北海道ツーリング2005前編
かんのファーム
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「がらがらだなあ」 夕張から富良野に抜けるR452に走る車もほとんどなく実に気持ちよく走った。気温はジーンズ生地のジャンパーを羽織り、腕まくりしてちょうどいいぐらいだ。 キタキツネの数が多く、何度も轢きそうになった。ぜんぜんバイクを恐れようとせず、むしろ近づいてくるから始末が悪い。エサをやる観光客が居るのだろうか。そんなことをしてもキツネにとって百害あって一利なし。 |
キタキツネを道路で見かけたら石をぶつけて追い払った方がためになる。人間に餌付けされたキツネは絶対に長生きできない。交通事故に遭う確率が高いし、自分でエサをとる気力も失せ病で死んでいくだけだ。 上富良野入りし、この冬、自分が辿った道を確かめる。しかし、雪で埋まった歩道が通行不能。よくぞ本線を2時間も歩いたもんだ。我ながら無謀。なんて考えながらクリックアート美術館を右折して「かみふらの道楽館」へ到着。明日から連続するキャンプツーリングに備え、ダッチオーブン料理で鋭気を養うつもりだ。 |
8ヶ月ぶりに会うソットーさんは、とても元気そうだった。挨拶もそこそこにさっそく中へ入り勝手にキッチンからグラスを取り出し、ビールを注いだ(一杯5百円を箱に入れるシステム)。美味い。グイグイと飲む。たまんねえなあ。 「仕込が終わったら俺も飲むから待っててね」 ソットーさんは忙しそうにくるくると立ち働いていた。 今夜のダッチ料理はなんだろう?楽しみだ。 |
先客がおられたようだ。お風呂からあがったばかりの「けいこさん」もビールをキュッと飲んでいた。彼女はバイク以外の趣味が登山。これはいろいろ教えてもらいたいところだ。「やっぱ山でしょう」というサイトを運営されているそうだ。 旦那さんもおられるそうだが、特に反対もされることなく明日まで北海道に滞在するとのこと。俺も女房持ちだがお互い理解のある相方に恵まれたことに乾杯したい気分になった。 |
今夜のメニューはダッチオーブンで焼いた餃子パーティ。凄い量の餃子が次々焼きあがってくる。ルポライターをされているというサトウさんも到着したが、4人で食べ切れるのだろうか。 その他、やっこ、トマトスライス、トマトのリゾット詰め、ボリューム満点だ。実は冬に道楽館に5連泊したとき、帰りにはベルトの穴が2つもずれるほど肥えてしまった。それほど料理が多い。 |
腹も一杯。心地よく酔いもまわって来た頃、女性ふたり登場。ひとりはヘルパーさん。もうひとりは「羊の詩」のなおさんじゃねえか。 『よう、なおさん、久しぶりじゃねえかあ〜』 なおさんもニコっと笑った。 「札幌までツーリングしてね、美味しいケーキ食べて来たの」 バイキングだったらしく、爆食してきたみたい? そして延々と飲み会は続く・・・ なおさんが作ってきた鶏料理をつまみながら珈琲酎をガブガブ飲んだ。いや〜フニャフニャに酔ってきたぞ。 実は最近、うちの女房が俺の読み物にようやくハマり、実によく目を通している。そして「冬の北海道の旅」を読んで 「あなたの北海道の愛人って、なおさんという人だったのね。なるほど、あなた好みだわ」 各の如く嫌疑をかけられた始末だ。 『違う。こっ、この方は、道楽館の隣の宿の方で、うちのサイトをよく読んでくださる有難い方なのだ。料理も美味いし』 俺は首を絞められた。妻は普通の女性の2倍の腕力があり、力自慢の俺と腕相撲ではいい勝負をする。 「わたしの料理が不味くて悪かったわねえ」 殺されると思った(汗) 「で、好きなの?」 妻は阿修羅の形相になっていた。 『つまり、ラブではなく、ライクだ』 俺は苦しい息の中で叫んだ。 そしてまたドメスティックバイオレンス? 標津のホクレンのオリジナル旗の話になった。 「わたしね、あの旗がどうしても欲しいの。今度、日帰りツーリングで取りに行くの」 なおさんがボソッと言う。 『ちょっと待てよ。標津って遠いよ。上富良野から片道8時間はかかる。となると往復16時間だ』 北海道で夜間の長時間ツーリングは危険だ。 「標津って遠いですよ。ここです」 サトウさんが壁に貼られている地図へ指を差した。 「でも旗を取りに行くもん」 なおさんの意志は固いようだ。 『そこに行くには往復3日間は必要だ』 俺は諭すように言った。でもしゃあない。標津付近を通ったときにオリジナルフラッグを手に入れてくるか。 真夏の上富良野の夜は静かにふけていく。 |
永久ライダーステッカーを持つ悠さん |
翌朝の朝食はダッチオーブンの梅粥だ。二日酔いの朝には、一番いい。みんなで美味しく食べた。 ヘルパーの悠さんが 「北野さんって、あの永久ライダーのキタノさんですよね。以前から存じていました。できれば永久ライダーステッカーください」 と話しかけてきた。笑顔が素敵で美しい人でした。昨夜は酔って話しに夢中になり、あまり印象が残ってませんでした(すんません) |
「うちの旦那に北野さんの画像をたくさん撮ってこいと言われました」 ニコニコしながら言っていた。しかし、旦那さんもよく長期間家を空けるのを許してくれたね。8月1日にはご自宅のある十和田へお帰りになるそうだ。帰宅されたら寛大な旦那に一杯孝行してやってください。 『俺なんかの画像でよければどうぞ。なら俺にも撮らせてください。”永久ライダーの軌跡”へ掲載してもいいですか』 ちゃっかり画像を撮らせてもらうお願いをする。 「ふふふ、北野さんの低い声って素敵だわ。いいですよ。わたしのこと愛人って書いてもOKです」 うっ、キワドイことを言う人だ。 『それだけは勘弁してください。女房にバレたら、どんな私刑に遭うことか』 なおさんも出てきた。 「だんだか、北野さんと抱擁しそうなシチュエーション」 とか言って手を広げてるし。 なんだ?この雰囲気は? 「不倫現場の抱擁シーン、デジカメで撮りますか」 悠さんが言ってるし。 『本当に勘弁してください』 なんだか分かんないけど、バイクに跨った画像をみんなに撮られた。 「キャンプに疲れてきたら、後半にでも寄るといいよ」 とソットーさんが言う。俺は大きく頷きアクセルを挙げた。 晴天のカミフの丘へ吹く風は、とても爽やかで心地よい。ちなみに俺は常に硬派で清廉潔白なヨッパライダー・・・ いっ、いや、北のサムライだ。 しかし、人跡未踏「知床岬踏破」を目前に控えた俺のこの緊張感のなさはなんなんだ。 徒歩で2泊3日の道なき道の難攻、シリエトク出撃まで、あと7日。 |