北海道ツーリング2004



北炎




知床峠Pでの北野(撮影IWA氏)







 俺、かなりやつれたなあ。

 旅に出る前は、スーツのズボンがきつくて確実に中年肥りの道を邁進していると痛感していた。しかし、思わぬ旅先の病で無駄な肉がほとんど削げ落ちてしまった。

 でも朝食がとれるほど回復したのだからよしとしよう。
 体を流しに露天風呂の奥にある公衆浴場へ向かう。いつもの通り、あまりの熱さに湯船には入れない。洗面器で体を流す程度に留めていると
「どう?熱さは」
 と知らないおっさんが入ってきた。
『かなり熱いですよ』
 と一応警告したがおっさんはドボ〜ン。
「うわあ〜熱っ、帰るわ」
 おっさんは3秒で撤収。俺は思い切り吹き出す。
 さて今日はどうするかな。IWAさんは道東の奥地をまだツーリングしたことがないらしい。
『今日は俺が道東を案内するかあ〜』
 IWA氏は恐縮しながら
「俺は道産子なのに内地の人に案内してもらって面目ないス」
 と語っていた。
『なんもなんも、俺はこのあたりを毎年走りまわっているので知ってて当然なのだよ。まずは神の子池かな』
「神の子池、行ってみたかったんスよ」
 IWAさんの目は爛々と輝いていた。
『マジで泣くくらい感動するよ』
 と俺は応えた。

 いい天気だ。そしてやはり暑い。川湯温泉方面に向けて走り出した。一昨年、遭難しかけたキンムトーへ向かう林道の横を通過する。今でこそ想い出話だが、あの時はもうダメだと思った。

 川湯温泉街はなにか閑散としている感じがするなどと思っているうちに硫黄山の強烈な白煙が見えてきた。そして野上峠を越えて裏摩周湖へ通じるルートへ入った。相変わらず気持ちのよいワィディングが続く。

 見落としがちな神の子池の看板から強烈なダート2キロばかり。キンムトーの惨劇以来、ダートは敬遠していたが久しぶりの悪路を楽しみながらハンドルを捌いた。しかし砂埃が凄い。ゲホゲホ言いながら神の子池駐車場に到着。ここも暑いなあ。 
 神の子池、何年ぶりだろう。いつ訪れても変わらぬ美しいエメラルドグリーンの湧き水が水中で小石を跳ね上げながら噴出している。

 神の子池は周囲220メートルの小さな池だ。水温は常に8度、冬でも凍ることはない。摩周湖の水位が変わらない秘密は伏流水として1日1万2千トンも湧き出しているからだ。オショロコマも悠々と泳いでいた。
 アイヌの人々は、この不思議な池を神様からからの贈りものと名を示し、敬い続けて来たという。

『IWAさん、おーい、IWAさんや』
 IWA氏に声をかけてみた。
「・・・・・・・・・・」
 反応がない。

 あっ、IWAさんの目がアイフルのパパになってるぞ。神の子池の美しさに感動のあまり絶句していたようだ。

 だが、ここで信じられないものが入ってきた。観光バスだ。こんな狭い悪路を突破してついに神の子池にも入って来るようになったのか。なんだか虚しくなってきた。撤収。

 続いて神秘の湖、摩周湖。裏摩周湖展望台。
 裏というだけあって、いまいちマイナーなイメージが強いが外輪山に囲まれた摩周湖の姿を見ることができる。

 しかし、本当に暑い。ふと駐車場の奥を見ると先ほどの観光バスがまた居る。バスが去るまで暫し待って摩周湖の撮影を始めた。

 晴れの摩周湖を見ると出世が遅れるというが一発でばっちりと拝んだIWA氏の将来は?
 中標津周辺の大草原を突っ走り、鮭の街標津へ突入。

 ここでガスが残り僅かとなったのでホクレンで給油した。今さらホクレンの旗に興味もないがJA標津とかかれた水色の旗を勧められた。なっ、なにこの旗?吹き出しながらも珍しいのでゲット(爆)

