2004.12.22 〜 2005.1.3











 ホテルを出ると凄い積雪だ。街が雪に埋まっている。

 何年か前の夏、いつの日か冬の旭川を訪ねてみたいと思ったことがあった。まさか本当に冬の旭川を旅しているとは・・・

 ということで、特に時間に追われる旅ではない。雪の旭川をもう少し散策することにした。
 さて、どこに行こう。しばし思案する。冬の常盤公園なんていうのもおもしろいかもしれない。昨夜の旭川平和通買物公園をひたすら歩き途中で左折した。旭川も計画都市らしく碁盤の目のような街割りがなされている。それにしても人影がない。こんな雪のなかを好んで歩いている俺の方がどうかしているのか。
 ズブズブと防水防寒ブーツが雪のなかに音をたてて沈んでいく。しかし、本当に寒い。常盤公園ってどの辺だ。夏とまったく様相が違うんで、なかなか勘が働かない。

 ようやく常盤公園の裏側の方が見えてきた。雪のなかを結構歩いたので肩で息をしている。

 こっ、これが、あの常盤公園か。あたりまえだが、あの綺麗な花壇は雪で埋まっていた。
 売店も閉まっている。間欠泉みたいに間隔をおいて吹き上げる噴水も止まっている。というか池全体が凍っていた。画像を撮り終え、煙草に火をつけた。おそらくこの雪で煙も景色に同化していることだろう。

 常盤公園は、明治43年開園だ。日本の都市公園100選にも選ばれている。もう少し時期が過ぎると「氷彫刻世界大会」や「あさひかわ雪あかり」が開催され、世界最高峰というレベルの高い作品が出展されるイベントがある。

 煙草を携帯灰皿に落とす頃、水墨画のような風景の誰も居ない公園を後にした。 
 街のなかをトコトコ歩いてると蜂屋だ。知る人ぞ知る旭川の名店だ。新横浜のラー博でなら食べたことがある。しかし、本拠地旭川で目にするのは初めてだ。これは食べるしかないっしょ。

 暖簾をくぐると素朴な感じのする店内だった。まだ開店したばかりで客は俺ひとり。おばちゃんにオーダーを聞かれた。ここは太っ腹でチャーシュー麺大盛りだ。
 比較的早くチャーシュー麺が運ばれてきた。独特のラードの焦げる匂い。なんと大量のアジの煮干をダシにしているという濃厚な魚系の香り。魚系のだめな人は受けつけないだろう。好みの分かれる味だと思うが、俺は素直に美味いと思った。

 考えてみれば朝食もとってないし、体は氷点下20℃のなかを長時間歩きまわり冷えきっている。そういう外的要因もあるかもしれないが実に美味い。ほとんど一気に胃袋に流し込んだ。満足じゃ。食べ終える頃、次々と客が来店しテーブルを埋めていく。満席だ。外にはなんと行列が出来ていた。

 旭川駅から富良野線に乗車。目的地は「かみふらの道楽館」。昨年夏にお世話になったが、夏はキャンプ主体の旅ゆえなかなか利用できない。今年の夏は、とうとうオーナーのソットーさんに会えず仕舞いだった。旅の終盤は道楽館に連泊してダッチオーブン料理を堪能しよう。

 この旅で妙な癖がついていた。電車のボックス席に座るとすぐに爆睡してしまうことだ。約50分間実によく寝た。夏のキャンプでは札幌のAOさんへ睡眠妨害をしてしまったイビキで他の乗客に迷惑をかけなかっただろうか?とにかく上富良野の手前で目を覚ませたことが奇跡だ。
 駅を出て時計を見ると14時だ。まだ早い。ソットーさんに迎えに来てもらうのも恐縮なんで歩くか。おそらくたいして距離もないだろうから楽勝だろう。

 そんな考えはまったく甘かった。富良野国道を歩けども歩けども道楽館へは辿りつかない。歩道が除雪の雪で埋まっているため、本線を歩く。体すれすれで乗用車からの風と雪が吹きつけていく。これじゃあ轢かれて死んじゃうぜ。怖いよ〜
 途中、休憩をとり、重いリュックを降ろした。雪で歩道が消えるなら冬のトホダーは絶対に無理だ。危険過ぎるぞ。しかし、雪の中、車を運転している人からすれば俺の存在は邪魔というかひやひやもんかもしれんが・・・

 煙草を1本吸いダラダラとまた歩き出した。相変わらず至近距離で後ろから車が追い越していく。

 しばらく歩いているとバイク?よろよろとバイクが俺を追い越して行った。

 間違いない。ラッシャーのカブ90だ。ラッシャーは鎌倉の学生で2003年礼文島のキャンプ場で知り合った。以来、北野の弟分として懇意にしている。ラッシャーというニックネームも実は北野が名づけ親だったりもする。

 この冬なんとラッシャーは大晦日に宗谷岬でキャンプし、元旦の宗谷岬で初日の出を拝むという恐ろしいプランを企画していた。冬の北海道ロングツーリング。しかもキャンプ主体で。間違いなく彼は義兄を凌ぐ勇敢な男だ。

 まあ、とりあえず今夜だけはラッシャーと道楽館で待ち合わせをしていたのだ。
 ラッシャーがウィンカーをあげて道路脇にカブを停車させた。相変わらず過積載だ。
「いや〜大きなリュックを担いで歩いている人がいるんで、キタノさんだとすぐにわかりましたよ」
 彼独得の人懐こい笑顔を見せた。
『おう、ラッシャー、久しぶりだな。スパイクタイヤの調子はどうだい?』
「なんか思ったより効かなくて転倒もしちゃいました。後ろに車が居るのに」
『マジか?そりゃ危なかったな』
 ラッシャーのスパイクタイヤ、もう少し劇的な効果があるもんだとばっかり思っていたが、意外に不安定で難渋しているようだ。

「道楽館って、もうすぐですよね」
 かもしれないが、トホダーの俺はそうでもないかもしれない。
『とにかくトリックアート美術館が見えたら右折すればいいんだよな。歩きの俺はとろいから先に行ってろ』
 俺はラッシャーを促しまた歩き出す。

 ようやくトリックアート美術館へ到着。ここでラッシャーが待っていてくれた。道楽館ももうすぐだ。そしてラッシャーとほぼ同時にゴール。冬道を時間にして2時間の道のりを踏破。距離は約10キロ。まあ体力的には楽勝だが、歩道がない冬道の恐怖を充分に体感した。

 ラッシャーのカブのエンジン音でオーナー・ソットー氏も外に出てきた。

『いや〜どうもお久しぶり』
 と俺が手をあげると
「なんだ、電話をもらえれば上富の駅まで迎えにいったのに。携帯も繋がらないし」
 ソットーさんは、わざわざ車を暖機しながら待機していたのだ。

 あっ、そういえば携帯のアドレスも代えたんだっけ。

 道楽館周辺も少し水分が多い雪が激しく舞っていた。



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