2004.12.22 〜 2005.1.3



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「tettさんの白い車が見えないなあ。ライトをつけないと吹雪と同化しちゃって危ないですね」
 としさんが運転しながら呟いていた。

 午後は、地元tettさんの案内で旭川ラーメンを食べに行く計画へ便乗させていただいたのだ。

 俺は道楽館へ連泊するとしさんの車の助手席に座っていた。
 しかし、凄まじい吹雪になってきたぞ。途中、事故車両を横目にしながら大荒れのR237を旭川へ向かう。↑の画像では前方にtettさんの車が走行しているのだが、時折、まったく肉眼では確認できない場面があった。

 時間にして1時間半近く?ぐらいかけて旭川市街へ入った。ラーメン屋の名前は「橙や」だ。出がけにとしさんはナビへインプットしていたようだが微妙にルートがずれている。他にも系列店があるらしく旭山動物園の方角へと先導のtettさん車は進んでいった。

 雪が上がり薄日が差してきた頃、「橙や」駐車場到着。店に入る前に一応メニューを確認した。
『tettさん、橙やのお勧めメニューはなんですか?』
 彼は躊躇わず
「橙味噌か梅塩トンコツです」
 きっぱりと言い切った。
「あとね、ロースは脂っ濃いから、チャーシュー麺にするなら肩ロースの方が美味しいよ」
 さすが地元だ。

 店は13時を過ぎているにも関わらず混み合っていて、暫しの順番待ちの後、テーブル席へと案内された。tettさんは「梅塩トンコツの肩ロースチャーシュー麺」。としさんと俺は「橙味噌ダブルチャーシュー麺」にした。ちなみにダブルチャーシュー麺はロースと肩ロースの2種類が乗るらしい。

 そして恐るべきラーメンが運ばれてきた。

 うっ、このボリュームはなんだ?

 考えてみれば今朝も道楽館で朝ごはんをたらふく平らげていたのだ。
 なのにこのダブルチャーシューの量といったらもう。とにかくガツガツとガブリつく。麺に辿り着くまで焼豚で腹いっぱいだ。なぜか肩ロースチャーシューにしたはずのtettさんの「梅塩トンコツ」もダブルになっていて苦しそう。

 彼はついにチャーシュー1枚を残してしまう。俺もスープまでは飲み干せずリタイヤ。しかし、さすが3人中一番ご立派な体格のとしさんはスープの最後の一滴まで飲み干し、完食。
 tettさんとは、ここ「橙や」で別れた。気のいい、親切な男だった。

 そして帰り道、としさんから、
「ケンメリーの木でも寄りますか」
 という話があり美瑛の山間部へ。

 農道のような道を暫し走ると「ケンメリーの木」が。

 俺は、富良野・美瑛についてはあまり詳しくはない。
 どちらかというとこのあたりは北海道ツーリングの通過点のエリアだった。でも「ケンメリーの木」、真冬のこの時期にひっそりと立っている雰囲気はインパクトがある。

 本当は、周囲にたくさんの同じ種類の木がたくさんあったのではなかろうか。1本だけ、伐採から逃れ生き残ってしまった・・・

 俺はそんなオーラを激しく感じていたし、日本全国にも似たような経緯の木があるだろう。でも美瑛の丘から感じるなにかは言葉では言い尽くせない哀愁が漂っていた。

 さすがに絵にはなっている。夕暮れに映える光景は幻想的な雰囲気を醸し出していた。
 続いて「哲学の木」・・・

 なぜだ。「ケンメリーの木」とおなじように哀しい負のオーラばかりを感じる。

 ドラマ「北の国から」ファンのわりには、富良野・美瑛付近にキャンプはしても深入りをせず、サロベツや宗谷・礼文へと走ってしまう。それは俺のなかの漠然とした自然へ対する不条理のようなものが存在し、その矛盾が遠因になっているのか。
 凄いインパクトだが、俺は世間一般のそれとは違う匂いを微妙に感じていた。

 長い間、美瑛に感じていたわだかまり。俗化され過ぎている。

「人間は自然に打ち勝ち、克服するものなんです。人間が造ったからものだからこそ美しいのです」
 以前、美瑛の丘を見て痛く感動したある若者が俺に言った。それも一理はあるかも知れない。

 俺は
『人間は自然との調和だ』
 と切り返した。

 自然を壊せば必ず反動が来る。絶滅する生物もある。俺が子供の頃、あんなにたくさんいたメダカはどこに行ったのだろう。

 考えの違いなんで、押しつけ的なつもりはない。ただ「島風」のなかで、ヨウスケがいみじくも語った言葉が俺の考えを集約している。

「でもね、キタノさん、どんなに経験や技術があっても所詮人間の微々たる力で大自然には勝てません」

 人間の感性はもちろん自由だが、人間の手の入らない自然を追い続けて旅する北野の感性とのギャップ。その根幹をなすものが見えたような気がした。

 つまり本物の自然ではない。カタチだけ残されたもの。不本意ながら1人だけ生き延びてしまった。生かされてしまった。そして見世物、観光ポイントに成り果てた・・・

 カタチだけの風景。

 その哀しみ?のようなものへ直接触れた気がする。どうも霧立峠で「ヨシエ」と別れて以来、いろいろな感覚が妙に鋭くなってきているようだ?

 そして、その哀愁が強烈に発散し、逆にこれだけの光彩を放っているのか?

 逆もまた真なり。

 つい柄にもなく詩的になってしまったが、ある種の複雑な感銘を受けたのは事実だ。
 道楽館へ戻った。今夜のお客さんは東京と旭川からダッチオーブン料理を求めて来たという男性2名、女性1名のグループだった。

 そして、今夜の夕食は豪華絢爛。スタッフドチキンの他にタラバガニ登場。

 ダッチオーブン鍋はカニの旨味を逃すことなく蒸し、美味しく仕上げることができる。  
 続いて焼きりんご。

 芯をスプーンでくり抜き、ダッチオーブンの底にアルミホイルを敷いてから並べる。

 りんごの穴には、バターとシナモンスティックを刺しこむ。さらに砂糖と蜂蜜を入れ、ラム酒をたらす。

 どうやら下火だけでも上手くいくらしい。
 そして完成は左画像の通り。

 ソットーさんはバニラアイスを添えた。すると豪華ホテルでのディナーのデザートよりも美味しく感じた。
 
 3人さんも大喜び。

 このなかの旭川の男性は、プロのカメラマンをされているとか。寡黙ながら実直な口振りが印象に残った。
 一番料理に喜んでいた東京の彼女は、ダッチオーブン鍋を購入してダッチオーブン料理を実践されるとのこと。

 俺もダッチオーブン鍋が無性に欲しくなった。

 外は相変わらず雪だ。

 ということで今夜もヘロヘロに酔っていくのだった。



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