 羅臼に入った。空気が変わる。つまりかなり涼しい感じに突然なって気持ちがいいぜ。国後島の山肌を見ながら空いたR335を疾走した。実はこのルート、オロロンライン、北太平洋シーサイドラインと並んで北野が北海道で3つの指に挙げるほどお薦めポイントなのだ。

 しかし、腹が空いた。ここは久々に羅臼のまるみ食堂だな。

 俺は迷わず「まるみ定食」をオーダーした。
 ゲッ!なにこのボリューム。以前、いくら丼を頼んで腰を抜かしたことがあったが、この定食の量も半端じゃねえ。

 カニ食べただけで腹いっぱい。そのほか刺身各種。味噌汁はもちろんラーメン丼に鉄砲汁(カニ汁)。病み上がりの俺にはきつ過ぎる。かなり残した。

 ごめんなさい。
 IWAさんは、いくら丼にチャレンジしていたが膨大な量にかなり辛そうな様子だった。

 しかし、本当に近年食が細くなったなあ、俺は。高校生の頃は1日5食くらいとっても足りなかった。大学時代は回転寿司30皿をペロリと平らげて無料サービスになったこともあるくらい大喰らいだった。

 寄る年波には勝てん。
 ゲプッ!

 たっぷたっぷの重たい腹でマシンに跨った。さていよいよ高名な知床横断道路だ。

 峠道を縫うように走ったが結構交通量が多い。斜めに傾いた陽の光が目に沁みる。そしてシフトを足で慌ただしく上下させているうちに標高の高い知床峠パーキングへ到着。

 冷えてるのかなと思っていたがやっぱり暑い。
 羅臼岳の眺めをまったりと楽しみパーキングを後にする。

 ウトロ側へ出てオシンコシンの滝Pで、またも休憩。しかし滝の近くは涼しくて心地よい。

 オシンコシンの滝って毎年来ているがきちんと撮影したのは初めてのような気がする。人が少ないといいロケーションになると思う。
 夕刻、和琴に帰ってきた。

 こっ、これはオーロラか?今日の夕焼けもまた昨日と違った雰囲気が漂い息を飲むほど綺麗だ。美しい夕焼けを拝みながらIWAさんと杯を重ねる。酒が実に美味く感じる。

 しかし、暫くすると・・・

 思いっきり雨になるし。とにかくテントへ避難。
 テントの中でも結構飲んだ。そしてIWA氏は絶好調に酔ってきた。
「キタノさんの読み物を楽しみにしている人が多いんですよ。俺もそのひとりだし」
 IWAさん節が始まった。
「最近の文章より以前の方がおもしろかったっス。頑張っていい作品を描いてください」
 こうなるとIWAさんトークはエンドレスになってくる。
「真夏の夜の夢みたいな作品を期待してますよ」

 実は「真夏の夜の夢」、自分では稚拙なストーリーだと思っていたのだが、自力型の旅を理解できる皆様には楽しんでいただけたようだ。帰りのフェリーでも「キタノさんですか?」と見知らぬライダーから声をかけられる。

 彼は「真夏の夜の夢」へ本当に感銘したそうだ。そして思い切ってキャンプメインの北海道ツーリングを決行してみたという嬉しい言葉を頂戴する。ちなみに彼のHNは「SOKU」氏。これがご縁で時々うちのBBSへの投稿もいただいている。

 IWA氏にいたっては「真夏の夜の夢」のストーリーの舞台となる判官館森林公園キャンプ場へまで野営しに行くほどの熱心な入れ込み方だった。

 とにかくIWAさん、俺はこれからもたくさん旅して人に読ませるストーリーを頑張って描いていくわ。所詮、俺はプロの物書きではない。いい読み物は自分の足で稼がないと描けない。机上の知識ではなく自らの体験がないとダメだ。つまり体を張った読み物が永久ライダーHPの醍醐味となってくる。俺の持論である。

 シュラフに入ったのは、よく覚えてないが午前様になってからだと思う。

 屈斜路湖の優しい波の響きが耳元にずっとこだましていた。




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