北海道ツーリング2005前編




国設知床野営場







 目覚めると同時に外へ出た。もしかしたら有名なワイングラス型の朝陽が拝めるかも知れない。時には四角にも六角にもなるらしい。

 しかし、曇りなのでこんな状況に。よく考えたらワイングラスの太陽は冬の海面と上空の温度差による現象で起こるものだから見えるワケもないのだが、つい奇跡を期待してしまった。

 大自然はそんなに甘いものではない。
 クッカーで飯を炊く。北野の辞書には飯炊きで失敗という文字ない。おかずは、そろそろ知床岬踏破に備えレトルトに慣れとかないと。

 本当は手抜き・・・

 けどレトルトでも中華丼って実に美味しい。あっという間に平らげてしまう。

 そして食後の二度寝(ほとんど習性になっている)
 ふと目覚めると10時ぐらいになっていた。寝過ごしたか。テント2張りをたたんでパッキングを済ませた。そしてちょっぴりずつ入れた分別のビニール袋を抱えてゴミ箱に運んだ。既に捨てられていたゴミは袋を使用せず、そのまま捨てているものばかりだ。真面目にビニール袋へ分別しているのは俺だけか?

 なんだかなあ。行政は分別回収を声高らかにうたっているが、利用者の意識は低過ぎる。ゴミを持ち帰りたくても積荷にキャパシティがなく持ち帰れずに悩んでいるキャンプライダーのひとりとして非常に矛盾を感じた次第。もっと違うやり方が絶対にあると思うが。まあ、百円払ってゴミを処分できたんだからいいけど。

 やりきれない思いを胸に尾岱沼青少年キャンプ村を後にする。

 空は薄日が差しているが油断はできない。気分転換に温泉でも行くか。
 久々に野付温泉浜の湯を訪ねた。ちょうど開いたばかりで、一番風呂に入ることができた。ここはいつ来てもいい湯だ。泉質の違う2種類の源泉がとても効能が高いそうだ。

 内湯の他に露天風呂もあり、熱めと温め、2つの湯船を楽しめる。俺は交互に入り、非常にまったりとした。

 浜の湯を出るとふにゃふにゃになるほど茹であがり、また眠たくなる。
 ポカポカしながらゼファーのアクセルを握り、標津の市街地へ出た。ふと郷土料理「武田」の看板が眼に入る。どこかで聞いたことがあるぞ。確かいくら丼が美味しいんだっけ。ちょうど昼時だ。店に入ろう。

 もちろんいくら丼をオーダーした。カウンターに座ったが先客のライダーがひとり居るだけだった。

 出てきたいくら丼、こいつは美味い。さすがシャケバイの街、標津のいくらだ。ほとんど一気喰い。
 先客のライダーさんが、食事を食べ終わり店を出ていく。俺もそろそろ行くかと思っていると今出たばかりのライダーが、また戻ってきた。リターンマッチですかと思っていると、
「北野さんですよね。覚えてますか?NOBUです」
 と声をかけてきた。

『NOBUさんって、4年前に和琴で出会った、あのNOBUさん?もちろん覚えてますよ』
 あの時は、無理を言って道北に向かうところをニセコオフに参加してもらった。当時「CAMP&RIDE」というサイトを管理していて、現地レポートしていた方。いや〜お懐かしい。なんとも奇遇。4年も過ぎるとお顔も忘れてしまった。NOBUさんは俺のゼファーの永久ライダーステッカーで気がついたようだ。

 彼は今、和琴に連泊しながら道東を周っているそうだ。8月の第4週まで北海道に滞在するとのこと。

 俺は知床岬踏破を狙っていて、踏破後は14日に美流渡温泉錦園のキャンプサイトでオフキャンプを決行するので、もしよかったらどうぞと誘った。まあ、とりあえず日程が合えばということで別れた。

 尚、彼は現在「キャンプ旅へ行こうよ」というサイトを運営されており、今も永久ライダーサイトと相互リンクも継続中である。キャンプツーリング関係なら非常に参考になるというか実用的なサイトなので、興味のある方は是非ご覧いただきたい。

 曇天の中、標津の街のなかを走った。標津、そうだ、この町のJA、つまりホクレンのオリジナルフラグをなおさんが欲しがっていたっけ。これさえ彼女に献上すれば上富から知床まで日帰りツーリングしようだなんて無謀なことを言わなくなるだろう。

