第5章 菅野温泉

 

 

 もとのライダーに戻って岩尾別YHを出発しても特に何の予定もない。とりあえず知床横断道路に出て知床峠P近くのまだ行ったことのない羅臼湖に行って見よう。たぶんパーキングからそう遠くないだろう。知床横断道路に入るとかなりガスってきたぞ。

 ゼファーを停め、入口の入林届けに記入し痛めた足を引きずるように歩いた。筋肉痛で体のあちこちも痛い。笹藪の漕ぎ、登りを越えると見えてきたぞ。何だ本当にすぐそこじゃないか。ところが一の沼って標識があった。ありゃ?その後、木道を延々と歩いて、また笹の中を黙々と歩いて、野を越え山を越え、やっと見えた四の沼、今度こそは大きいぞ羅臼湖だ。ところが五の沼だった。
足が痛いよう〜(T_T)


 五の沼を越え、長い木道を歩いていると人影と湖らしきものが見えた。羅臼湖だ。かなり霧が出ていて、はっきり見えないのが残念だ。先着していたのは年輩のご夫婦である。ご主人から足痛そうだねと聞かれたので昨日の羅臼岳の経緯を話した。そして奥さんから痛み止めの塗り薬と飲み薬をいただいた。旅先での親切は本当に身にしみる。

 ご夫妻も先日斜里岳に登り、奥さんが足を痛めて通院したそうだ。ご主人は硫黄山に登りたいらしいが奥さんが絶対反対でここに来たそうである。
カメラのシャッターを切って差し上げそこで別れた。復路も足を引きずるようにしてパーキングに戻る。ペースが遅かったせいか所要時間往復3時間もかかってしまった。


 羅臼に入ると小雨が降ってきた。お昼ご飯は以前から噂を訊いていたまるみ食堂にしよう。カッパに着替えるのもそこまで我慢する。民宿まるみと間違える人が多いそうだが、そことはまったく別である。

 まるみ食堂に到着すると結構混んでいた。カウンターに座り迷わずオーダーしたのはイクラ丼だ。しばらく待ち眼にしたものは・・・僕が未だかつてこれほどの味、ボリューム共に充実したイクラ丼を食したことがあるだろうか。無い。あり得ない。大盛り丼にご飯が並々と盛られイクラが惜しげもなく乗っている。ラーメン丼に具が一杯のカニ汁。ひとくち頬ばるとプチプチっとイクラのたまらない食感が広がる。まさに無敵だ。1800円、これでも安いしょ。


 雨が降ったり止んだりの中、国後国道から間道に入り野付国道へ。さらに長いストレートの道道975に入る。つまり開陽台にキャンプするつもりだ。タンデムのカップルライダーが道路脇へ停車していて彼女の方がピースを出してくれた。今度は僕が道路脇で一服していると彼らがピースを出して抜いて行く。そんなことをしているうちに開陽台到着。直後にさっきのカップルライダーがゼファーの横に入ってきた。よく会うなあ。何だかお互い笑ってしまった。

 足を引きずりながら展望台に登った。お〜330度見渡せる。とりあえず自宅に携帯からTELして見る。ここなら間違いなく電波が届くだろう。ところが不在。今まで圏外ばかりだったので自宅に全然連絡してなかった。しかし天候が悪いなあ。星が見えなければここでキャンプする意味がない。最近は観光バスもばんばん入って来るようである。


 まーるく見える大パノラマを眺めていると曇天の空で一カ所だけ明るい部分があった。和琴だ。和琴が僕を呼んでいる。奇跡的に屈斜路湖方面だけは晴れていた。やっぱ和琴でキャンプしよう。撤収。


 開陽台から道道150に入る。しばらく走ると昨年、危うく命を落としかけるほどの荷崩れを起こしたレストラン牧舎付近だ。何となく不安がよぎったので後方の荷物に手をやる。順調に標茶から屈斜路湖に出た。途中、夕飯用のソーセージやアルコールをセイコーマートで購入する。準備万端で和琴キャンプ場に到着した。早速、テントを設営し、この旅初の自炊をした。

 駐輪場に入った時、僕のバイクのタンクに貼られている編集長三隅氏からいただいた旅コミ誌「2X」のステッカー、これを見て近くにいたライダーが話しかけてきた。インターネットのオートバイ関連で拝見したことのある「Camp&Ride」というサイトを管理しているNOBUさんでした。彼と一緒に酒を飲み、翌朝、共に露天風呂奥の温泉に入ることを約束し、就寝した。


