北海道ツーリング2005前編




MAP:コマンダーさん提供



入林届を出す



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熊の穴前にて
 やっぱり寝坊した。もうみんな起きてるし。チャリダーくんは呆れながら既に出発してしまったそうだ。

 とにかく、いよいよ知床岬へ向け出撃だ。俺は二日酔いで頭が痛い、というより、まだ酔っていて気持ちよくくらくらまわってるんですけど。

 入林届けを書いてと。重い荷物を背負ってふらふらと歩き出した。
 暫くすると北の国から’02に登場する純の番屋へ到着。実際に人が住んでいるので、あまり画像をバチバチ撮るのは控えた。ここまで、見送りに着てくれた関西のライダー氏と別れた。またどこかで飲もう。

 純の番屋を過ぎると次第に歩きづらくなってくる。気温も少しずつ上昇し、汗が噴出してきた。スポーツドリンクも既にゴクゴクと飲み始めているし。
 そして、いきなりこんな場面に遭遇する。熊に襲われた鹿の骨と皮。以後、岬まで20体近い鹿の死骸を目撃する。もちろん崖から滑落死したのも含めてだが。

 知床岬までは遊歩道や木道が整備されて、そこを歩いてさえ行けば辿り着くというお考えの方もいらっしゃるようだが、一切道はない。延々と続くゴロタとあちこちに点在するデンジャー・ゾーンをクリアし続けなければ到達できない。ちょうどTV番組の筋肉番付に似ていると思う。
 1回目の休憩で朝食をとった。AOさんはレトルトのお粥を温めず、そのまま食べていた。俺は昨夜、熊の穴のおばさんがつくってくれたおにぎり2個を頬張る。

 少し休んで再び前進。ゴロタがだんだん大きくなってきてさらに歩きにくい。しかし、この程度のことは後々の艱難辛苦に比べれば、ほんの序曲に過ぎない。とにかくただただ歩いた。

 天気が薄曇だから、気温の上昇は停滞し、助かった。
 相泊から約2時間、観音岩到着。山側の切れ込みからザイルが1本垂れている。

 こんなとこ登るの?

 嫌です!

 俺は海側の方を確認したが、やっぱり岩の後ろへ行くにはこのザイルをよじ登るしか方法がないようだ。

「どうします。先に行きますか?」
 AOさんが言ってくれたので、お先に失礼!怖いものは、なるべく早めに終わらせて置きたい。どうせ登らないといけないんだから。

 とにかく片手はザイルを持ち、もう片手で岩を掴んで両足をしっかりと固定させながら上に向かって登る。

 俺は、この3ヶ月、山行を徹底的に繰り返して、ある程度山のバデイに改造しているが、岩登りの訓練だけはしていない。せめて重いメインザックがなければ楽勝なんだが。

 両手両足4本、フル稼働させている。つまり俺は今、四輪駆動状態だ。
 なんとか登りきる。これで岬踏破!だったらいいなあ。

 下りもザイルが固定されていたが比較的楽に降下した。そしてウナキベツ川を渡る橋は1本橋、滑りそうなんで慎重に渡った。

 しかし、鬱蒼とした森だ。熊ちゃんが出てもおかしくない雰囲気が漂っている。葉を掻き分けるように先へ先へと進む。早く海岸に出たい。
 途中、センサーを発見。「入下山者計測中」と書かれている。これをやって、そんなにメリットもないような気がするが。だって動物にも反応してしまうだろう。「人間プラス動物たちを計測中」なら、まだ話は解かるが?

 丈の高い植物を掻き分け暫く歩き、ようやく海岸へ出た。ずっと向こうに番屋が見える。なにも考えず、そのまま海岸を歩き続けた。

 相変わらず歩きにくいゴロタの連続だ。
 ふと気づいた。AOさんは?荷物を置いて、観音岩手前まで引き返した。すると森の中にAOさんの姿が・・・

 AOさんは俺の姿が見えないので遭難したと思い、観音岩頂上付近から海岸まで2往復もして疲労困憊の様子だ。
「北野さん、単独行動じゃないんだから要所要所で待ってないとだめだよ」
 かなりご立腹の様子。無理もない。
『すいません。ボーっとして歩いていたら先に進んでしまいました』
 山では、いつも単独行なんで、その癖が抜けないようだ。

 しかし、大地の突端シリエトク(知床岬)への道のりは長過ぎる。たった今始まったばかり。

 果たして生きて還れるのだろうか?



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