北海道ツーリング2005前編











 ゆっくりシュラフから這い出し、仰向けの状態でテントから半身を出した。

 知床上空は一片の雲もない快晴、まさにブルースカイ。これは当分、晴れが続くだろう。知床岬踏破の成否の鍵はやはり天候だ。昨夜までの悪天候がまるで嘘のように回復していた。明日は絶好のコンディションで出撃となるだろう。
 クッカーで飯を炊いた。おかずはまたもレトルトの親子丼だ。とにかくスタミナをつけとかないと。朝からもりもりと食べた。気温も急激に上昇していく。額からは滝のように汗がしたたり落ちた。

 食後、洗い場で食器を洗い、洗面も済ませた。朝から日差しが非常に目に沁みた。テントサイトへ戻り、テントはもちろんシュラフなども徹底的に乾かした。
 いつもの通り、マットの上で2度寝をする。体力も充分に温存して置かなければ。

 その後、丁寧にパッキングを開始する。シュラフを丸め、カバーに入れ、テーブルも分解し、袋に収める。そして2つのテントの撤収。最早、汗まみれとなりながら完璧にマシンへ積み込んだ。それが、このページ冒頭の画像だが恐るべき過積載となってしまった。

 荷物が重過ぎて、スタンドを立てた状態から、真っ直ぐに走行できるスタイルへなかなか腕力だけで引き起こすのが難しい。これでタチゴケしたら絶対に一人では起こせないないだろう。毎年、確実に荷物の量が増え続けている。

 管理人さんにお世話になりましたと挨拶を済ませ、ヨロヨロとゼファーは動き出した。まだ人通りのないウトロの街並みを過ぎ、知床横断道路に入った。交通量も少ない。ワイディングを楽しみたいが、あまりにも荷物が重過ぎてフルバンクするのが、とても怖かった。

 ウトロ側のセイコマへ到着。これより先に売店はない。岬踏破に必要なものをここで買い揃える。レトルト食品、行動食となるべき副食物、スポーツドリンク、酒、煙草等々。

 羅臼側の半島に沿う道を相泊へ向けてマシンを走らせた。羅臼の海はとても穏やかだった。昆布を採る漁船が沖を行きかう。そしてセセキ温泉、相泊温泉を過ぎ、食堂「熊の穴」へ到着。なぜかもの凄く混み合っていて、マシンを停めるスペースもないくらいだった。

 食堂「熊の穴」へ入る。たくさんのお客さんが居たが、座敷のテーブル席が空いたのでそこへ座った。オーダーしたのは名物「トド焼き定食」だ。
 トド焼き定食を待っていると札幌のAOさん登場。いや〜お久しぶり。今回は岬へつき合っていただきありがとうございます。

「なんか頼んだ?」
『ええ、トド焼き定食を頼みました』
「俺はラーメンでいいかな」
 知床岬第一次隊員のAOさんは、もう熊の穴のおやじさんとかなりツーカーらしく、冗談も交わし合っていた。
 トド焼きをおばさんが、運んできた。

 鉄板に乗ったトド肉はジュージューいいながら、かなり美味そうだったが、そのままではナマ臭いというかクセが強過ぎる。特製のタレをからませるとかなりいける味だ。俺は生ビールを飲みながら、それなりに美味しくいただいた。AOさんが食べていたラーメンも美味そうだった。

 熊の穴にはライダーハウス(以後RH)があり、今夜と踏破後に宿泊する予定だが・・・

 うちのサイトを以前からご覧の方はご存知の通り、思うところあって現在はRH利用は自粛している。でも今回は特例としてお世話になるしかない。

 RHへAOさんと荷物をどんどん運び込んだ。また他のお客さんがくると迷惑になるので、明日からの準備を早めに済ませて置いた。とにかく細かく、忘れ物のないように持参物を入念にチェックしながらメインザックへ詰め込んでいく。

 うっ、この作業をしていると流石に明日からの知床岬踏破へ向けて緊張感が高ぶってくるのだが。

 知床岬踏破の準備が終了した頃、チャリダーが現れた。大学を出たばかりだが、仕事を辞めて北海道を旅しているそうだ。
 AOさんとチャリダー、そして俺の3人で食堂「熊の穴」へ夕食をとりにいった。

 俺はマス定食にしたが、とても美味しかった。今シーズン獲れたてらしい。小鉢には「イクラ」もついていて、かなり満足した。

 AOさんが帰りの船の交渉をおやっさんとしている。7日15時に成田さんち(昨年はここ)の隣の小倉さんの番屋でということで成立した。
「でも忘れたらゴメンナ」
 おいおいオヤジ、それだけは勘弁してくれ。所詮、知床岬踏破者への迎えは、釣り客を回収したついでのことなのではあるが、ついででも帰路はあんただけが頼りなんだよ。
「いや〜、最近ボケて来て、忘れることが多いんだよ」
 どこまでが冗談で、そして天然なんだか?俺には判別がつかん。ただ、おやっさんに忘れられてしまい帰りが1泊順延してしまったパーティも本当にあったらしい。

 AOさんがペキンノ鼻の質問をした。
「あそこは遠巻きに迂回するか正規のルートを辿るしかないのかい?」
 去年も第一次隊が山中で4時間も悪戦苦戦したポイントだ。

「なんも、海面すれすれの岩をへつれ(岩にぶら下がりながらトラバースしろ)。大丈夫、へつっていけるよ」
 まったく、熊の穴のおっさんの情報は当てにならん。翌々日、痛い目に遭うことになるとは、この時は知るよしもない。

 ここのオヤジは女にだけ甘いとか、単独入山者へは烈火のごとく怒るとか酷評する人も多いそうだが、俺自身の感想としては、羅臼の漁師らしく、朴訥で人のいいオヤジだ。もともと知床岬までの単独縦走は、あまりにも危険過ぎるため、禁止されている。つまり怒られてあたりまえなのだ。

 RHへ戻った。

 AOさんは朝が弱いので、4時半へ起こしてもらいたいと言っている。
『大丈夫、俺は朝が強いんで起こしますよ』
 
 俺は自信たっぷりに答えるが・・・

 でもその後にやって来た関西系のライダーと北野は、すっかり意気投合してしまい、12時過ぎまで酒宴を続けてしまうのであった。

 4時半に起きれるはずもなし・・・

 明日はいよいよ人跡未踏のシリエトクを目指す。

 大丈夫かよ???

 チャリダーくんやAOさんは、北野のヨッパライダーぶりにかなり呆れていたようだ。

 そして、いつの間にか俺は平和そうな寝息を立てながら爆睡していたそうな(笑) 

 知床岬突入まで、あと数時間!

 やっぱり俺には緊張感がなさ過ぎるようだ。



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