GW2005




「絶好調!」

 ゼファーはサイクロンの軽妙な排気音をたてながら快調に五色沼を通過した。天候は晴れだがさらに気温は下がってくる。ジーンズ生地のジャンパーだけではかなりつらい。バッグの奥に防寒ジャケットが入っているのだが、過積載のパッキングを解体するのがとても大仕事になるので寒さをひたすら我慢した。

 桧原湖が見えてきた。半年ぶりか。青の湖面に緑の小島が点在する雄大な風景だ。意外に交通量は少なかったが、磐梯高原駅周辺は凄い人手だ。ここから観光遊覧船も出ている。

 さらにマシンを走らせると猫魔ホテルが見えてくる。ここはバブル末期に地元福島の財閥系企業が巨額の資金を投入して営業を開始したが、バブルの崩壊・景気低迷の泥沼化により経営が破綻してしまった。

 暫く人気のない豪奢な施設だけが不気味にそびえ立っていたが、近年、北海道のルスツリゾートを経営する観光会社がここを買い取り、ふたたび火が入った。格安の日帰り温泉プランなどで人気も高まりつつある。

 ちなみにリゾート系に一切興味がない北野だが、北海道のルスツリゾートだけは例外で施設・サービスの充実ぶりが気に入り、2度も宿泊したこともあったりする(もちろんツーリング中ではなく仕事がらみでだが)

 そして「道の駅裏磐梯」へ突入。とにかく全身が冷えている。熱い缶コーヒーを購入し、喉もとから体を暖めた。駐車場はびっちり隙間がないぐらい混み合っていた。他県ナンバーのライダーも多い。なぜか年配者が目立つ。

 コーヒーを飲み干し、煙草を1本吸ってふたたびスロットルをあげるとすぐにママキャンプ場が見えてくる。道路わきへ積み上げられた雪の量がいよいよ多くなってきた頃、ウィンカーを右に点滅させキャンプ場の売店前へ乗りつけエンジンを切った。

 売店内は閑散としている。どうやら管理人夫妻は不在のようだ。店先の長椅子に腰かけ煙草をふかしていると
「管理人さんは30分ぐらい外出してますよ」
 とファミキャンのおかあさん風の人から言われた。
『そうなんですか』
 俺は軽く流すと
「あの予約の電話をいただいた山田さんですよね」
 と訊いてきた。
『いや違います。勝手にテント張ってますから大丈夫です』
 と応えると今度は旦那が出てきて
「おじさんやおばさんは、3時間以上戻らないかも知れませんよ」
 30分から3時間か。夫婦間で大きな開きがあり吹き出してしまう。
「とにかく凄い積雪だったんで、テントを張れる場所が限られています。そことそこと向こうのサイトのあのあたりかな」
 うっ、もっ、もしかして、あんた、俺が一番嫌いな仕切り行為をしてんの?
「案内する?」
 冗談じゃねえ。
『ちょっと自分の目で確認してからにします』
 と言うとようやく静かになった。
 サイト内を歩き回ると本当に豪雪の影響が酷い。バンガロウなどの屋根が折れ曲がっていたり、建物そのものが倒壊していた。

 キャンプサイトもかなり除雪はされているようだが、融雪で湿地帯と化している。これはテントを張る場所がかなり限られてくるだろう。

 俺は他の利用者より一番湖よりに比較的乾いたポイントを見つけたのでそこへ幕営することにした。
 →画像の黄色いテントの前は雪でグシャグシャだ。その先の地点だ。

 マシンから膨大な荷物を降ろし、幕営ポイントまでポーターのように歩いていると
「あっ、売店脇の一輪車使ってよ。その方が楽だよ」
 さっきの旦那だ。
『そうですね』
 俺は複雑な顔で笑った。別にムッとしてないしぃ・・・
 足元にまだ湿気は残るが参天とコットなら問題あるまい。コツコツと設営作業に没頭した。すると今まで設営したなかで一番六角形へ綺麗に張れたかな。出来映えに満足。さらに焚き火台、テーブル、ランタン、ガスバーナー、その他必要諸道具も次々に組み立て完了。

