北海道ツーリング2005前編
大函トンネル付近
3
上富良野のかんのファームあたりまでは晴天だった。しかし、美瑛から旭岳方面に向かう頃になるとどんよりとした雲が空を覆うようになる。 実は旭岳の麓のキャンプ場にテントを張り、明日には山頂を踏破するつもりだったが、これは確実に雨になる。北の長い旅で何度かこんな大気のコロン(微粒子)を嗅いだことがある。 なぜか旭岳を目指すとやってくるコロンだ。 |
俺に今回も旭岳を断念しろ。ただ知床岬踏破だけに専念しろということか。最近の登山の連続で無理だと思ったらきっぱり諦めるという方針をとるようになっている。結局、旭岳登山は悪天候のため断念(これで正解、以後当分雨が続く)。 忠別を少し過ぎたあたりで旭岳へは向かわず天人峡方面に右折した。泣き出しそうな空の下、山中を走り天人峡へ到着。大きな温泉旅館が何件か軒を並べていたが一番奥の旅館のパーキングにマシンを停めさせてもらった。 そして散策路を暫く歩くと羽衣の滝が見えた。高さ270メートルから大きな岩を7段も乗り越え流れ落ちる滝は、まさに天女の羽衣だ。白い筋の清冽な流れは羽衣が優雅に舞い踊るように見える。 名瀑を堪能し、馬首を翻した。当麻町の外れの無名の田舎道を一騎黙然と奔る。この山野の光景をもう二度と走ることもあるまい。そしてR39に入った。 |
上川町を走る頃、空腹感を感じてきた。昼食にするか。実はこのあたりで気になる店があった。それは「日本一うまいラーメン」の看板だ。 果たして本当に美味いものなのか。今日は自ら試してみよう。店というかドライブインの駐車場へマシンを停めた。中は土曜ということもあり、家族連れで混み合っている。そのせいか従業員の応対もとても雑な印象があったが、躊躇わず、その日本一のラーメンをオーダーする。 |
そして運ばれてきたラーメンを一口すする・・・ 旭川系だ。油膜が張ってあり、脂濃い感じだ。魚系のダシで甘味も効いている。決して嫌いな味じゃない。むしろ美味しいだろう。 しかし、日本一とは言えまい。ラーメンは一定レベルを超えると個人の好みの問題となる。その一定レベルまでは達してはいないのだ。美味いがリピーターになるほどの味ではないと俺は思った。 |
あくまで俺の主観なんで、食べたことのある方の意見を拝聴したいところだ。 層雲峡付近に向けてスロットルをあげた。空はいよいよ泣き出しそうな模様となり、少し肌寒さを感じるようになった。怯まず石狩川に沿うR39を駆け抜ける。 |
層雲峡手前の大函トンネルパーキングに入り小休止。層雲峡パーキングだと観光バスがどんどん入って落ち着かないのでここにした。 明治時代、囚人の手によって掘られたという大函トンネルは鎖が張られており、中へ入ることができない。橋の下の渓流では釣りをしている人がいたが、あまり釣果はあがらないらしい。なんて思っていると雨がポツポツと落ちてくる。 |
これは急がないと。慌ててマシンに跨り、アクセルを捻った。 大雪湖手前から三国峠に入る。せっかく眺望のよい峠道も霧で真っ白でなにも見えん。かなりがっかりしながら走り、三国峠Pで休むことにした。 TMを売店横でながめていると広い駐車場のなか、わざわざゼファーの横にマシンをつけたライダーが俺の方へ歩いてきた。 「こんにちは」 30ぐらいの男だ。 『こんちは』 俺も挨拶を返したが、すぐTMに目を戻した。 特に排他的になっているワケではないが、俺はただ黙っているともの凄い威圧感を周囲に放つらしい。そのライダーは、とうとう俺に話しかけることを諦め、後からやってきた若いライダーに声をかけていた。しかし、その内容が「俺はここにも行った。そこにも行った」の自慢話ばかり。相手にならなくてよかった。 糠平湖を抜け、上士幌の市街地に入る頃になるといよいよ雨は本降りとなってきた。早く航空公園キャンプ場に入らないと。セイコマで酒と食料を買い、キャンプ場のおおよそ場所をレジのおねえさんから訊いた。 航空公園キャンプ場は手前がパークゴルフ場になっており、初めはそっちに迷いこむ。広大なエリアに誰も居ないのでおかしいと思い、その先に進むとキャンプ場があった。でもやっぱり広大なサイトにテントがひとつも張られていない。まあ、いいけど。 駐車場にあった小屋の受付名簿に氏名・住所などを記帳し、水場に近い場所に急いで幕営したが、また雨脚が強くなってきた。 その頃、ようやくバイクが一台入ってきた。そしてわざわざ俺のテントの近くまでやってきて 「雨だけど俺、テント張っちゃうんだ」 と叫んでいた。 三国峠でさっき会ったヤツだ。これだけ広いサイトでまさか隣に張らせてくれとは言わないだろうな。俺は正直、こういう謙虚さのないヤツが苦手なんだ。つうか殴るかもしれない。 オーラが伝わったのか少し離れた場所で設営を始めていた。ぶつぶつと独り言を言いながら。かなり気持ちワリイ。近づいたら北斗神拳で撃退する。 |
米を炊きたかったが、天候が悪いし面倒なので調理パンとハンバーガーをかじった。 ラジオで天気予報を聴くと当分雨が続くらしい。気が滅入ってきた。斜里岳踏破も目指していたのだが、これも無理か。 ぼやいても仕方がない。マグカップに焼酎を注いでチビリチビリとなめるように飲む。しかし孤独だ。 |
やがて酔いがまわりテントにあたる雨音が心地よく感じてくる。明日はどうしよう。この悪天候じゃ、温泉つきの和琴キャンプ場まで行って態勢を整えるしかないか。 そんなことを考えながら、いつの間にか眠りに落ちていた。 |
翌朝は4時には目覚めてしまった。雨はあがっている。やることもないのでクッカーで久々に米を炊いた。俺のクッカー炊きの腕はまったく衰えていない。焦げ目もなくパーフェクトの炊き上がりに満足する。 しかし、サンマの蒲焼の缶詰を上からぶっかけて、食べるとせっかくの美味しい米が不味くなる。かなり失敗。以前は平気で缶詰丼を食べていたのだが、今朝は異様な味だ。まあ我慢して完食。 |
食後に一眠りして、目覚めのコーヒーを飲んでいると、あ、雨だ。なんてこった。慌ててテントをたたみパッキングを済ませる。 上士幌航空公園キャンプ場。芝の広大なサイト、トイレは水洗できれいだ。なにより無料が嬉しい。ゴミ持ち帰りは痛いけど。今度は天気のよい日に来てみたい。 雨の中、早朝の十勝の大地を永久ライダーを乗せた愛機ゼファーが東へと駆け抜けていく。 |