第1章 しばれる大地

 

8月1日(水) 雨

 今年は、仕事が忙しく恒例の北海道ツーリングを一時、断念しようかとも考えていた。だが、7月中馬車馬の如く働き何とか2週間ほどの日程をつくるのに成功する。もちろんソロツーリングにするつもりだ。今年も男のメロン、も、もとい男のロマン追求の都合?で妻子は置いていくキタノなのだ。

 この日、心ここにあらずのキタノは、何とか午前中で仕事を切りあげ帰宅。前日までに周到に準備した荷物をパッキングし、あたふたしながら14:00頃出発するのであった。

 今回は知床で山に入るつもりなので何かあったら骨はオホーツクに捨ててくれれば本望。「オホーツクに消ゆ」と妻に言い残したら怒られた。せめてヨッシー(1999年の北海道ツーリングに同行した家来)さんがいてくれればと妻は愚痴るが、彼は今年度から海外協力隊で「ブルガリアに消ゆ」。それにヨッシーへロングツーリングの醍醐味を教えたのはこの僕だ!
 

 雨の中、仙台港までひた走り18時頃、無事フェリーに乗船。途中で「coco壱」に寄り、激辛カレーを賞味したので腹は作ってある。さっそくお風呂で汗を流し、ナイトキャップを軽く済ませB寝台にて爆睡した・・・つもりが。

 夜中にトイレに何度か起きた・・・つーか2段ベットの2階って苦手なんだなあ〜。翌日ちょっと朝寝坊将軍となる。

8月2日(木) 曇

 やや寝不足気味の僕は目をこすりながらレストランに向かう。JTBへフェリーのチケット購入を依頼したら、嬉しいことに朝食バイキングの食券がついてきた。船内レストランはたいへん混みあっている。そんな中、優雅に愛を語り合いながら?ブレックファーストをとっているアベックあり。だんらんしながら楽しそうに食事している家族連れもあり。そしてゴーストバスターズの如く食べまくるキタノの姿もあったりするのだった。

 食べ過ぎの反動かトイレが近くなる。慌ててトイレに駆け込み、無事用を済ませたが何と紙が無い。信じられん。でもウエストポーチにはしっかりテッシュが入っておりましたぞ。今までUPできない内容があるほどの衝撃的な旅の経歴からか?自己防衛本能がおのずと身についているようだ。

 11時過ぎ、予定より15分ほど遅れ苫小牧到着。勢い勇んで上陸し、駐車場でパッキングを確認していると女性ライダー3人組からカメラのシャッターを押すよう依頼を受ける。その直後、男性2人が乗る四駆のクルマが現れ荷物を積み込んでいた。なるほどサバンナを走るみたいに搬送車付きなのね。人それぞれ自由な旅だ。ただ旅人キタノは、旅の語源通り「トラブル」、つまり苦労があって旅の醍醐味や達成感を味わえると確信している(僕の勝手な解釈です)。

 今年は、どこをどうまわるかなど少しも考えていないキタノは、何となく2年ぶりに襟裳岬方面へルートをとってみた。走行していると何か変だぞ。昨年まではこの時期Tシャツでも楽勝なはずだった。今年は冷えるという情報もあるのでTシャツの上に薄手のジャンパーをはおっているが寒すぎるぞ。どうなっているのだ。念のため持参した厚手の長袖シャツも着込んだがそれでも怖ろしく寒い。鵡川のドライブインにて480円の味噌ラーメンの看板あり。つられてオーダーすると体が冷えているせいか美味い。スープも全部、飲み干した。

 静内付近で首筋にハチが当たった。こ、今年もか。(^^;)毎回ご愛読していただいている皆様ならご存じのはず、一昨年は利尻とオロロンラインでハチが首筋から侵入し腹部を何ヶ所も刺されケンシロウと同じ北斗七星の傷跡を残してくれた。昨年はオホーツク国道で腕の内側にスズメバチがとまり、思いきり刺されるなど過去の凄惨な旅の歴史がこのサイトの随所に綴られている。

 しかし、自己防衛本能というか学習効果というべきか首筋にはしっかりバンダナが巻かれておりました。思い知ったか!ハチを無事撃墜?