 炭はバーナーで2,3個直接網であぶり種火をつくった。そして焚き火台の中に炭床を落とし、ユニフレームの火熾し棒へ息をふうふう吹きかけた。
 焚き火台の木炭が完全に燃え上がった頃
「いらっしゃい。お久しぶり北野さん」
 管理人のおじさんの声だ。
『こんちは。今年もお世話になります。今、受付をしに行きますね』
 と言うとおじさんは相変わらず人のよさげな笑顔で頷いてくれた。

 売店に行くとおばさんが出てきて
「あら北野さん、どうもお久しぶり。とにかく今年は雪が多くてねえ。昨日まではほとんどテントサイトも雪に埋まっていたの。でもお客さんたちが一生懸命スコップで雪を掘り出してくれて。なんとかこれだけ地面が見えるようになり使えるようになったの。とてもおじさんやおばさんだけでは間に合わなかったわ」
 ということは、さっきなんだかヌシっぽい感じがしたあのファミキャンのご夫妻たちもキャンプ場の普及に尽力していたのか。仕切り屋みたいに思ってしまい失礼しました。

「今年も神奈川とか東京、遠くは北海道の人まで集まるキャンプ企画するのかい。みんな元気かね」
『もし、大きなキャンプがあるときはよろしくお願いします』
 このキャンプ場では大きなミーティング等は断っている。そこを無理言って北野主宰のオフ会や大人数のキャンプ会で使わせてもらっているのだ。

 俺はおばさんに土産の「霊山漬け」を手渡し、テントに戻った。しかし、日が傾いてきて本当に冷え込んできた。
 焚き火台の上にスノピのグリルネットをかぶせ、なぜか手に入れた味噌ジンギスカンを炙り出す。しかし、このグリルネットは本当に重宝だ。難点はツーリングライダーが持ち運びするには少し重いところかな。

 ビールをガブガブ飲みながら味噌ジンギスカンを食べる。実に美味い。炭火の側なんでかなり寒さもやわらげることができる。
 ビールの後は焼酎に切り替える。もちろん「道の駅つちゆ」で手に入れた梅干で割るつもりだ。

 バーナーでお湯を沸かし、焼酎の梅割りをつくって飲んだ。こりゃ、なまらうめえ〜

 まさに焼酎にぴったりの柔らかさ。無添加の梅干の味も秀逸だ。福島市飯坂、鈴久の「完熟梅干」。最高です。
 いやあ、札幌のAOさんに食べさせてあげたい。キャンプ仲間のAOさんは、女房の実家の梅干でつくる梅割りを喜んで飲んでくれているが、女房の実家の梅など足元にも及びません。

 札幌といえばIWAさんを思い出し、携帯で連絡してみたが留守電。そうかサービス業の彼はまだ仕事か。

 いよいよ、炭も酒も尽きてきた。参天へ入り、シュラフにくるまった。今夜のママキャンのテント数は7張程度だが、ほとんどファミキャンで子どもの泣き声やら騒ぎ声が耐えない。恐らく全員が常連。それでも21時ぐらいには静かになってきた。

 俺もウトウトした頃、携帯がなった。IWAさんだ。
「キタノさんですか。電話をいただいたようで。もしかして寝てました?」
『いやいやウトウトしてただけなんで大丈夫』
 IWAさんに雪の多い裏磐梯の寒さの状況などを語った。そして体調最悪とブログに書いたままキャンプ旅に出てしまったので掲示板に無事ママキャンで野営中と記載いただくよう依頼する。すみませんねえ〜

 そして本格的に爆睡・・・

 ところが・・・

 ドタンバタン・・・ガチャン・・・ガヤガヤガヤ・・・

 深夜にキャンピングカーが入ってきて設営作業で大騒ぎ。完全に目を覚ましてしまった。そのファミキャン集団は一通りの騒ぎを済ませると台風一過のようにピタッと静かになった。

 しかし今度は目が冴えちゃって・・・というより寒過ぎて眠れねえぞ。ちなみに防寒着着用でモンベルのマイナス5度対応のシュラフに入り、さらにシュラフカバーまでつけてる完全防備だ。なのに震えが止まらない。軽く寝てもすぐに寒くて目を覚ます。

 どうやら参天は結露しているようだ。病み上がりなのに大丈夫か。以前ここでマイナス4℃でも楽勝だったのに今夜はいったい何度まで気温が低下しているのか。マジで凍死しそう。

 これは・・・間違いない。放射冷却現象だ。明日の朝を生きて拝めっかなあ?

 裏磐梯、おっ、恐るべしっ!




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