2004.12.22 〜 2005.1.3
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釧路駅到着。重い荷物を担ぎながら改札口を出た。外は気温こそ低いがいい天気だ。雪に反射した陽光がひどく目に沁みた。 本日の予定は、釧網本線で川湯温泉に向かうつもりだ。喫煙場で煙草の煙を吹き出しながら、腕時計を見ると電車の発車時刻まで間がある。和商市場で昼食にするか。 凍った路面を滑らないようにゆっくりと歩いた。 |
この時期の和商市場は、もの凄い熱気だ。観光化、俗化され過ぎ。決して安くはないなどといろいろ近年は悪評もたっている。でも俺は和商市場の熱気、品揃えの多さが好きだ。 あちこち物色して目に留まったのが、厚岸産の牡蠣(大)。1個150円ほどだったので、20個ほど購入。宅急便で自宅に送ってもらうことにした。牡蠣は厚岸産が日本一美味いと確信している。 さて、勝手丼。俺のやり方はご飯(中)だけ購入し、イクラ(約150グラムほど)だけドバっとかけてもらう。700円台でボリュームたっぷりのイクラ丼となる。欲張って、あれこれと刺身を乗せ過ぎるから2千円以上かかったとかぼったくられたと愚痴をこぼすハメになるのだ。ちなみに寿司屋で、同じ内容の海鮮丼をオーダーしたら、大変な出費になることだろう。 |
1両だけの電車に乗り込んだ。結構、車内は混んでいたが、なんとか席に座る。 細岡、塘路と耳に馴染んだ駅名を通過してして行く。景色はただただ雪。もの凄い積雪量だ。同じ道東でも海岸部と内陸部では、まったく気候が違う。 電車に揺られているうちにどうしても冬の摩周湖を見たいという衝動にかられてくる。せっかく来たのだからと決断し摩周駅で下車する。 |
ところが摩周湖行のバスは既に出発していた。川湯温泉まで行く電車は4時間ぐらい待たないとダメだ。この間に和琴半島を訪ねてみることも一考したが、早朝にバスが一便出るだけでアクセスが悪過ぎる。JRレンタカーは予約がないと借りれない。民間のレンタカー会社の方は休みだ。まさに四面楚歌。 すると観光案内窓口のおばさんが、タクシーという手もあると教えてくれた。 |
なるほど! さっそく駅前のタクシーに乗り込み、摩周湖と告げた。運転手はおばさん・・・もとい女性ドライバーだった。 「この時期、観光客が少ないんですよ。流氷が来れば網走や紋別方面からのお流れで少しは増えるんですが。お客さんはなんでまた摩周湖なんですか」 なぜって言われても困る。 『冬の摩周湖を見たいだけだ』 「もう少し、時期が過ぎると岸近くから凍っていくんですよ。その頃が最高ですね」 『まあ、この時期しか冬は休めないもんだから』 外の荒涼とした光景を眺めながら呟くと運転手は話題を変えた。 「このあたりは雪がそれほど多くないのですが、この時期にしてはかなり積もりました。雪質も重いので屋根の雪下ろしをしたぐらいです。いつもはさらさらの雪なんで、風で飛ばされるから雪下ろしの必要がないんですよ」 『そうなんですか。ところでやっぱり相当冷えるんですか』 「マイナス20℃とかザラですね」 俺の北海道ツーリングの拠点というべき地がこのあたりだ。夏のいい時期にしか来ないからまったくの別の顔を想像したこともなかった。とにかく道路を走っているというより、氷の上を走行している。レンタカーじゃなくてつくづくよかったと胸を撫で下ろした。 |
タクシーが駐車場へ右折した。思ったより観光客がいるじゃねえか。レストハウスもやってるし。 運転手にそのまま待機してもらい、階段を登りきると・・・ 『うお〜〜〜〜〜ん、まっ摩周湖だあああ』 『ううう、うお〜〜〜〜〜』 思わず狼みたいに遠吠えをしていた。こんな綺麗な湖を見てゲロ吐いている人みたい。 |
周囲の観光客はかなりひいていたと思われるが、そんなことはまったくお構いなし。湖面の鮮やかな蒼と雪の山々の白が絶妙のコントラストを醸し出している。大感激。摩周湖に俺はこれほど寒い冬でも会いに来たぞ。胸のなかから熱いものが次々と込みあげてくる。涙もろい俺の目は多分真っ赤に染まっていたことだろう。 摩周湖は周囲20キロ、最大水深212メートル。まったく川が流れ込まないので水が濁らない。そのため高い透明度を保っている。水温も年間を通して低いため生物がほとんど存在しない(人為的に放流されたヒメマスとそのエサとなるザリガニが少しいる程度)。ぽつんと浮かぶカムイッシュ(中島)もよく見える。この神秘的な湖をアイヌの人々はカムイトー(神の湖)と呼んでいた。 孤高。この表現が一番似合う。世界一の透明度を誇る清らかなる聖水は生命の存在すら赦さない。「霧の摩周湖」。人間の手によって観光地とされても絶対に迎合することなく、霧でその清楚な蒼の美しさを隠すことしばし。まさに深窓の美女だ。 俺は、デジカメを持って走り回り、そっちこっちのアングルで撮影しまくっていた。途中、何回もコケながら。しかし名残りは尽きないがいつまでもタクシーを待たせておくわけにもいかん。 『夏には、また必ず戻ってくる』 俺は、心の中で固く誓いながら階段を降りた。 屈斜路湖摩周湖線を川湯温泉へ向けタクシーは走る。こんなに川湯温泉まで距離があったか。バイクだとあっという間の気がしたが。川湯温泉駅、硫黄山を通過し、やがて温泉街に突入し、バスターミナル付近でタクシーを停めた。 雪が激しく降ってきた。自動ドアが開くと硫黄の香が強く漂っている。メーターに目をやると・・・ ゲッ・・・ 中産階級で莫大な住宅ローンと妻子を抱え、なぜか毎年年収が減っている俺にとっては痛い出費だ。でもこの時期に摩周湖を見れたんだからよしとしよう。運転手に礼を言いながら払うべきものを払った。俺は未だかつて、この金額の半分もタクシー代に投資したことのない貧乏性だ。 その額は・・・ |