 静内町内のホクレンで給油していると何とヒーターが炊かれていた。やっぱ異常気象なんだなあ〜

 浦河のセイコーマートで今夜のアルコール類などを調達し、ついでに服装も正しているとジャンパーとシャツの間からハチの死骸がポロリと落ちてきおった。一昨年、僕の腹に北斗七星の傷跡をつけていただきやがったハチと同じ種類だ。やっぱり服の中に居たのね。厚着に救われる。ハチはクマンバチというよりもっと小柄な何という種類だろう。刺されるとえらい腫れる。以降体裁を気にせず、バンダナの上にもタオルを巻くようにした。

 襟裳岬付近の百人浜オートキャンプ場は綺麗で低料金のよいキャンプサイトである。一昨年、ヨッシーと一緒にテントを張ったこともあった。しかし噂によると霊感の強い人は泊まらない方が・・・僕は特に霊感体質ではないが、万が一にも恐怖体験をしたくないなあ。そこで岬手前から天馬街道に入り豊似への峠越えをすることにした。

 峠は霧だ。視界が非常に悪い。上杵臼駐車場でトイレ休憩をとる。道内最長の野塚トンネルは4232mだ。中に突入するとさらに寒い。すれ違うバイクや車もない。しかし寂し過ぎるぞ、この街道。人気のない街道を駆け抜け何とか豊似へ出た。

 ここから一番近いキャンプ場は、忠類村の晩成温泉キャンプ場だ。とほ宿セキレイ館付近から海岸の方へ右折し、しばらく走ると保養所発見。駐車場にゼファーイレブンを停めボーっとしていた。天気は曇天。今にも泣き出しそうな夕方の空だが何とかキャンプできるだろう。かなり冷えるけど。しばらくするとゼファー750に乗るライダーが隣に停車した。彼は、宮城のコゴシさんという方で一緒にキャンプの申し込みをした。ちなみにここのレストハウスのチャーシュー麺が凄く美味いという情報があった。まあまあだけど「凄く美味い」という表現はちょっと大袈裟だな。

 温泉は、茶色の適温のいい湯だ。しばれた体が温まるなあ。

 キャンプ場は、ここからさらに約1キロ程奥にある。海岸沿いの吹きさらしの荒々しいサイトだ。お客は他に3〜4張り、ガラガラだ。でもサイトにバイク乗り入れ可。晴れておればかなりいいキャンプ場ですな。

 コゴシさんは、仙台在住。家も近いので話もはずむ。彼も奥さんを置いて昨年から北海道ツーリングにハマっているらしい。しかしえらい寒いなあ。ガスストーブで湯を沸かした。そしてホットウイスキーにして体を温め、シュラフに入った。8月なのに洒落にならない冷え込みですわ。
 


8月3日(金) 雨

 6:00 寒さで起床。コゴシさんにコーヒーを入れていただいた。テントやシュラフを撤収しているといきなりの雨。ビショビショとなる。どうして悪魔も思いつかないような事態になるの。天気の様子見をしていたコゴシさんも見かねて作業を手伝ってくれた。濡れたシュラフやテントでこの寒い中寝るくらいなら死んだ方がましだ(TT)

 7:00 コゴシさんの見送りを受けながら釧路方面に向け、雨の中出発する。

 コゴシさん、どうもお世話になりました。
 

 雨の中、R336をもくもくと走る。なぜか北海道を駆けているという実感がまだ湧いてこない。途中で雨があがり小康状態となったがこの方がかえって寒いのだ。防寒対策の為、カッパは脱がない。気温摂氏14℃、おいおいいくら北海道とはいえ真夏なんだよ。内地との気温差は20℃ぐらいあるだろう。

 白糠手前で寒さのせいか便意が・・・でもコンビニとか何も見あたらない。もうダメと思ったころでまさに天の配剤、危機一髪、セイコーマート発見。慌てて駆け込む。清潔なWCで思う存分用を足す。お礼に熱い缶コーヒーを購入した。というか真夏に熱い缶コーヒーが販売されているって凄い。

 11時頃、釧路に到着。目的はもちろん和商市場だ。最近、いろいろな噂を耳にするが、やはりカニなどの海産物が安い。そして市場の何とも言えない熱気が好きなんだなぁ〜もちろん弁当屋でご飯だけを購入し、食べきりサイズのウニ、イクラ、カニ等々を乗せてもらい自分だけの海鮮丼、すなわち勝手丼を賞味した。うん旨い。和商市場については、北海道ツーリング1999編で詳しくふれているので興味のある方は、そちらもご覧くだされ。


 和商市場を出るとやはり雨だ。どこに行こうかな。まだ何も考えていない。とりあえず屈斜路湖の和琴半島の方に自然に足が向いてしまうのは何故だろう?
 
