北海道ツーリング2006
足寄付近にて
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熱い。いや暑い。 「キタノさん、かなり酒臭いですよ」 ラッシャーが呟く。 この暑さと二日酔いで俺は完全に戦意喪失。 『俺は連泊にするわ』 別にあくせくと急ぐ旅ではない。 「その方がいいですね」 『ところで、この暑さだ。川で泳いで涼むっていうのはどうだい?』 「あっ、いいスねえ」 ラッシャーが、2つ返事で同意。 キャンプ場横の沙流川へ、てくてくと歩いた。 |
川の流れに身をまかせるラッシャー |
そして、さっそくドボーン! 「キタノさん、冷たくて気持ちいいス」 ラッシャーが大喜びで叫んでいた。 俺も海パンに着替え、沙流川に飛び込んだ。 実に心地いい。あまりの心地よさに川から出るのが嫌になり、かなり長時間水没してふにゃふにゃになる。 |
午後、そろそろ苫小牧港FTへ向かわねばならないラッシャーは、パッキングを済ませていた。 「10月のEOC、日程が合ったら、まつと一緒に参戦しますね」 にっこりと微笑みながら、過積載のカブ90のスロットルをあげた。 『ああ、またな』 俺は手をあげて見送った。 |
大学生の頃のラッシャーは、別れが辛くて半ベソをかいていたもんだが、時が過ぎ、すっかり成長した彼は以前のように振り返ることなく真っ直ぐと日高国道を下っていった。 彼女もできたことだし、メデタシ、メデタシ。 その後の俺は、夕方まで木陰にエアマットを敷き爆睡・・・ 薄暗くなる頃、どうにも蚊が煩くて起き出した。 セイコマで今夜の酒と食材を仕入れ、キャンプサイトに戻るべくゼファーを走らせたが、風がヌルイんですけど。熱帯夜の予感。 夕食に野菜炒めを作ったがマズイ。でも我慢して完食。酒は羅臼の海洋深層水を使用した焼酎「グランブルー」をチビリチビリとなめるように飲んだ。そういえば、この酒、もともとはラッシャーのお薦めだったな。 そんなことを考えているとほどよく酔いがまわってきた。そろそろ寝るか。ところがテントに入るとサウナ状態。蒸し餃子になりそう。来年はカヤライズを持参しないとやってられないなあ。 そして、いつの間にか眠りに落ちていた。 翌朝、早い時間に起床。 朝から、グランブルー・・・もとい!グラグラに暑い。この暑さ、本当にやる気がなくなるなあ。モンクをいいながら、登山用のフカヒレ雑炊をかきこみ、撤収作業開始。あー面倒くさい。 目眩しそうになりながらもパッキングを済ませ、日勝峠へ。 日勝峠の標高なら、気温が低くなるだろうと思っていたら、陽が高くなるにつれ、逆にどんどん暑くなってくるじゃないか。耐えられない。 そして、十勝平野はさらに灼熱地獄だ。肩から登山用のボトルケースを吊り下げ、信号待ちのたんびに水分補給。なんだか山行と変わんねえな。 熱風の士幌、酷暑の上士幌と抜け、道の駅「足寄湖」のレストハウスで、カレーライスを食べるが味は可もなく不可もなく。ただ相変わらずソフトクリームの味は濃厚で絶妙だった。 ヘロヘロになりながら足寄国道を爆走。阿寒湖を抜け、阿寒湖横断道路を突破し、ようやく弟子屈へ辿り着いた。 あと少しで、和琴湖畔キャンプ場だ。和琴なら、きっと涼しいだろう。 しかし、そんな予感は、やっぱり甘かった。ミンミン蝉の大合唱。うだるような暑さだ。 マシンを停め、這いつくばるように売店へ向かう。やっぱり、ここは人気のサイトだ。まだ早い時間なのに結構テントが立っていた。 管理人のおじさんが俺の顔を見るなり、 「自衛隊さん、あんたインターネットで、ここのこと書いてないかい?」 開口一番訊いてきた。 『はあ、ホームページを持ってますので』 「やっぱり・・・」 妙に得心したような顔で呟いた。 「あんたのホームページを見てきたというライダーが増えちゃってねえ」 『決して悪くは書いてませんが、ご迷惑でしたか』 おじさんは、いやあと首を振り、それっきり黙ってしまった。 嬉しさ半分、困った半分だな、こりゃ。 裏磐梯のママキャンプ場のオーナー夫妻も同じような話をしていた。 インターネットをやらない人が知らないところで、自分のこと(この場合キャンプ場)をあれこれ書かれると不安になるようだ。もちろん悪意がなくても。 これをご覧の方は、できればインターネットで永久ライダーHPを見て来ましたとかオーナーへおっしゃるのは、自粛されるとありがたい。一番喜ぶのは、「福島の自衛隊さんから訊きました」というシンプルな言い方なのだ(ちなみに俺の職業は自衛官ではない) さて、テントを張るかとサイトを物色していると 「ここにテントを張ってもいいの」 やけに気安げに訊く若いライダーがいた。 『俺に訊いているのか』 なんだか態度がでかいなあ。 『ああ、いいんだよ』 と答えても礼はない。まあ、いいか。 俺のテントの手前に立てているライダーは、 「こんにちは」 いかにも旅慣れた笑顔の感じのいいライダーである。 「どちらからですか」 『はあ、沙流川からです』 「遠いところ、お疲れ様です。今、炭を熾してますので、一緒に食事しながら酒を飲みましょう」 『ありがとうございます』 俺は和琴のこういう展開が昔から好きだった。 |
さっとテントを立てて、いろいろ片付けを済まし、酒と食料を持参して、炭焼きの彼のところへお邪魔する。 すると・・・ 「どうも、ぼくは北海道初めての名古屋のライダーだよう。初心者なもんでヨロシク」 さっきの言葉遣いのできない若い?がっちりしたライダーも現れた。 |
ゲッ・・・ ブチキレちまったら、どうしよう。 良識派のベテランライダー(神奈川から)が、次々にいろいろんなモノを炙ってくれるが、俺は腹が一杯であまり食べれず失礼しました。 そして、酒で酩酊した頃、旅で遭った怖い話(怪談ではなく)をすると・・・ 初心者ライダーが急に敬語になった。他のライダーにそれを指摘されると 「だって、おっかない方だったら、ヤバイじゃないですか」 おいおい、そんなにいきがっていたのか。 おもしろい男である。 さらに初心者ライダーはススキノの風俗でぼったくられた話をしながら怒っていた。 「おいおい、風俗なんかに行ったのか?」 と突っ込まれると 「だっ、だって初心者ですから」 『・・・・・・・・・・』 初心者云々ではなく、買春行為って普通にダメでしょ? どこかの悪所で、北海道ツーリングではあたり前みたいな情報でもキャッチしちゃったのか? まあ、人の勝手だが、俺も旅仲間の諸氏も北海道ツーリング初心者の頃から風俗へなど出入りしたことがない。それが現実だと思うし、そんなお金があるならキャンプ道具を揃えるね。 |
「ショシンシャですから」 男のかん高い声が、俺の酔いを急速に助長させ、気分が悪くなってきた。 俺は、静かに自分のテントへ戻りシュラフを腹にかけた。 灯油ランタンの灯が静かにゆれている。 |