 とにかくホクレンを探せ。ところが海沿いの国後街道にはホクレンがない。あれよという間に羅臼に突入してしまう。まあ、旅は長い。そのうちまたゲットする機会もあるだろう。

 羅臼に入ると霧雨が降っていた。気温も劇的に下がり寒い。俺はモンベルの雨具を出してジャンバーの上から、そのまま羽織った。岬の偵察に羅臼でキャンプしようかと思ったが止めた。意外と知床峠を越え、ウトロに出ると気候がまったく違うことが結構ある。ウトロに出よう。

 知床峠では強い雨。視界が遮られるほどだ。知床峠パーキングで一服しようとするもライターが湿って火がつかん。泣く泣く、すぐにウトロ側に降りる。

 ところが、次第に晴れ間が広がり、知床自然センターあたりは快晴。気温も羅臼の倍はあるだろう。すぐに雨具を脱いだどころか、ジャンパーも脱ぎTシャツで走行する。それでも暑い。
 大汗をかきながら、国設知床野営場へ入った。何年ぶりだろう。ずいぶん久しぶりだ。ここは昔ながらの静かなキャンプ場だ。

 似合わない恋愛小説「真夏の夜の夢」の舞台にもなっている。自分では恥ずかしいと思う内容なんだが、うちのサイトを知る旅人さんから声をかけられると、
「永久ライダーって、あの真夏の夜の夢の」
 意外な展開に思わず赤面する場面も多々ありき。
 受付で
「ここのキャンプ場は初めてかい?」
 管理人のおじさんに訊かれる。
『ずいぶん前に利用しました』
 俺が言うと
「温泉については知ってるよね」
『ええ、夕陽台の湯のことですね』

「じゃあ大丈夫だね。好きなところにテントを張ってね」
 温厚なおじさんだった。

 テントを昨日同様、2張り立てて、セイコマへ買出しにいく。酒とお惣菜、明日の朝食のおかずなどを調達してキャンプ場に戻るとどっぷりと陽が落ちてきた。

 ささやかな夕食の後、ウイスキーを飲み、したたかに酔いがまわる。いつの間にか雨が降っていた。今のところ浸水はない。ラジオからは陽水の曲「決められたリズム」流れていた。

 映画「たそがれ清兵衛」のテーマだ。

 幕末、東北の名もない小藩のさらに名もない平侍の話だ。下城の太鼓が鳴るとつき合いは断ってすぐに帰宅し、内職と家事に励む日々。そんな清兵衛を同僚たちは「たそがれ清兵衛」と影で呼んでいた。早くに妻を亡くし、貧しいながらも幼い子供たちと幸せに暮らしていた。

 藩の上意で腕の立つ乱臣に立ち向かい、きっちり仕事はこなす。戊辰戦争では幕府方に味方した藩の方針に従い、ついに戦死してしまう。

 淡々と普通に家庭を守り誠実に生きた男(俺も日常では、冴えない宮仕えだし)。そんなストーリーを見て思わず自身に感情移入してしまい涙したことがあった。

 しっとりとした陽水の哀しい曲を聴きながら、いつの間にか眠りに落ちてしまう。

 国設知床野営場、物音ひとつ聴こえない星降るキャンプ場だが、深夜にうなされて何度も目を覚ました。

 知床岬突入まで、あと3日・・・ 



 キタノさん、あなたはサラリーマンライダーの希望です。

 多くの社会人は仕事や家庭に束縛されてしまい、あなたのように自由奔放な旅をする機会を失っています。

 私も毎年のように長い北海道ツーリングがしてみたい。

 あなたの旅が羨ましくてなりません。

 あなたの旅行記をわくわくしながら読むことによって、いつも自分の心を慰めています。

 だから、旅を継続してください。

 あなたの旅の話しをもっとお聞かせください。

 この夏は、道なき道を辿って”知床岬”へ徒歩でチャレンジされるそうですね。

 岬へ向かう臨場感たっぷりの記事が拝見できることを今から楽しみにしています。

 困難な道のりかと察しますが、あなたなら、きっと実現できると信じています。

 どうか、くれぐれもご無事で。


               −同世代のとある読者より−



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