どんどん沖へと向かっていく。 山高くして 夢があり 山高くして 歌がある ここ最果ての 利尻よ礼文 君をたずねて 姫沼悲し 我ら島を愛して 旅を行く (島を愛すより) |