8月9日(木) 曇り後雨


 NOBUさんは、和琴を基地に連泊し道東をまわるらしい。ニセコでオフキャンプがある話をすると日程的に行けたら参加するとのこと。僕は、今日どうしよう。菅野温泉近くにキャンプサイトがあったなあ。そこにしよう。和琴レストハウスのおばさんから、必ず通る阿寒湖横断道路は連日雨だからカッパを着て行きなさいと言われたので素直に従うと本当にそこだけ雨が降っていた。R241から足寄、上士幌へ入った。

 携帯に愛媛の高市さんから着信が何度も入っている。彼は、当ホームページ開設当初(1999年秋)にネット上で初めて知り合った北海道ツーリング仲間である。昨年は道東で2晩飲み明かした。今年は残念ながら高市さんの仕事の都合(彼は、7月後半に北海道ツーリング済)でお会いできなかった。

 セイコーマートからようやく高市さんに連絡が取れ、近況を報告して僕の掲示板の管理をお願いする。申し訳ない高市さん。なにせ、ずっと圏外にいるもので。ここから妻にもこの旅初めて連絡を入れる。「クマに食べられたかと思っていた」そうです。


 昼食をとった士幌の中心部の食堂「遊楽」はかなりお薦めだ。ラーメン・豚丼セットが大変旨い。普通の定食屋といった感じで全然期待していなかったので、そのギャップがまた旨さを引き立てる。札幌ラーメンがベースの僕好みの濃厚な飴色の醤油味のラーメン。自家製のタレが絶妙に豚ロースにからむ豚丼。これで750円なのだから良心的だと思う。


 菅野温泉に向かうため実に14年ぶりに士幌〜幕瓜線(現在は国道に昇格しR274)を走行した。北海道ツーリング1987編でも書いた記憶があるが、あまりに凄いので、今回もふれたい。

 この17キロ一直線ロードは、両側に牧場があるだけで、地平線まで道が続いているような錯覚にとらわれる。若干のアップダウンがあるがかなり見通しもよい。路面状況もバッチリだ。これだけ条件が揃えばフルスロットルにしたくなるが、くれぐれも自粛していただきたい。国道になった以上、道警も相当気合いを入れるポイントだろう。



 この直線で気持ちが舞い上がってしまいルートミス。霧の中、菅野温泉ではなく然別湖の方へ迷い込んでしまう。



   9.5キロのダートを悪戦苦闘しながら何とか菅野温泉に辿り着いた。このページ冒頭の写真の通り、ひなびた、歴史ある(明治の末期に発見)温泉宿である。しかし雨がパラついてきた。キャンプする気力が薄れてくる。こんな所に泊まってみるのも素敵ではないか。受付は新館でと書いてあるので旧館の渡り廊下を横切って行って見ると普通の温泉旅館のような鉄筋造りだった。

 泊まりたい旨を話すと料金は1万1千円〜2万1千だって。ひぇ〜、この料金のギャップは何かと聞いたら料理の差だとのこと。もちろん最低料金で結構だと答える。

 旧館は湯治場になっており、そちらは自炊ができてかなりお安いらしいが満室とのこと。新館の方は結構空き部屋があった。部屋に案内されると中もかなり綺麗な間取りになっている。

 夕食は最低ランクのはずだったが、部屋食で二の善まで着いて来たぞ。エゾシカとキノコの鉄板焼き、イワナの塩焼き、ヒメマスのマリネ風、チップ(ヒメマスの刺身)、山菜の天ぷら各種。地のものを活かしたなかなかの料理だ。こんな山の中の宿でマグロの刺身とか出されたらゾッするが、料理にはこだわっているようだ。料理を画像に残そうとしたら、またしても電池切れ。
 


 せっかくここまで来たのだから温泉を堪能しないと。菅野の湯で治らぬ病はないと云われているとか。何と泉質のことなる7つの湯がある。

 不動の湯(56度)大黒の湯(48度)恵比寿の湯(53度)毘沙門の湯(58度)布袋の湯(35度)弁天の湯(42〜45度)寿老の湯(53〜78度)福録の湯(42〜64度)、基本的に混浴だが時間帯により女性専用になる湯もあるので、この日はすべてまわれなかった。残りは明朝にしよう。しかし完全に湯あたり状態の僕は早い時間にバタンキュー。


8月10日(金) 晴れ

 快晴だ!じりじりと暑い。やったあ〜、北海道に夏が来た。窓を開けるなり、うれしくなる。朝風呂を浴び、朝食を大部屋でおいしくいただき出発。防寒着やカッパなしでバイクに乗れるのって、この旅初めてじゃないかなあ。駐車場で出発の準備をしているご夫婦ライダーに「今日は、どちらをまわられるのですか」と聞かれたので『何も決めてません』って答えたら爆笑された。

 平成のドン・キホーテを自負する永久ライダーは土煙をもうもうとあげならは菅野温泉から去っていくのであった。