北海道ツーリング2004



北炎




静内温泉キャンプ場







「熱波だな」
 俺は思わずつぶやいていた。

 圧倒的な暑さにクラクラしながらも過積載のゼファーに跨った。北だ。北に帰らねば俺の1年の元気印は得られんのだ。

「パパ、バイバイ」
 女房や子供から手を振られる。
『おう、8日間ばかり空けるが後はよきにはからえ!』
 しかし、今年の渡道期間の短きことよ。休みの合い間に仕事が入っているのでこれが俺の捻出できる休暇の限界なのだ。正味のキャンプは6泊。時間を有効に活用しながら旅をしないといけねえ。

 長い峠を通り抜けると県境突破だ。そしていよいよ暑くなる。なんと白石では36度を超えていた。

 このあたりで、体の節々、つまり関節や腰痛持ちじゃねえのに背中から腰にかけて微妙な鈍痛がしていた。これが後の事件の序曲になっていたとは、この時は知るよしもない。

 それでも渋滞のR4をキビキビとアクセルワークを駆使しながら仙台市内に突入。いいペースだ。仙台は浜に近いせいか、意外に涼しく感じられた。一陣の風が俺の頬をかすめていく。やがて仙台港へ到着。

 フェリーへ乗り込み、寝台の2階で横になった。懐に忍ばせてあるウイスキーを出して一口飲んでみる。
「うっ、不味い」
 酒が少しも美味しく感じられない。そして、どんどん不快な気分になってきた。俺ほどのヨッパライダーが酒をまるで受けつけないとは?なにかが変だ?そして軽く寝入ってしまった。

 起きねば。実は、うちのサイトの読者の方から同じ便になるとメールを頂戴していた。是非、一杯ということで。ベッドから気力で這い出したが、どうにも具合がよくない。

 21時に売店近くで待ち合わせとしてある。気持ちが悪い。窓から暗い外の海を拝みながら懸命に不快感と闘っていた。すると明らかに人探しをしているような人物を見つけたのでこちらから声をかけた。

『キ、キタノですが』

「いや〜、わざわざすいません。S彦です」
 真面目そうな青年(年齢がいまひとつつかめませんでしたので、失礼があったらお赦しを)が言葉を返してくれた。そしていくつか質問を受けるが俺の頭は既に朦朧としている。なにをどう答えたのか覚えてはいない。

 そして
『すいません。今夜は体調が悪いのでこのへんで』
 俺はS氏へ早々にいとまを請うかたちとなった。

 S氏、俺なんかでも会うの楽しみにしていたろうに申し訳ない。どうにも気分が優れなかった次第です。
「いいんですよ。でも北野さんて意外と普通の方なんですね」
 と別れ際に言っていた。しかし、実は普通の方の10分の1くらい弱ってました(笑)

 ベッドに戻り、すぐに眠りに落ちるが、何度も目覚める。へんな夢を見て嫌な寝汗が、たんびに噴き出していた。

 ぐったりとベッドから這い出したのは、まだ早朝だった。体全体が熱っぽい。そしてもの凄い虚脱感が全身を覆っている。

 予約していた朝食バイキングもほとんど手をつけずコーヒーだけ飲んだ。かしましい家族連れの子供の大騒ぎにも全然気が行かず、窓から陽光きらめく海をずっと見つめていた。

 どうしちまったんだ俺は・・・・・

 せっかく北海道ツーリングにきたのにこのやる気のなさ。それとも俺は北の大地に飽きちまったのかい?

 やがて下船の案内が放送された。無感動な表情の俺はEデッキへ降り、流れのままにマシンに跨り苫小牧港へ上陸。

 しかし、バイクを操縦したくない。横になりたい。倦怠感と戦い抜き、えーいという無理矢理な気合いで日高道へと突入した。

 空はどこまでも青く風は涼しい。俺はガラガラの日高道を突っ走った。

 当初の計画では富良野方面に出て一気に旭岳野営場に向かう予定だったが、今の体調ではとても無理だ。温泉で休もう。となると静内温泉キャンプ場がいいと判断し、ダラダラと薄曇の太平洋側を北上するのであった。

 静内温泉はいかにも効能がありそうな黄色く濁った源泉だった。俺は体を暖める程度に留め、休憩室に戻り横になった。そして爆睡。絶対に俺のバディは変だ。

 寝てばかりもいられんので、奥のキャンプ場でテント設営。さっそく寝袋にもぐりこみ浅い眠りにつく。常連なのか?ヌシらしきライダー連中が夜中まで騒いだり、バイクの乗り出しを繰り返していた。いつもなら一発で黙らせるのだが、気力なし。また寝る・・・

 翌朝、かなり早くに目覚めるが体調はやはり悪い。家に帰りたい。女房子供が恋しい。本当に弱気だ。俺の体は確実にむしばまれているようだ。旅に出て、こんなにマイナス思考になった試しはない。

 えーい。オフェンスだ。病は気から。とりあえず和琴、俺のベース基地「和琴湖畔キャンプ場」で露天風呂に浸かればなんとかなるはずだ。強引に気持ちを高ぶらせながらパッキングを済ませ出発。

 霧の中を、未だかつてないくらい弱っちい永久ライダーがけなげに和琴へ機首を定め走りだした。

 こんなスタートで、どうなっちまうんだ?俺の旅の軌跡は??
 





静内温泉



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