 学生時代、人生の岐路に立たされた時に多くの濃い旅人と交流し、励ましたり励まされた想い出の聖地だ。ミツバチ族ブームのピークだった古き良き時代。おっと過去のことばかり振り返るのは永久ライダーらしくない。詳しいことは北海道ツーリング1987編に書かれております。

 R331、雨の釧路湿原の中、壱兵衛を走らせた。途中、シラルトロ湖のパーキングにて、どんよりとした湖面を眺めながらしばし小休止。


 標茶町のホクレンで給油し、中で少し休ませてもらうと昼間から石油ストーブが炊かれていた。ふ、冬だ。びしょびしょのグローブなどをしばらく乾かす。暖かいストーブの側から本当に離れたくないが、いつまでもこうしてはいられない。泣く泣く弟子屈に向け出発。

 弟子屈に入り、道の駅摩周温泉で今夜の宿泊の検討をする。この雨と低温の中でのキャンプは潔く諦めよう。たまたま居合わせた関西弁の学生さん2名はRH「ミルクハウス」に宿泊するそうだ。人気のライダーハウスである。昨日は1500円で宴会場に泊まれ温泉入り放題の「知床観光ホテル」に宿泊したそうだ。温泉入り放題とはうらやましい。僕はつい先日、YHの会員になっていたので近くの摩周湖YHにTELしてみるとうまく予約がとれた。まだ時間があるのでおふたりさんに別れを告げ、和琴半島に向かう。

 和琴キャンプ場に着くと、雨でもツワモノキャンパーがいくつかテントを張っている。売店の坂梨おばちゃんが、「久しぶりだねえ、今年の寒さは異常だよ」と開口一番言っていた。オーナーのおっさんは「これじゃー商売にならないよ」と嘆いている。やっぱり宿をとっておいてよかった。「天気が良くなったらキャンプしにくるよ」と言い残し、和琴を去る。

 摩周湖YHに向かいがてら、砂を掘ると温泉が湧くという砂湯キャンプ場前を通り、川湯温泉の酒屋で今夜のアルコールを調達する。そして硫黄山から屈斜路摩周湖畔線に入った。つまり摩周湖第三展望台に向けての峠である。霧の為、視界が非常に悪い。もちろん第三展望台から摩周湖は見えなかった。家族連れの函館ナンバーのおとうさんから「ガンバレ、ライダー!」と激励される。「ありがとう!」と答えるとおとうさんは、にっこり笑いながらカローラを発進させ霧の中に消えていった。ヒーター付きのクルマが非常にうらやましい。寒さにぶるぶる震えながら第一展望台を通過し、ようやく摩周湖YHに到着。

 実はYHの宿泊は生まれて初めてである。強制的にミーティングに参加させられ歌や踊りやハンカチ落としゲームのイメージがあり、今まで敬遠していたのだ。ネット上で調べているうちにどうも最近はそんなこともないらしいので今回入会した次第。

 玄関に入るとヘルパーさんが「雨でたいへんでしたね。これでヘルメットをふいてください」と親切にタオルを持ってきてくれた。カウンターで受付をしてくれた人もお若いがとても応対が丁寧で好感が持てる。ビールの自販機もあった。客層も子供からご年輩までそれぞれ。今までYHを著しく誤解しておりました。お詫びと訂正をさせていただきます。

 風呂も24時間使用可。広くていい湯だ。食事は別棟のお洒落なレストランで洋食を数種類の中からセレクト。僕は似合わないけどサーロインステーキをオーダーする。デザートまでついてきた。おいしくいただきました。そして合掌。あれ〜ご馳走様言いながら手を合わせてるの僕だけかい?子供の頃からやっているから当たり前田はプロレスラーと思っていたが・・・。

 部屋は4人部屋だ。千葉のライダースズキさんといろいろ情報交換をする。彼は十勝岳とか旭岳周辺の景色や自然が大好きだそうな。その後同室の学生さん、トンペイ(東北大生)くんとYTBくん相手にヨッパライダー・キタノは、北海道について熱弁をふるう。すいませんねぇ〜おふたりさん。

 彼らは明日オロロンラインに向かうとのこと。そして「オロロンラインは世界最高の道だよ」と言ったらふたりは目を輝かせて聴いていた。後日、彼らはオロロンラインの想像を絶する美しさに猛烈に感動したそうだ。特にトンペイくんは言葉を失い涙を流してしまう。こりゃちょっと薬が効きすぎたかな?でも景色を見て泣くほど感動できる感性を忘れないでもらいたい。そして君たちも北海道病に深くハマってしまったのだ。まあ、とにかくハチに刺されなくてよかった、よかった。

 おっと時間を見ると12時近い。おやすみ!